建物の断熱性能を表す数値は、近年、熱損失係数(Q値)に代わって外皮平均熱貫流率(UA値)が使われるようになりました(詳細)。小規模住宅ほど数値が悪く(大きく)なるという Q 値の欠点を修正するために変更されたのですが、UA 値は Q 値と似て非なるものであり、別の欠点があります。
ハウスメーカーはそれぞれ、自社に有利な方を宣伝します。両方の特徴をよく理解し、注意を払う必要があります。どちらの指標も、小さいほど良い点は同じです。
簡単にまとめると次のようになります。
熱損失係数:Q値
計算式
Q値[W/㎡・K]=(温度差1℃あたりの建物全体の熱損失量[W/K])÷(床面積[㎡])
特徴
・家の冷暖房費の目安になる(ただし、同じ値でも床面積が大きいほど冷暖房費は高くなる)
・表面積が大きい建物形状では数値が悪化する(大きくなる)
・つまり、細長い家や天井高が高い家、屋根断熱方式の家は数値が悪化する(大きくなる)
・換気による熱損失が考慮される(ただし、漏気は考慮されない)
外皮平均熱貫流率:UA値
計算式
UA値[W/㎡・K]=(温度差1℃あたりの建物全体の熱損失量[W/K])÷(外皮面積[㎡])
特徴
・家中の断熱面(外皮)の断熱性能の平均値を表す
・建物形状の影響を受けにくい
・同じ床面積、UA値でも建物形状によって冷暖房費に差が出る
・換気や漏気による熱損失がまったく考慮されない
住宅の暖かさ・涼しさを考える場合は Q 値がより重要な指標ですが、ZEH などの省エネ基準としては UA 値が使われるため、UA 値しか公開されないケースが増えていくと思われます。このため、各ハウスメーカーの数値をおおざっぱに比較するためには、UA 値が便利です。
注意点
どちらの指標にしても、以下の点に注意する必要があります。
実際の家の数値はハウスメーカーの公表値より劣る
ハウスメーカーが公表する数値は、約50坪で窓が少ないモデルなど、非現実的なモデルを元に計算している数値であることがほとんどです。実際の家の断熱性能は 2~3 割ほど悪化すると考えるべきです。詳細は、「カタログのQ値、UA値は当てにならない(別記事)」をご覧ください。
同じ UA 値でも形状によって Q 値が異なるという点については、「ハウスメーカーが熱損失係数Q値を良く見せるカラクリ」という記事で建物の大きさと形状による数値の違いを試算して検討しています。スウェーデンハウスの資料(PDF)でも、わかりやすく説明されています。
C 値のような測定値ではなく設計値である
断熱材の性能と厚みから算出される値なので、理論上の断熱性能が実際に期待できるかどうかは別問題です。断熱材に関する、施工不良、地震やずり落ちなどによるすき間、壁内の対流、経年劣化、シロアリの食害などは考慮されません。配管の穴などの細かい断熱欠損も、計算上は考慮されません。
グラスウールの施工状態による性能低下については、以前セキスイハイムのカタログで見たところ、2倍ほどの差が出る可能性があるそうです。追記:これは誤解でした。詳細は「グラスウールの性能低下と劣化に関するデマ?」をお読みください。
発泡プラスチック系断熱材は、発泡剤が空気に置換されることによる経年変化もあります。
漏気による熱損失が考慮されない
住宅内の暖かさ・涼しさをキープするためには、高気密である必要があります。気密性能が低いと漏気が多くなり、冷たい風が家に入ったり、暖かい空気が外に逃げたりします。冷気は重く沈むため、上下の温度差も生じやすくなり、体感温度も低下します。また、湿度も外気の影響を受けやすくなります。
つまり、気密性能は快適さに大きく影響するのですが、これはQ値やUA値からはわかりません。詳細は、「C値(相当すき間面積)について」をご覧ください。
日射の影響が考慮されない
日射の当たる屋根や外壁が暑くなるかどうかは Q 値や UA 値ではわかりません。また、窓から侵入する日射熱は、冬にはメリットとなりますが、夏はデメリットになり、無視できない熱量があります。これらも数値には反映されません。
日射の影響については、設計や管理しだいでコントロールできます。詳細は、「日射の管理で実現する省エネ住宅」をご覧ください。
蓄熱も考慮されない
蓄熱とは、材料が熱エネルギーを蓄え、状況に応じて放熱するしくみです。基礎断熱などによりこれをうまく利用すると省エネに貢献しますが、これについても断熱性能の数値からは何もわかりません。
Q値とUA値の変換式
前述のように UA 値と Q 値は異なるものですが、おおまかに比較したい場合は次の変換式を利用できます。
UA=0.374 x Q – 0.14
Q=2.67 x UA + 0.39
電卓をたたくのが面倒な方はこちらの換算ツールをご利用ください。
これは、次世代省エネ基準(Q値)とH25省エネ基準(UA値)の断熱レベルが対応することから、単回帰分析を行った結果です。あくまで簡便式であり、小さい数値の精度は落ちるのでご注意ください。
なお、Q 値の「0.39」は換気による熱損失に相当します。この定数は、熱交換型換気を採用すると低減することができます。
当サイトでは、高断熱・高気密の必要性や、対応できるハウスメーカーなどについて紹介しています。他の記事もぜひご覧ください。
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