一条工務店の Q 値計算が正規の方法ではない件 | さとるパパの住宅論

一条工務店の Q 値計算が正規の方法ではない件

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一条工務店の Q 値が良すぎるので、計算が間違っているのではないかという話をよく耳にします。私もロスガードの暖房費節減効果が怪しい件から疑問に感じていたのですが、その疑問の中身が判明しました。

一条工務店による Q 値計算の明細が次のサイトで確認できたからです。

この明細は旧タイプの i-smart の数値なので現在と異なる部分もありますが、問題は換気の熱損失量の計算方法です。ちなみに、現在の省エネ基準で使用される UA 値(外皮平均熱貫流率)では換気は対象外なので無関係です。

熱交換効率が夏は 85% に低下するという、ささいな問題ではありません。

この Q 値の計算では、換気装置(ロスガード)の熱交換率が 90% であることから、換気の熱損失量を通常換気の 10% と見積もっています。

換気による熱損失すべてのうち、90% も回収されるという仮定で計算されているのです。

この熱損失量は、明らかに過小評価です。90% というロスガードの性能表示にウソがあるわけではありません。

『住宅の省エネルギー基準の解説』(次世代省エネルギー基準解説書編集委員会編、2009)によると、熱交換型換気の場合は換気装置の消費電力が高くなる分を考慮して「見かけの換気回数」に換算して熱損失量を計算する必要があるのですが、その計算方法がまったく考慮されていません。いくら熱交換換気で暖房負荷が小さくなっても、その消費電力の増分でエネルギー効率の高いヒートポンプ機器を使って暖房したほうが高効率であれば、熱交換換気の意味がないからです。

ロスガードの消費電力の詳細はわかりませんが、「見かけの換気回数」はおそらく 0.3 回/h 程度、良くて 0.2 回/h 程度になるものと思われます。

Q 値に換算すると、熱交換なしで換気回数 0.5 回/h の熱損失量(換気分)は約 0.4 W/(㎡・K) くらいなので、換気分の熱損失量が 0.1 ~ 0.2 W/(㎡・K) くらい増えることになります。大したことない数値に見えるものの、i-smartII の Q 値が 0.51 と 0.71 とでは、だいぶ異なります。

一般の人が計算して気付かないのは仕方ありませんが、Q 値に詳しい販売棟数第 2 位のハウスメーカーがするミスではありません。

また、全熱交換型換気で熱交換されるのは一部だけという問題があるのですが、これについても一切考慮されていません。これは Q 値の計算上は考慮する必要がないのかもしれませんが、熱交換換気の実際の効果を考えると無視できません。トイレや浴室、キッチンなどではロスガードを経由しない換気が発生し、合計すると相当な量になるのですから。

換気で発生する実際の熱損失は、一条工務店が算出している数値(0.05 W/㎡・K 未満)の数倍はあるでしょう。

一条工務店の断熱性能が優れていることに異論はありません。この一件をもって、他の住宅会社は「一条工務店の Q 値には疑問がある」と批判できても、「うちのほうが断熱性能が高い」とまではなかなか言えないでしょう。カタログ値が美化されている点はどこも同じですし。

しかし、一般的な計算と異なる方法で独自に計算された Q 値に意味はありません。暖房費の試算でも実際とのずれが大きくなるため、Q 値の信頼性を損なう結果すら招きかねません。

Q 値の計算は UA 値が基準となった現在、通常行われるものではありませんが、Q 値を参考にしている消費者もまだまだ多数いらっしゃいます。

一条工務店のサイトには現在も、i-smartII の Q 値は 0.51 W/(㎡・K) であると記載されています。

しかし、故・鵜野日出男氏の 2016 年のブログ記事に気になる記述が見つかります。氏が i-smart と同じトリプル樹脂窓・硬質ウレタン計 190mm の断熱仕様で Q 値を計算したところ、

