近年急成長を遂げているヒノキヤグループの桧家住宅。
最近では「Z空調」(絶好調とかけて「ぜっくうちょう」と読む)という全館空調システムを積極的に宣伝しています。
それほど高くない価格帯で全館空調を採用できるというのは、なかなか魅力に感じます。
この Z空調はどうなのか、三井ホームの全館空調(スマートブリーズ)を採用した者として気になったので、わが家のような従来型の全館空調システムと比較したメリット・デメリットなどを調べてみました。
Z空調は低コストな全館空調
Z空調の特徴をかんたんに説明すると、安く実現できる全館空調システムのようです。
一般的な全館空調の導入には 200~250 万円ほどかかるのに対し、Z空調は税抜 150 万円ほどとあります。
安いとはいえ、家中の冷暖房と換気の機能を担い、ルームエアコンが不要になる全館空調であり、一条工務店などにはない設備です。
全館空調は、家中の温度差が小さく非常に快適な冷暖房システムですが、一般的には高コストなのが問題でもある設備です。詳細は以下をご覧いただければと思いますが、導入コストだけでなく、電気代やメンテナンス費用、更新費用も高くつきます。
Z空調が安いのは本当なのか、そしてそれはなぜなのでしょうか。
図や資料を見る限り、わが家のような従来型の全館空調と比べて以下の特徴があることがわかります。
設備容量が小さい
従来の全館空調システムは設備が大きく、冷房能力で 10kW ~ という設定が一般的です。しかし、Z 空調の天井埋込型エアコンは、各階 2.8~5.0 kW の能力のようです。
10 kW というのは最近の高断熱住宅にとっては過剰であり、能力が過大だと初期費用が高いだけでなく、エネルギー消費効率が悪化するなど、さまざまなデメリットがあります(参考記事:全館空調は非効率?)。
最近の高断熱住宅では、4 kW 程度のルームエアコン 1 台で全館空調を行うシステムも広がってきているほどです(参考記事:エアコン1台の全館空調システムについて)。
Z 空調の場合、必要に応じて合計 5.6 kW にできるというのは、適正な能力、エネルギー消費効率という点で従来型の全館空調より魅力的です。
特に大きいのが、天井埋込型の汎用エアコンを採用できる点です。従来の全館空調は本体設備が特注品のため非常に高額で、導入時だけでなく故障時・更新時にも大きな費用がかかることが問題になるからです。
汎用品であれば、ルームエアコンよりは高いとはいえ、初期費用が比較的安く済みますし、効率もよく、将来的な更新の際も大きな出費が必要になることもないでしょう。
ダクト長が短い
図を見てまず気づいたことが、天井裏の配管がほとんどないということです。わが家の全館空調では天井を一段下げ、天井裏にダクト用のスペースが確保されている部屋がいくつもありますが、Z 空調では各部屋の壁の上部に横向きの吹き出し口が設置され、部屋の天井裏にはダクトが通らないようになっています。つまり、ダクトが短い設計となっているのです。
ダクトを短くすると、ダクトによる効率低下をなくすことができ、効率的な運用が期待できます。
しかし、従来型の全館空調には、本体から遠くても、温度差の大きい窓際のすぐ近くに吹出口を設けることによって室内温度差を小さくするという考え方があります。ダクト長を短くすることを優先すると、こうした対応はできません。ただ、今日では窓が高遮熱・高断熱になってきて、窓際の暑さ寒さの問題が昔ほどではなくなってきたため、問題にはならないのではないかと思います。
参考 APW330で床温度が上がる効果をアルミ樹脂複合サッシと比較してみた
また、横向きの吹出口は、天井から真下の方向を向く吹出口と比べ、エアコンの風が人に直接当たりにくい性質があります。身体に直接あたる冷気は不快の元なので、良い点だと思います。
ただ、給気にダクトを使用することには変わりがなく、ダクトの汚染は長期で見ると問題になる可能性があるので、ダクトのメンテナンス計画についてはしっかりと確認しておくことをお勧めします。
分散型のシステム
わが家の全館空調では冷暖房の室内機と換気装置が一箇所にまとまって配置されていますが、Z空調では天井埋め込み型のエアコン 2 台(各階)と床下の換気装置(ココチE)で計 3 箇所に分散しています。
三井ホームの場合も天井裏に格納するオプションはありますが、わが家の場合は半畳のスペースを取られているため、場所を取らない点は Z 空調が優れています。
一方、フィルター掃除などのメンテナンスはそれぞれ行う必要があるので、少し手間は増えそうです。掃除のしやすさもよく考えられているようですが、排気口は1階の床に多数設置されています。排気口が床にあると、天井にある場合よりはホコリがたまりやすいため、こまめな掃除は欠かせないでしょう。掃除機をふつうにかける家庭なら問題ないでしょうが、極端に掃除をサボりがちな人は注意が必要です。
