一条工務店で人気の全館床暖房。採用されている方の満足度は高く、改良を重ねて素晴らしいものになっているとは思いますが、誤解されている面もあるように思います。
簡単にいうと、以下のようなことです。
- 全館床暖房のメリットと思われていることの多くが実は高断熱住宅のメリットであり、全館床暖房である必然性はない。
- 標準仕様だからコストの意識を感じにくいが、導入費用が高いことが一番のデメリット。
ここでは、一条工務店が宣伝しているメリットを懐疑的に見ていき、ネットで書かれているデメリットについても確認したいと思います。
全館床暖房のメリット?
ここで挙げるメリットは、すべて一条工務店が公式ページで宣伝しているメリットです。それぞれ見ていきたいと思います。
からだの芯まで暖まる、上下の温度差がない
エアコン暖房では足元が寒いのに対し、床暖房では部屋全体が暖かく、体感温度が上がるので低めの温度で暖かい、とのこと。
半分は本当ですが、半分は過剰広告だと思います。
エアコンより温度が低めでも暖かく感じられる、という点は本当ですが、エアコン暖房で足元が寒い、というのは言い過ぎです。一条工務店ほどの高断熱住宅でエアコン暖房をして、室温 26 度、体感温度 18 度というのは絶対にあり得ません。体感温度の計算式が(室温+床面温度)÷ 2 だとすると、床面温度が 10 度というのは考えられません。対比している住宅は、低断熱住宅なのです。
高断熱住宅では高断熱であることで家中の温度差が小さくなるため、エアコン暖房でも連続運転を行えば足元と頭部の温度差をかなり小さくすることは可能です。エアコンでは「床下エアコン」でも採用しない限り足元のほうが暖かい状態にはもっていけず、裸足で過ごせる床暖房のほうがどちらかといえば快適だと思われますが、エアコン暖房でも不快なレベルにはなりません。個人差がありますが、裸足ではちょっと寒いけど靴下を履いていれば気にならない程度にはなるでしょう。
全館床暖房について比べるなら、「全館床暖房の一条の家」と「一般の家」の比較ではなく、「全館床暖房の一条の家」と「エアコン暖房の一条の家」を比べてほしいものです。
一条の家であるという基本性能だけで家中の温度差は小さく、ヒートショックの危険はありません。
火を使う器具がなく安心
これは本当ですが、エアコン暖房でも同じことです。高断熱住宅の暖房はエアコンで十分であり、ストーブやファンヒーターを併用しようと思うことはないでしょう。
ホコリを巻き上げない
これもウソではありませんが、エアコン暖房では「チリや埃を舞い上げがち」というのもやや言い過ぎです。高断熱住宅ではエアコン暖房でも常時運転していれば暖房負荷が小さいため、強風になることがほとんどありません。弱風ではほとんど気にならないのではないでしょうか。
結露しにくい
室内を暖め過ぎず温度差も少ないため結露が発生しにくいとのことですが、これは主に Low-E トリプル樹脂サッシのおかげです。エアコン暖房でも温度差は小さく、ハニカムスクリーンを完全に閉めたりしない限り、結露はほとんど問題にならないでしょう(床冷房のほうは発生するかもしれません)。
サーモカメラで確かめた快適性
同じ住宅でエアコン暖房と床暖房を比較した実験が紹介されています。エアコン暖房では足が冷えるという結論ですが、よく見ると床暖房が有利になるような条件設定になっています。
というのは、床暖房が 24 時間連続運転なのに対し、エアコン暖房は 24 時間連続運転ではなく、温度差が生じやすい間欠運転になっています。また、床暖房では室温を低めにできるはずなのに、同じ室温 25 度になる条件で比較実験を行っています。これでは床面温度に大きな差が出るのは当然です。結論ありきの実験といえるでしょう。
24時間運転でも家計にやさしい
一条の全館床暖房は北海道地区を除き、電気ヒートポンプ式です。このため、つけっぱなしでもランニングコストが抑えられるというのは本当です。ただ、エアコン暖房もヒートポンプ式のため、同様にランニングコストを抑えられます。
