建築基準法で定められる換気回数は一般の住宅で 1 時間に 0.5 回以上と定められているためか、Q 値の計算などでは換気回数 0.5 回/h を前提として計算されることが多いように思います(当サイトの計算もそうしています)。
換気は多ければ多いほど外気の影響を受けやすくなり、湿度管理が難しくなるだけでなく熱損失も大きくなるため、その風量は必要最小限であることが望ましいはずです。しかし実態としては、換気ムラを考慮しているためか、換気回数は 0.5 回/h より多く設計されているのではないかという疑問があります。
そこで今回は、わが家を例として、0.5 回/h の換気量と、実際に設計されている換気量にどれだけ差があるのかを確認してみたいと思います。ちなみにわが家は設計時に換気量に関して一切口を出していないので、三井ホーム(換気設備は東芝の子会社)による一般的な方法で設計されているはずです。
理論上(換気回数 0.5 回/h)の風量計算
機械換気量を、建築研究所の資料(PDF)を参考に計算してみます。
わが家の吹き抜けを含む床面積は約 140 m2 で、天井高は平均約 2.5 m なので、空間の体積は次のようになります。
140 x 2.5 = 350 [m3]
これに換気回数(0.5 回/h)をかけると、必要な換気量を計算できます。
350 x 0.5 = 175 [m3/h]
ここで、上記資料によると「換気設備の風量は、必要有効換気量に一定の余裕を見て設計されることが通常」であるとのことなので、一般的な余裕率 1.1 を乗じることにします。
175 x 1.1 = 193 [m3/h]
第三種換気であれば、必要な換気設備の風量はこの程度になるはずです。
一方、第一種換気の場合はさらに、有効換気量率(有効換気量/給気量)を考慮する必要もあります。全館空調システムの取扱説明書によるとこれが 0.93 なので、必要な換気設備の風量は次のようになります。
193 / 0.93 = 207 [m3/h]
余裕率が妥当な程度なのかは疑問ですが、これがわが家で 0.5 回/h の換気回数を達成するギリギリの風量ということになりそうです。
わが家の換気設備の設計風量
わが家の換気ユニットの風量は、「弱」で 150 m3/h、「強」で 250 m3/h の仕様であり、「強」に設定されています。上記のような計算で、「弱」では足りないので「強」にしているのかもしれません。
250 m3/h ということは、先ほど計算した風量よりも 2 割以上大きい換気風量になっています。
つまり、換気による熱損失量(および湿気や乾燥の流入量)は最低限の換気より 2 割以上大きく、換気回数に換算すると 0.6 回/h の仕様になっていることがわかります。
もう少し中間的な設定ができないものかと思いますが、弱めて結露などのトラブルが起きると保証の対象外になるとのことなので、風量強めを渋々受け入れているのが現状です。
全熱交換型の場合には局所換気も併用することを考えると、換気によってかなりの熱損失が発生していることが懸念されます。この無駄をなくすことはできないのでしょうか。
換気回数はもっと少なくていい?