参考までに、排気口が壁面や天井面にある換気システムの場合、フィルター掃除は 2、3 カ月ごととされていることが多いと思います。わが家の全館空調の場合、掃除頻度は 1 カ月ごとですが、フィルターは一箇所だけです。
基礎断熱
床下の断熱方式には、床断熱と基礎断熱の2種類があります。温暖地では床断熱が一般的ですが、Z空調は床下に換気装置を設置するため、基礎断熱を行う必要があります。
これに伴い、床下空間が外気の通じる空間ではなく、室内空間に近い空間になります。これはメリット・デメリットがあることです。
最近はZ空調をヒノキヤグループ以外の工務店でも採用できるようになりましたが、その場合は業者がこの基礎断熱の施工に慣れているかどうかを確認しておきたいところです。
参考 基礎断熱 vs. 床断熱 – メリット・デメリットと注意事項
加湿機能はない
わが家の全館空調には加湿機能(水道管直結、気化式)が組み込まれていますが、Z空調にはありません。
「高断熱・高気密住宅は乾燥する?」という記事に書いたように、冬に家を暖かくすると乾燥が問題になります。
わが家の全館空調にもZ空調にも全熱交換型の第一種換気システムが備わっており、これは室内の湿度を維持しやすくする効果もあります。しかし、わが家での生活体験からして、これだけでは不十分です。実生活では熱交換されない換気や漏気もあるせいか、第一種換気だけでは冬に結構乾燥することがあります。
わが家では、全館空調の加湿機能に加えて気化式加湿器1台を使い、洗濯物を部屋干しにすることによって、やっとのことで40%以上の相対湿度を確保している状況です。
各種条件が異なるのでZ空調の乾燥の程度はわかりませんが、気になる方は乾燥対策を考えたほうがよいかもしれません。
なお、全館空調に加湿機能があることは必ずしもメリットばかりではありません。専門業者による定期的なメンテナンスが必要になり、わが家では年に1回、2万円ほどかかっています。
再熱除湿がない
わが家の全館空調(東芝)には再熱除湿機能がありますが、空調機がダイキン製のZ空調にはそれがありません。
再熱除湿とは、エアコンの除湿によって室温が下がらないよう、暖房を併用する除湿方式のことです。消費電力が高くイメージが悪いためか最近では採用しているエアコンメーカーが減っていますが、高断熱住宅の住人には根強い人気がある機能でもあります。
高断熱住宅では除湿運転でも室温がすぐに下がるので、設定温度に達して運転が止まってしまい、除湿ができないことがあるからです。
わが家では梅雨時や夏の夜など、外気温が低いときに湿度を下げるためには再熱除湿が欠かせません。そのほうが部屋干しの洗濯物が早く乾くし、寒くなくサラサラで快適になるからです。電気代が多少高くても、メリットのほうが大きいと感じています。
再熱除湿をやめたダイキンなどのエアコンメーカーは、温度を下げずに低消費電力で除湿する機能を模索していますが、口コミなどを見る限り、再熱除湿ほどの効果はまだまだ期待できません。
長期保証がある
Z空調でいいなと思ったのは、10年間の延長保証です。わが家の場合は冷媒回路部品だけ5年間ですが、その他は2年しかなく、すでに期限が切れています。急に故障したら放っておくわけにもいかないため、急に大きな出費が必要になるのではないかと、ビクビクして過ごしています。
1台で高額な設備がないだけでなく、長期の保証までついていることは、消費者にとって大きな安心です。
Z空調は採用すべきか
以上に見てきたように、Z空調はトータルコストを下げるために多くの工夫が行われています。高額な従来型の全館空調システムと比べると省かれている機能もありますが、全館空調の基本的なメリットは享受することができます。
特に、全館空調の一番の課題であったコストの問題をここまで改善したのは素晴らしいことと思います。
家中を連続的に空調することは、一定以上の断熱・気密性能を備えた住宅にとって非常にお勧めです。温度差がなくなり、床が暖かくなることで、かかるコストの割に驚くほど快適になるからです。
なお、コストだけを考えるのであれば、Z空調より安くこれを実現する方法もあります。
参考
・高断熱ペアガラスでエアコンを連続運転するとどうなるか?【アンケート結果】
・エアコン1台の全館空調システムについて
ただ、どの方式にもそれぞれ、異なるメリット・デメリットがあります。総合的に考えると、Z空調は多様なニーズに対応でき、快適性とコストのバランスが取れた良いシステムの1つでしょう。
従来型の全館空調を採用してやや後悔もしている私としては、このような低コストな全館空調システムが羨ましく思えます。
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