ハウスメーカーが全館空調に向いているかどうかを見極めるポイント

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私が住宅を検討した数年前は全館空調といえば三井ホームの「スマートブリーズ」(東芝またはデンソー)か三菱地所ホームの「エアロテック」(三菱)くらいなものでしたが、この頃はさまざまなハウスメーカーが各々の全館空調システムを提供しています。

ざっと調べただけでも以下の商品が見つかりました。

  • トヨタホームの「スマートエアーズ」(デンソー)
  • パナソニックホームズの「エアロハス」
  • 桧家グループの「Z空調」(ダイキン、協立エアテック)
  • 積水ハウスの「エアシーズン」(東芝)
  • 住友林業の「エアドリーム ハイブリッド」

どれも採用すれば快適になるとは思いますが、やはり住宅会社によって向き・不向きはあります。特に、ほとんどのハウスメーカーがシラを切っているのにかかわらず重要なのが、断熱性能気密性能です。

ここでは、全館空調の採用を検討している方に向け、これらの重要性について書いてみたいと思います。また、全館空調の電気代を左右する要因についても紹介します。

個別のハウスメーカーの良し悪しは延べませんが、これを読めば、ハウスメーカーが全館空調に適しているかどうかは少し調べて判断できるようになるはずです。

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全館空調に高断熱が必要な理由

全館空調は家全体を一定の温度に保つシステムなので、当然ながら暖冷房費は高くなります。

そしてその暖冷房費は、断熱性能の影響を強く受けます。断熱性能が優れているほど、住宅と外の間の熱移動が小さくなり、温度を一定にするための暖冷房負荷が小さくなるためです。

なお、住宅の断熱性能は近年の省エネ基準では外皮平均熱貫流率(UA値)で表されますが、比例的に暖房費に影響するのは昔から使われている熱損失係数(Q値)のほうです(どちらも小さいほど高性能)。

おおまかにいって、Q 値が半分になれば全館空調の暖房費も半分になります。冷房費については比例まではしませんが、だいたい高断熱ほど安くはなります。

住宅の断熱性能はハウスメーカーによって意外と差があるので、これについて詳しく紹介します。

参考
空調方式ごとの断熱レベル(Q 値)と暖冷房エネルギーの関係

望ましい断熱性能

まずは、全館空調に望ましい断熱性能について検討してみます。

いくつかのハウスメーカーでも採用されている全館空調システム「PARADIA」を提供しているデンソーソリューションの Q&A を見ると、以下の説明があります。

UA値0.6以下の外皮性能を推奨いたします。
但し、快適性(風量等)および経済性(消費電力量)を考慮した場合の適正値であり、クリアしないと納入できないわけではありません。

UA 値 0.6 以下というと、温暖地の ZEH 基準と同じ断熱レベルになります。ちなみにこれに相当する Q 値は約 2.0 で、国の省エネ基準は UA 値 0.87 以下となっています。

つまり、全館空調を採用するためには基本として ZEH レベルの断熱性能が要求されるわけです。

全館空調を採用するハウスメーカーが最近になって増えたのは、各社が ZEH 対応モデルを開発して全館空調に対応できる住宅が増えたことと関係がありそうです。

最近のハウスメーカーはどこも ZEH 対応モデルを販売していますが、ハウスメーカーによっては標準仕様と ZEH 仕様とで断熱材や窓の仕様が異なるケースがあります。

その場合、断熱レベルをグレードアップしないと全館空調のメリットを受けにくくなります。当然、コストも高くなるのでご注意ください。

また、UA 値については各社が窓の少ないモデルケースでの試算値を公表していますが、実際の住宅は公表値より悪いことがほとんどです。重要なのは、自分の住宅がその断熱性能になるかどうかであり、そこはしっかり確認する必要があります。

一般に、鉄骨より木造の住宅のほうが断熱的には有利です(木は鉄より熱伝導率がずっと小さいため)。

参考
カタログのQ値、UA値は当てにならない
地域別の断熱基準値の一覧

断熱性能が高いと全館空調すら不要になる

参考までに、断熱性能が高ければ高いほど暖房費が安くなるのなら、すごい高断熱にしたらどうなるのか、と考えるかもしれません。

すごい高断熱なハウスメーカーとして有名なところでは、トリプルガラスが標準仕様の「一条工務店」や「スウェーデンハウス」があります。

しかし実は、これらのハウスメーカーでは一般的な全館空調システムは採用していません(一条の全館床暖房や全館さらぽか空調は特殊)。

参考 【一条工務店】全館床暖房のメリット・デメリット。満足度が高い本当の理由

なぜかというと、ルームエアコン 1~2 台で家中の冷暖房を行い、家中の温度差を小さくすることができるからです。すごい高断熱な住宅では、10kW クラスの全館空調は過剰な設備になってしまうのです。

