トータルコストが最小になる断熱性能とは

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当サイトは温暖地で Q 値 1.6 以下を推奨していますが、これは最も経済的(=トータルコストが最小)ということではありません。トータルコストを中心に考えると、最適な断熱性能はどうなるのでしょうか。

HEAT20(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会)では、トータルコストが最小になる断熱性能(Q 値)について検討した資料がいくつか公表されています。これらについて考察してみました。

なお、断熱性能は資料によって Q 値と UA 値が混在しているため、ここでは他方の参考値を併記しています。

資料 1:「住宅使用年数とコスト」

概要

2011年度の三井ホーム技術研究所の坂部氏による資料では、次のことが指摘されています。

  1. 断熱化のコストと冷暖房費用の合計は、住宅の使用年数が長いほど高性能な住宅が有利になる
  2. 電気料金が上昇することを考慮すると、使用年数 50 年で Q=1.9(UA=0.56 相当)が最小となる

考察

1 点目は当然のことです。冷暖房費が安くなるメリットは、長期になればなるほど大きくなるからです。

2 点目について、電気料金は上昇するものという想定は正しいものとします。この上昇率の見込みが高め(6.4~12.2%)なのは気になりますが、この結論は、H25 省エネ基準の最高等級 4 の断熱性能(UA=0.87、Q=2.7相当)よりも高断熱にしたほうがトータルコストが安いということなので、高断熱化を決断するうえで心強いデータになります。しかし、私はもっと高断熱にしたほうがトータルコストは安くなると考えます。理由は 2 つあります。

1 つ目の理由は、現在の高断熱サッシの価格が 2011 年当時と比べて下がっているからです。高断熱化に伴う初期費用はさらに安くなっています。

2 つ目の理由は、この試算では設備代が考慮されていないからです。より高断熱にすればエアコンの必要台数が少なくなり、設備費用が安くなります。これもトータルコストとして考慮すると、より高断熱にしたほうがトータルコストは安くなるでしょう。

ただし注意点もあります。この試算は、おそらく木造住宅を想定したものです。鉄骨工法の住宅の場合、同じ Q 値を実現するためにかかる初期費用は高くなる可能性があります。

続いて、最近のデータを紹介します。

資料 2:「G1・G2の経済的メリットの試算」

概要

2016年度のエコワークス株式会社社長による資料の概要は次のとおりです。

  1. 断熱化コスト+エアコン代+冷暖房費用の合計を試算
  2. 6~30 年住むなら G1(温暖地で UA=0.56、Q=1.9 相当)、30 年以上住むなら G2(UA=0.46、Q=1.6 相当)がトータルコスト最安
  3. 電気料金は年率 3% の上昇を想定

考察

こちらのデータは新しく、エアコン代も考慮しているため、先ほどの資料よりも現実的です。電気料金の上昇率の予想もマイルドながら、長期的には UA=0.46(Q=1.6 相当)がベストという結論が出ています。

ただし、先ほどのデータと異なり、こちらは全館連続暖房を前提として試算しています。Q=1.9 では全館暖房を行わないと暖房費用がもっと安くなるため、Q=1.6 で全館暖房を行う場合と比較してどちらのトータルコストが安くなるのかは不明です。

結論

以上のデータから考えると、暖房方式にかかわらずトータルコストが安くなるのは Q 値 1.9 以下です。快適性も向上するため、このレベルはだれもが目指すべき水準と言えるでしょう。

全館連続暖房を行うのであれば、現時点では Q=1.6 が最安のようです。Q=1.6 とは、木造住宅では樹脂サッシなどの高断熱ペアガラスでも達成可能なレベルです。

なお、全館暖房は非常に快適で健康的なので、非常にお勧めです。また、Q=1.6 よりも高断熱にすると家の中の温度差がもっと小さくなるため、冷暖房費がさらに安くなるだけでなく、快適性も向上します。その分、初期費用は高くなりますが、快適性とエコのための投資分と考えることもできます。そして、今後トリプルサッシが普及すればこの初期費用も下がるため、将来的にはトータルコスト最安レベルも Q=1.6 以下になる可能性があります。

参考 高気密・高断熱住宅に関するまとめ(記事紹介)

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