壁内部結露計算でわかること・わからないこと

壁構成から壁内で結露が発生するリスクを判定する方法として、結露計算があります。住宅金融支援機構の住宅工事仕様書に付録として載っている、透湿抵抗比によるチェックよりも細かいチェック方法です。

この結露計算を行うことによって、以下の動画で解説されているように、防湿シートの有無による影響や、断熱材・構造用合板の種類による影響、夏型結露の検討などを行うことができます。

しかしながら、この結露計算の内容を確認してみると、この計算結果をもって結露リスクを判断することには注意が必要だと感じました。ちょっと小難しい話ですが、このことについて書いておきたいと思います。

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結露計算で前提としていること

この結露計算で具体的にどのような計算を行っているのかというと、次のページにちょうどよい解説が見つかりました。

結露計算の方法

ざっくり要約すると、まず、壁を構成する各材料の熱伝導率、透湿抵抗を調べます。それから、室内外の温湿度条件を入力することによって、温度と湿度の分布を算出します。最後にこれらを飽和水蒸気圧と比較することによって、結露する部位がわかるというものです。

この計算の何が問題かというと、さまざまな前提条件が現実と異なり、現実に起きている壁内部結露の実情と合わない面があることに注意が必要です。

あくまで定常計算

この結露計算は定常計算といって、室内外の温湿度が一定であり、壁内部の状態が均衡している状態を仮定しています。現実は非定常であり、温度も湿度も一定ではなく、壁内部の状態も変化するものです。

実際には熱容量も影響するし、木材の含水率も変化します。たとえ冬の一番寒い朝の温湿度条件を入力して結露が発生するという結果が出たとしても、木材が乾燥していれば少量の結露なら吸収することができます(調湿効果)。日中に温度が上がって放出されれば、何も問題は生じないかもしれません。断熱材のズリ落ちや木材含水率の高止まりなどの問題が生じるには、それなりの水量の結露が長い時間にわたって発生する必要があります。結露は発生したらアウトというものではなく、これは定常計算では確認できません。

当サイトの記事でも定常計算によって熱交換換気による湿度の経時変化を計算してみましたが、その結果も非現実的なものでした。

参考 冷房期の第一種換気のデメリット?【熱交換換気と再熱除湿の関係】

定常計算に意味が無いというのではなく、単純化している前提条件まで考える必要があるということです。

夏型結露がこの典型で、定常計算では、高温多湿な外からの水蒸気の侵入によって、室内側の壁内部に結露が生じるリスクが示されます。

しかし、坂本雄三先生による大学生向けの教科書『建築熱環境』には以下の記述があります(p.124-123)。

(夏型結露は)規模が小さく, かつ, 結露水量も少ないので, 実害に至るような障害や被害はほとんど報告されていない.
(中略)この結露は, 発生する時間帯が昼間の日射が強いときだけであり, 夜間は逆に合板や木製部品が壁体内の湿気を吸湿してしまうので, 壁体内は乾燥し, 長期間の平均で見ても木材が腐朽するような含水率までには至らないのである. よって, よほどの低温冷房や大量の水蒸気発生という条件でもない限り, 夏型の内部結露については神経質になることはなさそうである.

非定常な現実を考えれば問題ではない、ということでしょう。

そういうわけで、この点に関しては、(定常計算の)結露判定はリスクを過大評価する傾向があります。そこまで理解して利用する分には有用ですが、この判定で × の状況が一切発生しないようにするとなると、安全側の設計になることになります。安全側なら良いと思うかもしれませんが、多くの場合、高コストになるということでもあります。

たとえば、透湿性の高い構造用合板(モイスやダイライトなど)や、夏型結露対策としての可変透湿気密シート(タイベックスマートなど)は、一般的な建材よりは高価です。採用するのは自由ですが、温暖地で採用する必然性はないと私は判断しています(今のところ…)。

