断熱性能はQ値(熱損失係数)またはUA値(外皮平均熱貫流率)で表します。Q値とUA値は計算方法が異なり、各ハウスメーカーは自社に有利なほうの数値を使って宣伝しています。これらの指標の違いは別の記事にまとめましたが、実際のところ、どの程度の数値であれば高断熱と言えるのでしょうか。断熱性能を高くするには費用がかかるため、どこで折り合いをつけるべきなのでしょうか。
断熱性能の必要性は寒冷地ほど高くなりますが、ここでは関東以西について考えてみます(6地域。地域別の基準値はこちら)。
以下の説明は、エコ住宅で定評ある西方設計の西方里見氏の著書『最高の断熱・エコ住宅をつくる方法』*の記述を参考にしています。
*2019年に改訂版『最高の断熱・エコハウスをつくる方法 令和の大改訂版』が発売されています。
Q=2.7、UA=0.87:次世代省エネ基準レベル
これは関東で断熱性の最高等級4を得られるレベルです。最高等級といえども基準が緩いだけなので、実際は家の中に温度差が生じます。冬の最低の体感温度は 8 度を下回らない程度なので、トイレや脱衣所では寒さを感じるかもしれません。窓からくる冷気で足元が冷え(コールドドラフト現象)、床の温度が室温より低いので体感温度は余計に低くなります。吹き抜けがあるとより寒さを感じやすくなります。冬季には結露も問題になります。もし、この断熱性能で家全体を暖房するとしたら、部屋ごとに暖房する(以下、個別暖房)場合よりも倍のエネルギーが必要になります。必然的に個別暖房を採用することになり、ヒートショックのリスクがあります。昔の住宅よりマシとはいえ、高断熱・高気密住宅のメリットの多くは受けられません。残念なことに、多くのハウスメーカーの住宅はこのレベルにあります。
Q=1.9、UA=0.56:次世代省エネ基準の東北レベル、HEAT20 G1 レベル
西方氏によると、関東以西ではこのレベルで「別の世界であるかのような快適な室内環境」がもたらされるそうです。足元と室温の温度差が少なくなり、結露も発生しにくくなるものと思われます。冬の最低の体感温度は 10 度を下回らない程度になります。ただし、家全体を暖房した場合、個別暖房よりも高い光熱費がかかってしまいます。光熱費をあまり重視しない人や、30 年以上住む予定がない人、全館(冷)暖房を考えない人には十分なレベルかもしれません。ちなみに、ネット・ゼロ・エネルギーハウス(ZEH)の基準はUA=0.60以下です。
なお、高断熱化にかかる初期費用と冷暖房費などを含めたトータルコストが最安になるのはこのレベルです。詳細はこちらの記事で説明しています。
Q=1.6、UA=0.46:次世代省エネ基準の北海道レベル、HEAT20 G2 レベル
一般的な暖房の使い方で、冬の最低の体感温度は 13 度を下回らない程度になります。家全体を暖房しても、個別暖房と暖房エネルギー消費量が同じになります。エネルギーを浪費することなく、家全体を暖房することで大きなメリットが得ることができます。昔から高断熱に対応しているセキスイハイムのグランツーユーで建てた住宅はこのレベルだと思われますが、クチコミを見ると、暖かさが実感できておおむね満足しているようです。ただし、エアコンを複数台用意して間欠運転する方が多いので、1台で連続運転するとどうなのかという意見はなかなか見当たりませんでした(→追記:高断熱ペアガラスでエアコンを連続運転するとどうなるか?【アンケート結果】)。
Q=1.4、UA=0.4前後:カナダのR-2000住宅レベル
暖房エネルギー消費量がQ=1.6の3分の2程度になります。全館冷暖房を行っても冷暖房費を抑えられるため、エネルギーを浪費しているという負い目を感じる必要がありません。スウェーデンハウスで建てられた家はだいたいこの性能なので、そのクチコミが参考になります。エアコンは 2 台くらいで十分でしょう。夏はエアコンを効かせないと暑いというクチコミが多々ありますが、内部発熱の対策と日射熱の対策には注意を払うべきと思います。
Q=1.0、UA=0.35前後
暖房エネルギー消費量がQ=1.6の半分程度になります。日射の管理を工夫すれば、パッシブハウス並みのエコ住宅を実現することもできます。
Q=0.7、UA=0.3前後:パッシブハウスレベル
暖房をほとんど必要としない究極のエコ住宅です。窓からの日射熱の影響を受けやすいため、春夏秋は遮熱を徹底する工夫が必須です。
関東以西の温暖地では日射エネルギーが強いため、Q=1.6 程度でも南面の窓を大きくとる(幅1間半を4つほど?)ことでパッシブハウスレベルの暖房負荷に抑えることができるそうです。ただし、夏の冷房コストは Q 値が高いほど高くつきます。関東では一般に冷房より暖房に多くのエネルギーを必要としますが、冷房コストを下げるためには日射の管理に注意を払う必要があります(日射管理の方法の詳細はこちら)。
以上を踏まえると、関東以西でも北海道レベルのQ=1.6を切りたいと思うのではないでしょうか。光熱費やエコ、費用対効果を考えると Q=1.4 (UA=0.4)程度が理想、というのが私の意見です。
断熱等級は 7 まで追加されることになったので、各等級については以下の記事をご覧ください。
▶ HEAT20 G1・G2・G3(断熱等級4~7)の各基準について思うこととR-2000住宅