住宅の断熱性能について考えるときに避けて通れないのが、Q値やUA値です。
何のことやら、という方は以下のページをご覧ください。
しかしながら、Q値やUA値といった断熱指標は大事ですが、万能ではありません。
かくいう私も住宅性能を学び始めた頃はこれらの指標値を結構気にしていましたが、学べば学ぶほど、「それだけではない」という思いも強くなってきました。
ここでは、そんな Q値・UA値の良いところと、注意点について書いておきたいと思います。
Q値・UA値の良いところ
Q値・UA値が重要でないとは思いません。
それは、以下の特長があるからです。
数値で比較できる
近年は断熱への意識が高まり、どの住宅会社もそろって「うちは高断熱です!」とアピールしています。
しかし実態としては、その中には特に高断熱といえない住宅会社も混在しています。
法律で定められる断熱等性能等級4(最高等級)の基準をクリアしているのでウソとは言えませんが。。
そんな状況で、Q値・UA値は、各住宅会社の断熱レベルが本当に高いのかどうかを一目瞭然にすることができます。
Q値・UA値を明記していない会社ほど断熱レベルは高くなく、Q値・UA値を隠す傾向にあります。
施主がQ値・UA値について学び、確認すると、一部ハウスメーカーの美化されたイメージは崩壊します。
ハウスメーカーの打ち出すイメージは実態とかけ離れていることが多いものですが、「Q値・UA値が疑いを持つきっかけになった」という施主は少なくないかもしれません(C値も同様)。
ただ、住宅会社側も見込み客に逃げられないようにとあの手この手でごまかそうとするのでやっかいですが。。
参考
・カタログのQ値、UA値は当てにならない
・ハウスメーカーのUA値から逆算して試算条件の住宅モデルを考えてみた
なお最近は、ZEH対応が求められたことにより、多くの住宅会社でQ値・UA値が改善されてきています。
十分かどうかというと微妙なラインが多いですが、良い傾向だとは思います。
参考 大手ハウスメーカー全社の断熱性能(UA値)比較ランキング【2019】
断熱改善のポイントが見える
Q値やUA値について検討すると、断熱の課題に対する理解が深まります。
熱貫流率(U値)や熱抵抗値で比べると、どの部位が断熱的に弱いのかがわかります。
参考 断熱性能は窓、壁、換気で決まる(部位別の断熱性能比較)
面積を含めて検討すると、どこが家全体の断熱性能に大きく影響するのか、改善すべきポイントがわかります。
断熱に関連することは多いので、調べれば調べるほど住み心地の良い住宅を建てるポイントがわかってくる気がします。
Q値・UA値の注意点
一方で、Q値・UA値には弊害もあります。
数値で比較できるとなると、つい数値にこだわり、改善したくなるからです(みんながそうだとは思いませんが)。
しかし、数値をほんの少し改善する一方で、犠牲にすること(コスト)が多ければ、それも問題です。
Q値・UA値で見えないこと
Q値・UA値だけで判断できない断熱関連の重要事項は、たくさんあります。
断熱に限っても、Q値・UA値はともに設計上の数値であり、実際の住宅の熱移動を正確に示しているとは限りません。
気密性能が低い住宅ではすきま風の影響を強く受けるので、気密についても考えないわけにはいきません。
また、日射熱の影響はQ値・UA値とも関係しますが、基本的には別途考える必要があります。
高断熱にはこだわっていても、パッシブデザインには無頓着という住宅会社も少なくありません。
参考 日射熱関連の記事リスト
壁内気流も断熱性能に大きく影響しますが、Q値・UA値からは何もわかりません。
住宅の耐久性に影響する、壁内結露の問題についても、Q値・UA値だけではわかりません。
断熱のバランスも大事
Q値・UA値が同じ住宅でも、快適性には差があることがあります。
特に問題になるのは、全体的な断熱性能は高いのに、窓の断熱性能が低い場合です。
窓の断熱性能が低いと、そこから冷気流が発生し、足元が冷えるため、体感温度は大きく低下します。