そんななか、新住協代表理事の鎌田先生による書籍『本音のエコハウス』を読んでいたら、驚くべきことが書かれていました。
詳しくはお読みになることをお勧めしますが、建材のホルムアルデヒドなどが減った結果、換気回数 0.3 回/h でも問題はなく、湿度管理や熱損失のメリットが大きい(熱交換換気ではむしろ冬の過湿に注意)とのこと。
では不足するおそれもありますのでご注意ください。
法的な問題が心配になりますが、法的に義務付けられているのは 0.5 回/h の能力の換気設備の設置であり、運転の義務はないので問題はないそうです。
また、第一種換気では (C 値) x 0.1 回/h ぐらいの自然換気量が発生するため、実は設置する設備は自然換気量を差し引いてよいとのこと。想像ですが、これは実務ではほとんど無視されていることなのではないでしょうか。
追記:
換気の専門家である北見工業大学名誉教授の坂本弘志先生の「第3種換気で知っておきたいことは」というコラムに、「換気回数0.5回/hは必要不可欠か」という節があります。根拠に基づき、竣工後1年を過ぎてから冬季の換気回数を0.3回/h 程度に下げることを推奨しているので、気になる方はご覧ください。
全熱交換型換気における換気回数の疑問
わが家の場合、C 値は 1 以上あるので、自然換気量は 0.1 回/h はあることになります。換気設備が 0.4 回/h でいいとすると、166 [m3/h] でよいことになり、ほぼ弱運転でよいことになります。
なお、上記までの話では、局所換気を考慮していません。ここからは、局所換気についても検討してみたいと思います。
わが家で常時運転している局所換気は風呂とトイレ 2 箇所があり、その合計は最低時でも次の風量があります。
50 [m3/h] + 34 [m3/h] x 2 = 118 [m3/h]
これが第一種換気システムの風量 250 m3/h に対して無視できない量であることは明らかです。
わが家が第三種換気だと仮定すると、はじめに計算したように、必要な換気設備の風量は 0.5 回/h で 193 m3/h でした。
局所換気で仕様どおりに 118 m3/h の風量が出ているとすると、それだけで必要な換気の 6 割(0.3 回/h)相当の換気ができていることになります。第一種換気では第三種換気と違って各所に給気口がないため、負圧になるだけで給気されないのではと考えるかもしれませんが、私は次の理由から、現実にも給気されていると思います。
まず、メンテナンス時にメインの換気装置を止めたとき、局所換気が稼働していると給気口から結構な流量の外気が入ってくることが確認できます。おそらくメインの換気装置が稼働しているときも、(給気量)=(排気量)ではなく(給気量)>(排気量)となっているのでしょう。
また、家のすき間は延床面積に C 値をかければ計算でき、わが家で C = 1.2 とすると 168 cm2 ほどのすき間があることになります。これは住宅の一般的な給気レジスタの総面積と同程度はあるため、すき間からだけでも給気は十分可能ということになります。
実際、風呂の換気をオンにすると他の部屋の換気量が増えることも確認しています。
とすると、わが家で必要な第一種換気は 0.5 – 0.3 で、たったの 0.2 回/h 分。さらに 0.1 回/h の自然換気があるとすれば、第一種換気設備は 0.1 回/h 分、約 40 m3/h で済むことになります。
・・・と書いてみたものの、局所換気を併用する全熱交換型第一種換気では第三種と同様に室内が負圧になって自然換気が発生しにくいかもしれませんし、換気ムラを一切考慮していないため、実際に実践したとしたら、それはそれで問題があるような気がします。
しかし、見方を変えてみても、現在のわが家は最低でも 0.6 + 0.3 = 0.9 回/h の換気が行われていることになります。「最低でも」と書いたのは、実際にはこれに加え、風呂やトイレの換気扇を強にしたときの追加風量、レンジフードの換気風量、シューズクロークの湿度センサー付き局所換気の風量(48 m3/h)、さらには自然換気量(0.1 回/h?)が加わることになるからです。
熱交換型換気を採用しているのにもかかわらず、換気による熱損失は Q 値換算で 0.6 以上はあるのではないでしょうか(通常の第三種換気の熱損失は 0.4 程度)。
バカみたいな話ですが、全熱交換型換気に対するこれらの疑問に対し、ハウスメーカーなどからまともな回答を受けたことはありません。また、真剣に取り組んでいる住宅関係者もほとんど存じ上げません。