トリプルガラスの窓は高価なものですが、高価な全館空調が不要になると考えると安いものかもしれません。

なお、最近ではペアガラスでも高性能なタイプが現れており、ペアガラスでもエアコンを全館空調のように使用することが可能になってきています。全館空調のように各部屋に直接暖気や冷気を送るわけではないので間取りや室内換気に工夫が必要ですが、条件に合えば低コストに快適な住宅を実現できる方法です。

住宅が高断熱になると全館空調も小さい設備で良くなるため、今後は木造住宅を中心に、より低価格な全館空調システムが増えていくのではないかと期待しています。

参考
全館空調 vs. エアコン(全館空調のメリットが得られる条件)
トリプルガラスへのアップグレードで元は取れるか?
高断熱ほど部屋中の温度差が小さくなる理由【図説】
高断熱ペアガラスでエアコンを連続運転するとどうなるか?【アンケート結果】

全館空調に高気密が必要な理由

次に、ほとんどのハウスメーカーが触れない気密性能と全館空調の関係について書きます。

ほとんどの全館空調システムでは、24時間換気として熱交換型の第一種換気が採用されています。高性能なものでは換気による熱損失を 90% 減らすものもあります。

しかし、第一種換気システムでは住宅内外に圧力差がないため、家のすき間の量に応じて自然に換気が発生します。

まず見ていただきたいのは以下の図です。

鎌田紀彦著『本音のエコハウス』p.111より

相当隙間面積(床面積に対するすき間の割合:以下「C値」)が 5 の住宅において、内外温度差 20 ℃(例:冬の室温20℃、外気0℃)のときの自然換気回数は約 0.4 回/hour もあることがわかります。

現在の住宅で法に定められている 24 時間換気設備の換気回数は 1 時間に 0.5 回であり、たいていはそれ以上となる換気設備が設置されています。

つまり、C値が 5 の住宅では、換気設備をまったく動かさなくても必要な換気量のほとんど(約 8 割)が隙間から自然に換気されることを意味します。

換気回数 0.5 回/h の場合の換気による熱損失は、Q 値に換算すると約 0.4 [W/m2・K] です。本当に 90% の熱交換が行われるのであればそれは 0.04 に削減できます(細かくいうと、熱交換による消費電力の増加も考慮する必要があります)が、C値が 5 の住宅の場合はどうでしょう。

自然換気だけで約 0.32 の熱損失があり、さらに換気設備で 0.04 の熱損失があるので、換気による熱損失の合計は 0.36 以上となります。換気量も無駄に過剰になり、はっきり言って意味がありません。

熱交換型換気の大きなメリットとして室内湿度の保持効果(冬は乾燥を防ぎ、夏は除湿を助ける)がありますが、これについても同様の理由により、気密性能が低ければほとんど期待はできません

一般に高気密といわれる C 値 1 くらいであれば自然換気回数は 0.1 回/h ほどとなり、それでようやく 8 割くらいの室内空気を換気装置で管理できるようになります(さらには局所換気の影響も無視できません…>>詳細)。

結局のところ、熱交換型換気の恩恵を受けるためには、C 値が 1 を切るくらいの気密性能は最低限必要なのです。(ちなみにわが家は 1 を切っていません…)

参考
C値(相当すき間面積)について
第一種換気と第三種換気 – 特徴とコスト、デメリット
第一種換気の実際の換気回数は 0.5 回/h 以上なので弱められる?
除湿能力・コストの比較【エアコン、除湿器、熱交換換気、エコカラット、デシカ】

ハウスメーカーの C 値事情

大手ハウスメーカーのすき間の量(つまり C 値)はどうなのかというと、ほとんどは実測も公表もされていません。

省エネ基準を満たす仕様で住宅を建てると C 値 5 以下相当になるという、あいまいな目安しかわからないのです。

C 値は工法ごとに差があり(参考)、壁全面に構造用合板などを貼る工法ではマシな傾向がありますが、ふつうの鉄骨構造や軸組工法ではすき間が多い傾向にあります。

気密の重要性に気づいてこだわっている会社は、例外なく、気密測定を行って公表しています。

鉄骨ではセキスイハイムやトヨタホームが気密性能を重視していますが、それでも C 値 1 以下には及ばず、スウェーデンハウスや一条工務店のレベルには遠く及びません(セキスイハイムも木造は高気密です)。

測定や公開を行っていないそれ以外の住宅会社は、これより悪いと考えるべきでしょう。

参考
大手ハウスメーカー全社の断熱性能(UA値)比較ランキング【2019】(C値もわかる範囲で掲載しています)
高断熱・高気密に対応するハウスメーカー等のQ値、UA値、C値の一覧