マンションは一般的に断熱性能が高いと言われていますが、単板ガラスの窓周辺では寒さや結露が大きな問題になります(暮らしたことがある人はわかると思います)。
近年普及してるアルミ樹脂サッシのLow-Eペアガラスは単板ガラスよりはだいぶマシですが、加湿すると結露が発生することがあります。結露が少しでも発生していると、いずれはカビが発生することになります(すべての窓が手入れできる位置にあるなら問題ありません)。
Q値・UA値を改善しようと思うと窓にこだわるのが普通ですが、数値はともかく、結露がほとんど発生しない樹脂スペーサー仕様の高断熱窓を採用することは、私が家づくりでお勧めしたい一番のポイントかもしれません。
空調・換気でカバーできることもある
ZEHレベル以上の断熱性能があれば、Q値・UA値は小さければ小さいほど快適になるものでもありません。
温度ムラをなくすためには、効果的な空調・換気についても考える必要があります。最適な冷暖房方法は、断熱レベルによっても異なります。
参考
・全館空調 vs. エアコン(全館空調のメリットが得られる条件)
・HEAT20 G1・G2・G3の各基準について思うこととR-2000住宅
また、超高断熱な住宅では、内部発熱(人体発熱、キッチンや家電からの排熱など)や窓から入る日射熱の影響を受けやすくなります。きちんと対策しなければならず、デメリットにもなり得ることには注意が必要です。
参考 高断熱住宅は暑くてエアコンが欠かせないという問題【中間期の暑さ対策】
熱交換換気が美化される
(※換気はUA値では考慮されないためQ値だけの注意点です。)
Q値を大きく改善しようとすると、換気による熱損失(Qv=0.4 前後)の存在感が大きく感じられます。
そのためか、高断熱にこだわる住宅会社を中心に、温暖地でも熱交換換気を勧める住宅会社が多くなっている印象があります。
熱交換できる第一種換気システムを導入すると、たしかにQ値は改善できます。
しかし、熱交換換気で反則的にQ値を美化しているハウスメーカーがあることは置いておいても、第一種換気のメリットが本当に大きいのかは疑問です。
一般的な第三種換気と仕組みが違うため、メリット・デメリットがあるのは当然で、かんたんに比べられる問題ではありません。
それでも、第一種換気のメリットといわれていることを一つ一つ検討すると、疑問点は多々あります。
たとえば、いくら第一種換気でも、エアコンで除湿し続けないと夏の湿度は抑えられないのだから、中途半端に換気で熱(湿度)交換するよりも、冷却と除湿をすべてエアコンに任せたほうが効率的ではないか、とか思うわけです。
参考 冷房期の第一種換気のデメリット?【熱交換換気と再熱除湿の関係】
当サイトのスタンス
そういうわけで、Q値・UA値はあくまで大まかな目安と考えるべきと思います。
Q値・UA値は住宅の断熱や快適性について考えるきっかけとして重要だと思いますが、できればその先のことまでも考えたいものです。
Q値 1.6 以下、UA値 0.46 以下を推奨しているものの、そのことばかりに気を取られる必要もないでしょう。
このレベルは、それなりの窓を選択し、各部位の断熱に問題がなければ、結果として達成可能なレベルです。
もしこの数値とかけ離れているならば、どこに問題があるのかを検討することにより、何かしら得るものがあるのではないでしょうか。
参考 壁・天井(屋根)・床に必要な断熱材の厚みはどの程度か?
Q値やUA値を超えたその先の課題については専門的なため、建築会社側に任せられれば理想です。
しかし残念なことに、そのレベルの建築会社は規模に関係なく、決して多くはありません。
検討している住宅会社の標準的な Q 値や UA 値が推奨値とかけ離れているのであれば、その住宅会社は温熱環境に詳しくない(重視していない)可能性が高いと考えられます。
コストをかけすぎずに寒くない住宅を実現したいのであれば、Q 値や UA 値、C 値を基準として住宅会社を絞るのが近道となることでしょう。
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