ちなみに、もっと精緻な「非定常」計算によるシミュレーションでは、調湿性なども考慮して結露計算を行うことができます。しかし非定常計算は複雑すぎてコスト(ソフト、労力)が高く、研究レベルならともかく、個別の住宅に対するチェック法としては実用的でないでしょう。

隙間・気流が考慮されない

結露計算でもう一点気になるのが、隙間や壁体内気流の影響が一切考慮されていないことです。この問題は、UA 値や Q 値が理論値であって実測値ではないことに似ていますが、問題はそれ以上です。

壁体内の結露は 2 種類あり、透湿型結露と、移流型結露(壁体内気流型結露)があります(前述の教科書にも載っています)。実は、結露計算で検討しているのは前者のみで、後者の移流型結露については何もわかりません

移流型結露とは、壁内に気流が発生し、冷たい外気が壁体内に入って移動することに伴って発生する結露のことです。対策の取られていない木造軸組工法の住宅でみられます。

壁内に冷たい外気が入れば、断熱性能が低下する(=壁体内が計算以上に低温になる)ため、結露リスクは増大します。

参考 グラスウールの性能低下と劣化に関するデマ?

また、水蒸気の多い室内空気が隙間から壁内に入り続ける状態が続けば、その結露水量は膨大になる恐れがあります。逆に考えると、空気の移動がなければ、その結露水量が多くないことは容易に想像できます。

これらの問題を防ぐには、軸組工法では気流止めをきちんと施工し、壁体内気流を止めることがまず肝要です。

参考 Q値C値に現れない高断熱住宅の要「気流止め」の問題

その上で、気密層や防湿層を切れ目なく施工することができて初めて、透湿型結露を検討する結露計算が現実味を帯びます。

防湿シート(ポリエチレン)の有無が重要であることは、上記動画の結露計算のシミュレーションでも確認できます。隙間があるということは、局所的とはいえ防湿シートがない状態に等しいため、隙間はないに越したことはありません。気密がしっかり取れていれば、第三種換気では室内が負圧になるため、室内から壁体内への気流も起こりにくくなることが期待できます。

参考 低気密・中気密は何がどう問題なのか

壁内結露が起きているときに、透湿型結露と移流型結露がそれぞれどの程度影響しているかの判断は困難です。とはいえ、構造的に壁体内気流が止まるツーバイフォー工法の住宅が長期にわたって耐久性を発揮している現実を見ると、移流型結露の影響は透湿型結露と比べて大きいことが推察されます。

参考 木造住宅の耐久性を決める主要因は何か?

移流による問題が重要であることは、以下の『教えて!「断熱さん!」』記事のコラムからもよくわかります。

「気流止め」の重要性2「透湿」と「移流」
暖房熱を外部へ逃がすのを防ぐ役割、内部結露の防止など気流止めの重要性について、更に解説します。

結露計算は必要か?

そんなわけで、壁内結露が心配なら、まず気流止め。次に気密が大切でしょう。結露計算はやるに越したことはありませんが、これらの前提をクリアした先の検討事項です。

結露計算を行って透湿性の高い材料にこだわっているけれど、壁体内気流に無関心で、気密測定も行っていない、というのでは本末転倒です。

ただ、上記の動画によると、結露計算を自前で行っている住宅会社は「ほとんどない」のが現状だそうです。寒冷地でも通用する高断熱住宅の一般的な壁構成を採用していればわざわざ検討するまでもないかもしれませんが、できることなら検討していただきたいものです(定常計算の限界を知ったうえで)。

そういう状況であれば、珍しく結露計算を行っている住宅会社は「意識が高い」といえます。気流止めや気密性能についても卒なく対応している可能性は高いでしょう(気密測定している住宅会社の気密性能が高い傾向があるのと同様です)。
優良な住宅会社を選別する基準の一つにはなりそうです。

コメント

  1. ヤス より:

    こんにちは。
    いつもブログ読んでます。
    先日の壁内気流の記事に関してですが、さとるはぱさんとは全く逆の主張をしてる工務店があることを見つけました。
    エアムーブ工法、wb工法、エアパス工法などを採用している工務店は壁内気流はむしろメリットがあるよと主張してるのです。
    私個人の感想としては失礼ながら、これらの工法は胡散臭いと思いました。
    こうやって色んな情報が入ってくると、家づくりとは何が正しくて謝ってるのか分からなくなってきますね。

    • さとるパパ より:

      コメントありがとうございます。
      私は標準的な断熱工法(フラット35対応仕様)における壁内気流の扱いについて書いていますが、壁内結露を防ぐ方法は一つではありません。気密層・防湿層・断熱層の構成はいろいろ考えられるので、壁内気流がすべて問題というわけではありません。

      いくつかの工法をざっと見たところ共通するのは、基礎断熱で冬は壁内への外気侵入を防ぎ、夏に通気させる仕組みです。この方法でも壁内結露の問題はクリアできるのかもしれませんが、冷え込む冬の夜間・明け方の断熱対策として高断熱は必須であり、高断熱は夏の日射熱対策にもなります。通気断熱工法は夏の避暑地では問題ないかもしれませんが、夏に蒸し暑いところではエアコンが必須なので、通気断熱工法のメリットが大きいとは感じられませんでした。夏の遮熱が重要なのはどの工法でも同じことですし、冬の日射熱取得は壁経由より窓経由のほうが効率的に思います。
      グッドデザイン賞や特許などは効果を保証するものではないので、標準的でない工法の採用は慎重に検討したいものです。

  2. scotch より:

    はじめまして。
    コメントに書かれている通り、断熱気密ラインがどこにあるのかで気流止めの要否が変わりますね。
    気流止めが必須なのは床下断熱・天井断熱の場合であって、
    基礎断熱・屋根断熱の場合は気流止めは必須ではありません。
    床下と小屋裏が断熱気密ライン内になるため、室内空間に準じる熱環境になるからです。
    なので、基礎断熱・屋根断熱なのであれば壁内通気していても問題はないです。

    もっとも、壁内通気は壁体内結露のリスクを下げることには寄与しますが、
    それにより断熱や冷暖房が不要になるというようなものではありません。
    快適な室内熱環境を実現するには標準的な工法と同様に躯体の高断熱・高気密化が必要です。
    高断熱・高気密とセットになっていない壁体内通気工法であれば警戒した方がいいかもしれません。
    断熱性能や気密性能がちゃんと表示されているかどうかがチェックポイントになるでしょうね。

    記事冒頭の動画で使用されている定常計算ソフトは、私も使っています。
    ソフト配布の際の講習で、「施工精度が高いことが大前提(移流型結露を考慮しない)」という点と、
    「あくまで定常計算にすぎない」という2点は念押しされます。
    記事で主張されている通りで、講習を受けなくてもここに気付かれるのはすごいですね。

    夏型結露に関しては、壁はまだしも屋根に関しては深刻な事態に至ることも少なくないので、
    定常計算である程度の安全側検討をしておくのは有効であるようにも思います
    (これも計算以前に、湿気を逃がす通気層をちゃんと設けること等の方が重要ではありますが)。
    ただ、基本的には夏側結露を定常計算で杓子定規に検証すると
    安全側すぎて現実的でない仕様になることが多く、これも記事で書かれている通りです。

    下手なプロが書く記事より的確な内容ですね。
    興味深く拝読しました。

    • さとるパパ より:

      コメントありがとうございます。
      壁内通気などは工法ごとに注意点が異なるので施主にとっては難しいテーマですね。
      気流があって熱貫流率が悪化しないのかとか、機械換気不要はまずいのではないかとか、いろいろ疑問が沸いてきます。

      結露計算ソフトで配布の際に講習を受けるというのは良い仕組みがあるのですね。それなら結露計算を行っている業者はなおさら安心できそうです。

      屋根面の夏型結露が深刻になりやすいとは初耳でした。ありがとうございます。

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