換気を別にして床・外壁・天井だけで何とQ値が0.52W/㎡・kになってしまった

というのです。

ふつうに考えると、o.51 という数値は現在も正規でない計算方法に基づいて算出されているものと思われます。

もしそうであれば、一条工務店は、公表している Q 値を正しく計算し直し、訂正して謝罪するべきではないでしょうか。

すでに正しく計算しているというのなら、熱損失量の計算の詳細を示していただきたいものです。そうしないと、まじめに Q 値を計算して公表している他の住宅会社が不憫です。

反論があれば、お待ちしております。

参考までに、Q 値の計算の詳細は、Dot プロジェクトが公開している『熱損失係数(Q 値)算定基準』(PDF)で解説されています。換気熱損失量については p.18 を参照してください。

熱交換換気の熱損失については次のサイトでも説明されています。

Q値に関する断熱、換気の基本① 見かけの換気回数 - 新潟 住まい 「緑の家」 天然・自然素材と超高断熱高気密
書きかけ途中ですので後日追記があります。 以前ご紹介しているこの本が、日...

なお、この記事では Q 値計算の詳細が判明したため一条工務店のことを取り上げましたが、熱交換型換気を採用している他のハウスメーカー(アイフルホーム、三井ホームなど)の計算が正しい保証もありません。どのハウスメーカーも細かい計算条件を公表しておらず、カタログ値が実際より美化されているケースが多いためです。

追記:
一条工務店の壁・床・天井に使用されている硬質ウレタンフォームの断熱材について、実際の熱損失は経年変化で大きくなるのではないかという疑問も発生しました(以下詳細)。

硬質ウレタンフォーム断熱材の断熱性能は 25% も劣化する?
一条工務店や FP の家などでは、主な断熱材として硬質ウレタンフォームが採用されています。一条工務店のiシリーズIIでは「A種ウレタンフォーム保温板2種1号」を改良した熱伝導率 0.020 W/m・K の高性能ウレタンフォームを、FP の家...

これは Q 値の公表値には影響しませんが、暖房費に影響する実態としての Q 値は i-smartII でも 1 に近いのではないでしょうか。

コメント

  1. 匿名 より:

    そうですね、それと総合的に見てc値が全棟同じは無いでしょう、全棟機密測定してからの話では無いでしょうか、その点ジョイコスは全棟機密測定が義務なのです。施工者によってかなりのばらつきがあると思われます、それに大工の工賃叩いている以上は疑問符では無いでしょうか、カタログではいくらでも良い数値だせるでしょう、それとウレタンの劣化大手は製造してから多分日にちがたっていると思います、ジョイコスは受注生産なのです。最後に大手ハウスメーカーの値段だったらもっと高性能住宅建築できる地元工務店もあるはずだと思います。カタログ値だけが全てでは無いと思います。どうでしょう。

    • さとるパパ より:

      コメントありがとうございます。ジョイコスのことは詳しくは存じ上げませんが、一条工務店もホームページによると全棟気密測定を行い、基準を満たすことを確認しているようです。ただ、施工の問題を指摘する声もよく聞くので多少のばらつきはあるでしょうし、最近では気密で一条を上回る工務店なども増えてきているように感じます。
      ウレタンフォーム断熱材は最近では劣化対策が改善されているようです(一条で採用しているかは不明です)。いずれにしても数年以内に劣化するのであれば劣化分を考慮した設計を行うべきと思います。
      施主に正直に説明するのが住宅会社の本来のあるべき姿だと思いますが、残念なことに大手のカタログ値が美化されているのは多かれ少なかれどこも同じです。現状では、施主が自分で判断基準を身に付ける必要があります。美化されている分を考慮しても大手ハウスメーカーの中で一条は高性能だと思いますが、「高性能住宅なら一条工務店一択」でもないと思います。一条の仕様は良いと思うのですが全面的には称賛できず、「純粋に良い住宅を追求した結果」というより、売れる住宅を考えた結果・セールスポイントとしての高性能という印象です。高性能住宅で伸びたと思われがちですが、ソーラーや広告を含め、売り方が上手いハウスメーカーだと思います。

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