24時間全室暖房の暖房費は本当に個別間欠暖房より安くなるのか | さとるパパの住宅論

24時間全室暖房の暖房費は本当に個別間欠暖房より安くなるのか

※当サイトは、アフィリエイトプログラム(Amazonアソシエイトなど)を通じ、商品またはサービスの紹介・適格販売により収入を得ています。詳細...

スポンサーリンク

「高断熱住宅では、エアコンを 24 時間連続運転して全室を暖房しても電気代がかからず、一般的な間欠運転(一部の部屋で付けたいときに付ける運転)よりお得である」ということは、当サイトでこれまで何度も書いてきたことです。

しかしそれは本当なのでしょうか。詳しく検証してみたいと思います。

スポンサーリンク

主張の根拠

まず最初に、この主張の根拠を示しておく必要があるでしょう。上記の説は詳しくは、Q 値が一定値(1.6)で連続運転と間欠運転の暖房費が同じになり、より高断熱(1.6 未満)になると連続運転の暖房費のほうが安くなるというものです。

新住協の見解

これは「断熱性能はどこまで求めるべきか(Q値とUA値)」で書いているように、西方里見著『最高の断熱・エコ住宅をつくる方法』の説明を基にしています。

この著者は新住協の理事であり、新住協のサイトでも、「Q1.0(キューワン)住宅とは」というページに、全室暖房しても部分暖房より必要な灯油消費が少ないことが紹介されています。

この必要暖房エネルギーのデータは、QPEX というプログラムを利用して計算されたものです。QPEX では、住宅の立地、日射量、断熱性能などが考慮されます。

三井ホームのカタログより

三井ホームの全館空調スマートブリーズの広告にも、シミュレーションによる冷暖房ランニングコストの比較が掲載されています。

一般住宅のコストを 100 とすると、三井ホームの個別エアコンで 62、スマートブリーズで 33 になるとのことです。

スマートブリーズの冷暖房の効率(COP)は一般的なエアコンと変わらないにもかかわらず、個別エアコンより全館冷暖房のほうが 47% も冷暖房費が安いと主張しています。

これはわが家の実態と大きくかけ離れており、ツッコミどころが満載です。詳しくは、当サイトの1世帯当たりの年間冷暖房費の記事全館空調の電気代がルームエアコンよりも安いというトリックという記事にまとめています。一点だけ指摘すると、平均的な Q 値が 1.9 程度(カタログ値は 1.51)である三井ホームで全館暖房のほうが安くなるというシミュレーション結果は、西方先生の説から考えても怪しいものです。

しかし、それを差し置いても、シミュレーションによっては全館暖房のほうが個別暖房より安いという結論が出ることは確かなのでしょう。

疑問

全室で暖房するほうが一部の部屋を暖房するよりも安い、というのはにわかには信じがたいことです。

こちらで公開している暖房費の計算フォームの式からもわかるように、全室暖房を行う場合に必要な暖房エネルギーは Q 値(熱損失係数)と室内外の温度差に比例します。つまり、必要な暖房エネルギーは、内外の温度差が大きいほど多くなります。

部屋ごとに部分的に暖房する場合、ちょうどいい温度の部屋と寒い部屋が混在することになります。その場合、寒い部屋での内外の温度差は小さくなるはずであり、家全体での熱損失量(=必要暖房エネルギー)は少なくなる、と考えるのが自然なことだと思います。

個別暖房で部屋を暖める場合、運転時に急激に温度を上げる必要があり、エアコンの効率が落ちて電気代が高くなる可能性はありますが、必要暖房エネルギーの総量は変わらないはずです。

また、一口に個別間欠運転と言っても、さまざまなケースが考えられます。

・住宅全体の延床面積のうち、冷暖房を行う面積の割合が小さい
・家を空けている時間が多く、冷暖房を行う時間がごく限られる

このような場合、冷暖房費は当然少なくなるはずです。間欠運転の暖房費は、住人の使い方しだいで本当に大きく変わります。シミュレーションがどのような条件で行われているのか、注意を払う必要があります。