一貫生産で導入&メンテナンス費用を節約、継ぎ目のない高耐久の配管
これらは一条工務店ならではの、スゴいことです。弱点となる継ぎ目がなく、温水式で循環液の補充にもコストがかかりません。
ほかの住宅会社でマネしようと思ってもなかなかできることではないでしょう。全館床暖房にこだわりがあるならば、今のところ一条工務店以外は考えられないと思います。
以上のメリットを見たところ、確かに快適そうな暖房方式ではありますが、高断熱住宅でエアコンを連続運転した場合でも同様の恩恵を受けられることが多いことがわかります。
全館床暖房のデメリット
続いて、デメリットについて検討します。「全館床暖房 デメリット」で検索して見つかったデメリットは主に次のような内容でした。
乾燥する
暖房による乾燥の問題はエアコンが有名ですが、床暖房でも同じです。
「高断熱・高気密住宅は乾燥する?」で解説したように、温度を上げれば相対湿度が下がって乾燥するのは当然です。石油ストーブのように燃焼で水分が発生しないので、加湿するしかありません。
食品を常温保存できない
これも「全館暖房で食料をどこに保存するかという問題と結論」で書いたように、高断熱住宅で全館暖房を行う宿命のようなものです。
ただし基礎断熱工法では冷蔵庫か「外」に保存するしかありませんが、一条工務店は床断熱なので、床下収納を設置すれば活用できます。
温度変更に時間がかかる
高断熱住宅で全館暖房をする場合、あまり細かく温度調整をする必要は感じないでしょうが、これはエアコンのほうが優れている点でしょう。循環液を暖めるより、比熱の小さい空気を暖めるほうが簡単だからです。
以上がネットで見つかった主なデメリットです。
しかし、私が思う最大のデメリットは書かれていませんでした。
最大のデメリットは初期費用
上記のように一条工務店の全館床暖房は特に大きな弱点もなく素晴らしいものですが、最大のデメリットは初期費用の高さです。
一条工務店の施主にとっては標準仕様に組み込まれているために費用という意識がないのでしょうが、一貫生産で設備の割に安いとしても、全館床暖房では冷房用のエアコンも必要になるため、総合するとエアコン暖房よりずっと高いコストがかかるはずです。
高断熱住宅では、ペアガラスでもエアコン 1 ~ 2 台だけで温度差が小さい全館暖房ができるので(実例集)、一条工務店ほどの断熱性能があればエアコンだけでも快適な住宅ができることでしょう。
一条の全館床暖房住宅にお住まいの方は、そのほとんどが満足されています。しかしほとんどの方は一般の住宅体験との比較で満足しているのであり、高断熱住宅のエアコン連続暖房の住宅体験もあるという方は多くはありません。
私は逆にエアコン連続暖房の体験しかなく、全館床暖房を少しうらやましく思うこともないわけではありませんが、一般住宅と比べると非常に快適で、大きな不満はありません。高断熱住宅は快適なのです。
全館床暖房を知ると「一条工務店しかない」と思ってしまいそうですが、費用対効果やその他のことを考えると、必ずしもそれがベストではない、と思うわけです。営業妨害みたいですが、よい選択肢の一つということです。
まとめ
そんなわけで、全館床暖房が素晴らしいのは、一条の非常に高い断熱性能と、企業努力によるものです。
全館床暖房なら一条、一条なら全館床暖房、という意見も納得できますが、一条工務店の圧倒的に高性能な住宅は、決して安いものではありません。
もう少し性能やコストを下げ、十分に快適な住宅をつくる道もあるのではないでしょうか。
三井ホーム住人に言われたくないでしょうが…。ちなみにわが家で採用している全館空調は快適ですが、初期費用もランニングコストも高いのが難点です…
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