一条工務店を含む多くのハウスメーカーや多くの工務店では床断熱が一般的ですが、高断熱を得意とする住宅会社を中心に、基礎断熱を採用しているところも多くあります。
個人的にはどちらでもよく、施主が注文を付けるよりも住宅会社に任せるのが良いと思うのですが、それぞれの特徴は大きく異なり、基礎断熱には特有の注意点も多いので、その違いなどを書いておきたいと思います。
床断熱と基礎断熱の違い
床断熱と基礎断熱の大きな違いは、基礎のコンクリートまでを室内の温度環境に近づけるかどうかです。
床断熱では床に断熱材を入れ、その下に外気に通じた床下空間があり、その下に基礎があります。このため、基礎のコンクリートは基本的に室内環境とは切り離されています。
一方の基礎断熱では、床に断熱材がなく、床下空間も室内環境とつながって基礎に接しています。断熱材は、主に基礎立ち上がりの面(外側や内側)に施します。
この違いによってどのような差が生じるのでしょうか。
基礎断熱の特徴
基礎は主にコンクリートで構成されており、その下には土や石があります。コンクリートや土の特徴として、熱容量が大きく、温まりにくく冷めにくいという性質があります。洞窟の中を想像すればわかるように、地下の温度は地上と比べて年中安定しています。基礎断熱の住宅の下部もまた、地下と室内双方の温度の影響を受けて安定しています。
温度安定化のメリット
基礎の温度が一定ということは、室温が基礎より低いときは足元から熱を供給し、室温が基礎より高いときは熱を吸収してくれる効果があります。季節ごとでも、日ごとでも、室温の平準化、安定化に貢献するということです。
夏はほんの少し吸熱してくれて涼しいでしょう。冬は日中に日射熱で暖まった状態を夜まで維持しやすいでしょうし、深夜の安い電気料金で暖房をフル活用すれば早朝に切っても寒くならない、という暖房方法もできるでしょう。
冷暖房の使用を控えたときでも快適な状態を保ちやすくなることが期待できます。
ただしその量は、床断熱の木造住宅よりは大きいものの、壁や天井までコンクリートの住宅やマンションと比べると大きくはありません。
また、地熱だけで快適な温度になるわけではないので、冷暖房が必要なことに変わりはありません。地中深くの温度は年中 15 ℃ 前後であり、冬は外気温より暖かいとはいえ、床の温度としては寒いと感じる温度です。夜間も含めて暖房を日常的に使用することで基礎の温度を高く保っていれば快適になりますが、逆に暖房をあまり使わないでいると、床面はすごく冷たくはなくても常にやや冷たく、暖房を付けても暖まりにくい、ということになりかねません。
つまり基礎断熱のメリットを生かすためには、全館暖房ができるくらい高断熱である必要があるということです。高断熱でないのに基礎断熱を採用している住宅もあるので注意が必要です。
熱損失量が大きくてもメリットも大きい
基礎断熱は、冬は暖める必要があります。基礎断熱は床下空間も基礎も暖める必要があるため、室温が同じ場合、床断熱と比べるとトータルの熱損失量は大きくなります。
高断熱を売りにしている住宅会社が多く採用している事実と矛盾するようですが、基礎断熱にはそれを補うメリットもあります。
床下エアコンという経済的で快適な暖房方式を採用できることです。床下エアコンで床下を温めると、通常のエアコンと違って 1F 床面の温度を高くすることができます。体感温度は床面の温度が重要なので、一条工務店の全館床暖房と同様、通常のエアコンより温度を下げたとしても暖かさを実感することができるのです。
同じ室温なら基礎断熱のほうが熱損失量は増えますが、室温を下げられるなら熱損失量は増えません。
設定温度を下げると通常のエアコンより 2F が寒くなるのではと心配になりますが、2F は元々暖まりやすいし、2F は寝室や子供部屋として利用することが多いので温度が低くても問題ないケースが多いようです。
その他のメリット