そんなわけで、高断熱ほど暖房費が安いことは確かでも、全館暖房が個別暖房より安いという説にはやや疑問が残ります。

一時は当サイトの記述も改めたほうが良いのではないかと考えたこともありました。というのも、次のデータを発見したからです。

HEAT20 での Q 値と暖冷房負荷に関するデータ

HEAT20(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会) の資料に以下のグラフがありました。

HEAT20 H23年度報告会「EB・NEBから見た断熱水準検討」より引用

グラフが 3 つあり、左から、暖房負荷、冷房負荷、そしてその合計の暖冷房負荷と Q 値の相関関係を示しています。

細かい条件は不明ですが、この図からは次のことがわかります。

・暖冷房負荷は方式ごとにほぼ Q 値に比例する
・全館暖冷房は部分暖冷房より高負荷だが、その差は Q 値が小さいほど小さくなる
・Q 値 1.0 以下では暖房負荷がゼロ(日射熱を利用?)
全館暖房は個別暖房より安くはならない

一方で、このデータをそのまま真に受けるのも注意が必要です。

・Q 値 1.0 以下でも日射熱取得の大小によっては暖冷房が必要になる
・冷房負荷は日射熱取得量しだいで増大する(特に高断熱の場合)

と思うからです。

追記:次のデータも参考になります。
空調方式ごとの断熱レベル(Q 値)と暖冷房エネルギーの関係

これらのデータから思うこと

上記のデータからは、全室連続暖房が個別間欠暖房より安くなることがあるのかどうか、はっきりした結論は出せません。さまざまな資料を探しましたが、結論が異なるのです。

しかし、どの資料を見ても同じ結論もあります。それは、一定レベル以上の高断熱住宅では、全室連続暖房を行っても暖房負荷が小さいということです。

全館暖房でも個別間欠暖房でも負荷(≒暖房費)が同じ程度であれば、全室連続暖房には大きなメリットがあります。

連続暖房を行うと、空気だけでなく建物全体が温まるため、床との温度差が小さくなり、同じ室温でもより暖かく感じることができます。

寒い部屋がなくなると、湿気がたまりやすい空間もできにくくなります(詳細は「結露が発生する条件および対策」を参照)。

そして、どの部屋も「寒さ」というストレスを感じることなく有効に活用することができます。

全室連続暖房を行った場合の暖房費用については、当サイトが開発した(というと大げさですが)断熱性能(Q値)から冬の暖房費用を推計するツールで計算することができます。この金額が負担にならない程度なら、全室連続暖房はお勧めです。

Q 値と連続暖房

上記の新住協のデータでは、Q 値 1.6 程度で全室連続暖房にしても個別間欠暖房と暖房負荷が同じとのことです。Q 値 1.9 で連続暖房を行った場合の暖房負荷は、Q 値 2.7(温暖地の断熱性能等級 4 相当)の個別暖房の負荷と同じというデータも見かけました。

しかし、これらはあくまで、シミュレーションによるものです。実際には、個別間欠暖房のほうが安くなるケースが多いのではないかと思っています。得られるメリットを考えると、これらのレベルでも全館連続暖房はおすすめできますが、私としては Q 値 1.6 での連続暖房の暖房費は少し高い(エコでない)と感じます。

関東以西の温暖地における理想の Q 値、UA 値は」や「高断熱住宅は本当に光熱費のかからないエコハウスなのか」で書いたように、温暖地では Q 値 1.4 程度を目指すのがよいのではないかと思う次第です。

参考 トータルコストが最小になる断熱性能とは

コメント

  1. なお より:

    三井ホームで家を建てます。いつも大変参考にさせていただいています。神奈川県で建てます。今以下の3つのうちどれにするか悩んでいます。前提43坪6人で住みます。吹き抜けなし。①全館空調オール樹脂サッシペアガラス②個別空調オールペアガラス第三種排気③個別空調オールベアガラス第一種換気 ①がいいがコストで妻が反対②と③なら③かなと ご意見ください

    • さとるパパ より:

      どれも一長一短があり、住み心地は①しかわからないのでどれが良いと申し上げることはできませんが参考までに。

      ②であれば同時に気密性能を上げるとよいと思います。「よくある第三種換気システムの問題点」に書いたとおりです。低コストで管理がラクなのは魅力です。

      ③については、三井ホームで第一種換気のみという選択肢もあるのですね。どのような換気システムが採用できるのかわかりませんが、それがスマートブリーズと同じダクト式の換気システムであればあまりお勧めできません。初期費用がかかるのに、消費電力が大きいなどの問題点が改善されていないからです(最新の機器についてはわかりません)。アイフルホームで採用されているようなダクトレスの第一種熱交換換気(新しく記事にしました)であれば、初期費用を抑えて第一種換気のメリットが得られるかもしれません。

      個別のご相談は問い合わせフォームもご利用ください。

タイトルとURLをコピーしました