こんなことでは、将来、住宅の保証などどうでもよくなった頃に換気風量を落としてみようかな、なんて考えが頭をよぎってしまいます。第一種換気を止めて給気口と排気口をふさぎ、局所換気の合計風量が 0.5 回/h になるように調整すれば、家のすき間を通じて十分な第三種換気になる気もします。
誰か止めてください。
なお、この記事では換気回数は 0.5 回/h も必要ないと読めてしまいますが、実際には 0.5 回/h でも足りないケースがある、とも考えています。なんとも細かい話になってしまいましたが、これについては近日中に更新したいと思います。
追加記事 → 寝室の換気が不足しがちという問題と対策。適正な居室の広さについて
今回取り上げた以下の本についても、そのうち紹介したいと思います。
コメント
先日新築し、パナの全熱交換型第一種換気を設置したものです(Ua値0.27,C値0.1)。
工務店施工だったのですが、この記事を拝見し、「弱」で0.3 回/h程度になる様に設定してもらいました。
夏場と冬場に弱運転で試して見ようと思います。
コメントありがとうございます。それだけ高気密なら自然換気はほとんどないですし、強弱で試すことができるのはよいですね。
電気代、湿度、二酸化炭素濃度あたりで明らかな変化が出るかわかりませんが、なにか問題等あれば教えていただけると幸いです。
その後ですが、基礎断熱1年目という事もあるかもしれませんが、加湿器無しで、みはりん坊測定で12g/m3位(室温は22℃前後、相対湿度60%弱)を維持していますので、大分効果的かもしれません(建坪は35坪、リビングで測定)。
気になるのが、二酸化炭素濃度ですが、こちらは測定する機器がないので、購入しましたら、報告致します。
貴重なご報告ありがとうございます。高気密で第一種換気だとそこまで高湿度を保つことができるのですね。湿気や二酸化炭素が多すぎるときは換気量を増やしたり熱交換オフで送風すればよいので、弱で0.3 回/h程度というのは興味深いシステムです。
わが家も実践したいところですが、全館空調は換気と空調が統合されていて勝手に調整してはいけない感じなので諦めています。。
その後ですが、カスタムの測定器(ミニの方です)を購入し、以下の条件で二酸化炭素濃度を1週間程度測定しました。
・測定場所:リビング
・家族4人
・換気回数0.5/h(普通運転です)
結果としては、1000ppm前後でしたので、0.3回/hでは、換気量が不足していそうです。(時期が来たら試して見ます)
我が家の場合、湿度のことを考えると、普通運転が丁度良い着地点かもしれません。
また、我が家の寝室は5畳程度で、そこで4人で寝ているので、締め切った状態で朝を迎えた際、どの程度の濃度になっているか、測定してみようと思っています。
また何かありましたら、書き込ませていただきますね。
またまた貴重な情報をありがとうございます。二酸化炭素濃度は労働安全衛生法で5000ppm以下、ビル管法で平均1000ppm以下とされているので、その状況で0.3回/hにするのは換気不足が懸念されますね。全熱交換換気で乾燥しにくいことを考えると、たしかに普通運転がちょうどよいかもしれません。
寝室のCO2濃度については、たいきゅうさんのブログ記事(以下)にデータが紹介されています。
家の換気状況をCO2で測る~netatmo~
家の換気状況をCO2で測る②~netatmo~
寝室で換気不足が起きている住宅は多いと推測しています。5畳4人で寝室を閉め切るとなると0.5回/hでもCO2濃度が高くなっているかもしれないので、改善点が見つかるとよいですね。裏付けとなるデータは多くの方の参考になるので、また追加情報がございましたら大変助かります。ありがとうございます。
寝室の二酸化炭素濃度について、追加情報ですが、家族4人で、1週間程度測ったところ、最高で2,200ppm程度となりました。
寝室は5畳の広さで、天井高を2,200に設定しているのも関係しているかもしれませんが、高濃度に驚いています。
因みに、ドアを開けた状態ですと、1,000ppm前後でしたので、リビングと変わらない結果となりました。
夏場は、小屋裏エアコン連続運転で対応するので、空気の循環が期待出来そうですが、今のような中間期と冬場は、ドアを少し開けて寝るしかないようです。
ドアを開けても閉めても、快適性が変わらないのは、不幸中の幸いです。
追加情報ありがとうございます。換気回数0.5回/h だと一人当たり10畳くらいのスペースが必要な計算になるので、閉め切るとやはり上がりますよね。
気密性の高い現代住宅では、寝室のドアを閉めるべきではないケースが多そうです。
高断熱住宅で室内ドアを閉めるのは音漏れが気になるときくらいなので、わが家はほとんど開けっ放しです。