空調方式ごとの断熱レベル(Q 値)と暖冷房エネルギーの関係 | さとるパパの住宅論

空調方式ごとの断熱レベル(Q 値)と暖冷房エネルギーの関係

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熱損失係数(Q 値)と暖冷房費の関係について、興味深いデータを見つけたので紹介します。

省エネ法では、住宅の省エネルギー性能を示すために一次エネルギー消費量を算出します。このための算定基準は(財)建築環境・省エネルギー機構のサイトで公開されており、これを見ると、暖冷房方式ごとの暖房および冷房の年間一次エネルギー消費量(暖冷房費にほぼ比例)がわかります。

これは公的なデータであり、この分野の専門家が関与した細かいシミュレーションを基にしているため、高い信頼性が期待できます。

データは膨大なので、このうち、IV b 地域(東京23区などの温暖地)の暖房と冷房の一次エネルギー消費量について取り上げてみたいと思います。

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空調方式ごとの Q 値と暖冷房エネルギーの関係

まず最初に、個人的に注目したデータを紹介します。

次の図は、全館空調と個別間欠エアコンについて、Q 値ごとの暖房と冷房それぞれの年間一次エネルギー消費量(GJ)を示しています。

(財)建築環境・省エネルギー機構、一次エネルギー消費量算定シート(IV b地域)より作成

細かい話ですが、データ選定の条件を記しておきます。

・全館空調は熱交換型換気あり、個別エアコンは熱交換型換気なしのデータを採用しています。ただし冷房については両方とも熱交換型換気なしのデータです。

・エアコンは高効率かどうかで分かれていますが、LDK では高効率型でないデータ、その他居室では高効率型のデータを採用しました。

このデータからわかること

このデータからは、興味深いことをいくつも読み取ることができます。

全館空調の暖房費はほぼ Q 値に比例する

高断熱ほど暖房費が安いことは全館空調でも個別間欠エアコンでも同じですが、この傾向は全館空調では特に顕著です。

断熱等性能等級 4(Q=2.7)で全館空調を行うとすると、暖房費は個別エアコンの 2 倍も高くなることが予想されます。全館空調を採用できるハウスメーカーなどは複数ありますが、高断熱であることが前提として重要であることがわかります。

全館空調の暖房費は高断熱だと高くはありません。このデータから推測すると、全館空調と個別間欠エアコンの暖房費の差は Q = 1.6 程度でほぼなくなりそうです。

なお、このデータでは普通のエアコンで 24 時間連続運転する方式は検討されていません。が、必要なエアコン能力の計算からもわかるように、高断熱住宅では普通のエアコン 1、2 台で全館空調と同様の 24 時間連続運転を行うことができます。この運用を行った場合の暖房エネルギーは、このグラフの全館空調とほぼ同等か、COP によってはそれ以下になるものと思われます。

断熱等性能等級 4 では暖房費は安くならない

断熱等性能等級 4(Q 値 2.7 以下)は今後の新築住宅で義務化されるため、多くの住宅がこのレベルの断熱性能になるものと思われます。しかし、個別エアコン暖房のデータを見ると、低断熱の住宅と比べ、あまり大きな省エネ効果は期待できません。

個別エアコンでも省エネ効果を実感するには、Q 値 2 以下程度(ZEH レベル)にする必要がありそうです。

全館空調の冷房費は個別間欠エアコンより高い

冷房について見ると、全館空調のエネルギー消費量は個別エアコンと比較して 3 倍以上も大きくなっています。また、全館空調の冷房費は断熱レベルに関係なく常に高くなっていることもわかります。

夏季は日射熱などの影響で、室温が外気温より高くなることがあります。この場合、個別エアコンでは時間をかけて自然に熱が室外に放出されますが、全館空調(エアコン連続運転)では一定温度を維持するため、この分の熱エネルギーを常にエアコンで下げる必要があります。おそらく、その差が表れているのでしょう。侵入する日射熱を少なくすれば、この差は小さくできそうです。

また、試算条件をよく見ると、全館空調では暖房・冷房の COP(エネルギー消費効率) が 3.0 以上と、エアコンよりも低い条件が設定されています。三井ホームの全館空調スマートブリーズ プラスII の冷房 COP は 3.79 なので、試算よりは高効率です。全館冷房を行う場合でも、COP 5 以上などの高効率型エアコンで連続運転すれば冷房費を抑えられるハズです。

追記:全館空調の冷房費が高い理由として、試算では全館空調のみ、春や秋の中間期に通風を利用せずに空調で温度調整を行っている可能性もあります。中間期にオフにするような運用では特に差はないのではないでしょうか。

なお、中間期でもオフにしていないわが家の実際の電気代を確認したところ、年間の暖房費と冷房費はほぼ同じでした(参考電気代)。

追加記事年間暖冷房エネルギーの実測データとの比較

冷房エネルギーは高断熱ほど高くなる

意外なことに、必要な冷房エネルギーは Q 値が低いほど(断熱性能が高いほど)多くなるという結果が出ていました。

これは、以前紹介した冷房負荷とQ値のデータと反対の結果です。

矛盾するようですが、これは高断熱により冷房が効きやすくなるメリットと、侵入する日射熱が外に逃げにくくなるデメリットのどちらが大きいかということだと思います。高断熱住宅で日射遮蔽をきちんと行わないと今回のデータのようになり、日射遮蔽を徹底すれば以前紹介したデータのようになるということなのでしょう(詳細は「高断熱住宅ほど冷房費は高くなる?」を参照)。

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