そのほかにも、基礎断熱では床に配管の穴を開ける必要性が減り、気密を取りやすいというメリットもあります。
また、在来軸組工法の住宅で剛床工法(根太レス工法)を採用していない住宅では、気流止めがきちんと施されないために壁内に床下から冷気流が入り込み、壁内結露(ひいては生物劣化による強度低下)の原因となることがあります。
この問題の対応としては、気流止めをしっかり行うことが基本ですが、基礎断熱であれば床下空間も室温と同じになるため、床下から冷気流が入ることはありません(壁と屋根裏間の気流止めは別途、あるにこしたことはありません)。
基礎断熱のデメリット
そんなわけでメリットのほうが大きいと考えて採用する住宅会社があるわけですが、デメリットもないわけではありません。
- 床断熱より費用がかかること
- 最初の数年はコンクリートから床下、室内に多くの湿気が出るのでその対応(床下の換気、除湿のコストなど)が必要なこと
- シロアリ被害を受けやすいこと
- 床下収納の温度が変わる
などがあります。
特に基礎外断熱では土に近い部分に断熱材を設置し、目視で被害を確認しにくいため、シロアリ被害が深刻になりがちです。メーカーも改良を重ねていて食害を受けにくい発泡系断熱材なども出ていますが、ホウ酸入りの断熱材も食い荒らされるほどなので、劣化も考慮した徹底的な対策と長期の実績を確認しておきたいところです。
きちんとした住宅会社は、そこまでやるかと驚くほどのシロアリ対策を施しているもので、これまでの事例や過去の失敗についても正直に話してくれるはずです。
シロアリ対策に確信が持てなければ、コンクリートの内側に断熱材を配置する基礎内断熱を選択したほうが無難でしょう(ただし蓄熱部分は減ります)。
4 の床下収納については、全館空調などを利用する場合、家中が暖かいため、食料の保管場所として、そこそこに涼しい床下収納は意外と重宝します。基礎断熱の場合、床下収納も室温と同じになるため、こういう使い方はできません。
床断熱も悪くない
ちなみにわが家(三井ホーム)は床断熱です。断熱材の厚みも大したことはありません。
基礎断熱を採用している住宅会社に言わせると床断熱では床面が寒いとなるのでしょうが、そうでもありません。
まず、冬の床下の温度は床断熱の場合でもそれほど低くありません。わが家で測ってみたところ、外気温が 4 度のときに床下空間の温度は 13 度もありました。温度差が小さいなら、たとえ断熱材の熱抵抗値が壁と同じでも熱損失量は小さくなり、床面の温度もより室温に近づくはずです。UA 値や Q 値の計算においても、床断熱は温度差係数として 0.7 倍に評価されています。
また、連続暖房していると、床面の温度は室温よりほんの少し(1 度ないくらい)低いだけです。床面の温度を高くするには、基礎断熱よりも、暖房の連続運転のほうがよほど重要です。もちろん床下エアコンを連続運転する場合や床暖房にはかないませんが、基礎断熱で暖房をあまり使わない場合よりはずっと快適だと思います。
基礎断熱では床下空間を活用できるという意見もありますが、前述のとおり、床断熱の低温の床下収納は食料保存には便利です。
ただし、床断熱では梅雨から夏にかけて床下に結露が発生する可能性もあり、木材にとってはやや過酷な環境になります(関連記事:床断熱工法の床下空間は多湿になる)。
そんなわけで、高断熱と基礎断熱にこだわる実績ある住宅会社では基礎断熱も魅力的だと思いますが、そうでなければ床断熱でいいな、というのが私の意見です。反対に、基礎断熱にこだわっていても断熱レベルが高くない住宅会社や、シロアリ対策に不安が残るような住宅会社では、慎重になったほうがいいかもしれません。
関連記事
▶ 床下エアコンは理想的な暖房方式か?
▶ 「夏涼しく冬暖かい家」の科学(体感温度編)
▶ 発泡プラスチック断熱材の問題点(シロアリ)
▶ 高断熱なのに寒い原因(連続運転と個別間欠運転)
▶ 全館暖房で食料をどこに保存するかという問題と結論
コメント