全館空調の電気代を決める要因

全館空調で気になるのは電気代ですが、どんなシステムでも基本的には住宅と設備の性能・仕様によって電気代の大小が決まります。

その電気代は、おおむね以下の数値と比例・反比例の関係にあります。

(電気単価)x(気積)x(熱損失係数)x(内外温度差)/(エネルギー消費効率)

それぞれ見ていきましょう。

電気単価

全館空調の電気契約は、家庭の他の電気契約と同じにする場合と、空調のみ別途で低圧電力として契約する場合とがあります。

まとめる場合の電気料金プランは地域や条件によって異なりますが、プランによって大きく変わってくることがあるのでよく検討することをお勧めします。

低圧電力を採用できる場合、その料金プランは特殊です(東電のケース)。3kW で契約すると月の基本料金が 3 千円以上もかかりますが、1kWh あたりの単価は安いので、消費電力量が多い場合はおトクになります。

参考
全館暖房の時間帯別電気使用量からお得な電気プランを考える
いまさら電力会社を切り替えてみた
全館空調の電気代(2017年1月~12月)

気積

気積とは部屋の空間の体積のことで、だいたい床面積に各階の高さをかけた値になります。

当然ですが、空調を効かせる空間が広ければ広いほど、全館空調の電気代は比例して高くなります。

電気代だけを考えた場合、以下のような仕様はマイナスになります。

  • 吹き抜けがある(同じ延床面積でも気積が大きくなる)
  • 天井高が高い
  • 基礎断熱(床断熱と比べて床下空間の空調も必要になるため)
  • 屋根断熱(天井断熱と比べて屋根裏空間の空調も必要になるため)

参考
基礎断熱 vs. 床断熱 – メリット・デメリットと注意事項

熱損失係数

先ほど暖冷房費に影響するのは UA 値ではなくQ 値だと書きましたが、これについて補足します。

基本的には UA 値が優れている住宅は Q 値も良い(=小さい)のですが、UA値とQ値には違い(詳細はこちら)もあります。

特に注意したい、UA値だけではわからないポイントは以下のとおりです。

  • 壁などの外皮面積が大きい住宅形状(コの字型など)だと熱損失は増える
  • 換気による熱損失を考慮する必要がある(UA 値には含まれない)

断熱性能を上げて熱損失係数を小さくするには、住宅で熱損失の割合が最も高いのは窓からなので、高断熱窓を採用することが最も効果的でコスパのよい方法となります。

参考
UA値が小さいはずなのに光熱費がかかる住宅の特徴 6 つ
断熱性能は窓、壁、換気で決まる(部位別の断熱性能比較)
断熱性能に関する記事一覧

内外温度差

内外温度差とは、室温と外気温との温度差のことです。

全館空調では一日の室温変化を小さくするため、節電は付けたり消したりするのではなく、設定温度の調整によって行うのが基本となります。夏の冷房設定温度を上げ、冬の暖房設定温度を下げれば暖冷房費を節約できます。

参考
全館暖房の誤解と本質【エアコン付けっぱなしは不要?】
全館空調の節電で電気代はどれだけ安くなるか

エネルギー消費効率

これは消費電力に対して何倍の熱量を交換できるかという指標であり、エアコンと同じく COP や APF で表されます。

注意したいのは、この効率は条件によって変わるということです。大きい空調機で定格出力を大幅に下回る運転を続ける場合などは効率が落ちます。

全館空調のように連続的に運転する場合は暖房(冷房)負荷が小さくなるため、設備が過大だと効率まで低下することになってしまいます。適正能力の空調機を選んだり、低出力時のエネルギー消費効率に優れている機種を選べるとよいでしょう。

参考
エネルギー消費効率のCOPとAPF、実態に近いのはどっち?
高断熱住宅に最適なエアコン能力を検討する(全館空調は非効率?)
暖房負荷から必要なエアコン能力(kW)を計算するツール

その他の要因

暖冷房費に影響する要因としてこのほかに、窓から侵入する日射熱と内部発熱の影響もあります。どちらも設計時には注意が必要です。

参考
日射の管理で実現する省エネ住宅
遮熱材が効くところ、効かないところ
夏の日射熱対策のカギは西日にあり。その理由と対策
冷房が効かない原因?内部発熱の影響をワット単位で考える

最後に

そんなわけで、全館空調システムは最近増えていますが、真価を発揮できるハウスメーカーはほとんどない、という悲しい現実を紹介しました。ハウスメーカー各社には、現実離れした広告で夢を見せるのではなく、現実と向き合って改善してもらいたいものです。

ただ最後に全館空調ユーザーとして言っておくと、たとえ真価を発揮できていなくても、いくら初期費用や電気代が高くても、高断熱でない昔の住宅より快適であることは確かです。採用したことに悔いはありません。

それでも、もっと快適な住宅をもっと安く実現できるのであればそうしたかった、というのが現在の本音です。

全館空調に関するまとめ(記事紹介)
全館空調に関する全記事一覧

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