主な屋根材としては、粘土瓦のほかに、スレート(コロニアル)、金属屋根(ガルバリウムなど)があります。昔は瓦が一般的でしたが、近年はスレート屋根も多く、金属屋根の採用率は特に伸びています。スレートと金属屋根はどちらも軽量で、技術も進歩しているため、人気の理由も納得できます。リフォーム時の施工性や、太陽光パネルとの相性もあり、陶器瓦はどんどん減っている感もあります。
2016 年に起きた熊本地震では、瓦屋根の多くの住宅が被害を受けました。このことから、「瓦屋根が地震に弱い」という印象をもった方も少なくないでしょう。
しかし、2016 年末に三井ホームで建てたわが家の屋根は、粘土瓦です。具体的には、三州野安のセラマウントです。
ここでは、私が瓦屋根を選択した理由を書きたいと思います。ぶっちゃけ、当時はただ見映えが気に入って、ほかは真剣に検討しなかったのですが、今改めて再考しても、瓦屋根にしたことに後悔はありません。これから住宅を建てる方は、選択肢の一つとして検討してみてはいかがでしょうか。
瓦屋根と耐震性の関係
熊本地震で瓦屋根の住宅被害が大きかったのに、あえて採用したのは、耐震性能を軽視したわけではありません。いちおう大学では構造工学系の研究室に所属していたので、そこにはこだわりもあります。
熊本地震で瓦屋根の被害が多かった本当の理由
熊本地震で瓦屋根の被害が多かった理由は、「瓦屋根だったから」ではありません。
かんたんに書くと、倒壊した古い木造住宅で瓦が多く採用されていただけのことです。昔の住宅は必要な耐震性能が確保されていないケースが多かったうえに劣化も進んでいるため、被害が目立ったわけです。詳しく書くと長くなるので、詳細は以下の記事をご覧ください。
参考
・【築年代別】耐震性能と耐久性能から考える中古木造住宅の現在価値
・木造住宅の耐久性を決める主要因は何か?
瓦屋根は確かに重いが…
「瓦屋根が重いこと」と、「屋根の重さが耐震にとって重要であること」は事実です。
瓦屋根の重さは 1㎡あたり 45kg 前後であるのに対し、スレートは 20kg くらいです。屋根面積が 100㎡ だと、その差は 2.5 トン。わが家のセラマウントは軽量瓦なので 1㎡あたり 35kg ですが、それでもスレートとの差は 1.5 トンになります。太陽光パネルは 4kW で 300kg とかなので屋根に小錦が乗っているくらい(?)ですが、屋根材の重さはトラック並みです。
リフォームで、瓦屋根を軽量の屋根に交換することによって耐震性能がアップするというのも納得です。
しかし、新築住宅の場合、屋根の重さは設計段階で考慮されます。大雑把に言うと、屋根材が軽量タイプでも重量タイプでも、耐震等級が同じであれば耐震性能は同程度になるはずです。
たとえば、壁量計算において、地震に関して2 階建ての 2 階の必要壁量は、スレートでは 0.15 m/㎡、瓦屋根では 0.21 m/㎡ です。同じ耐震性を確保するために、およそ 1.4 倍の壁量が要求されているわけです。
屋根の下部構造が同じなら屋根が軽いに越したことはありませんが、通常は屋根の重量に対応できるように下部構造を強化しているのです。
耐震強化に費用がかかるとか、間取りの都合でどうしても難しいというのなら、重い屋根材は止めたほうがいいかもしれません。しかし、壁倍率の高い壁構造を採用すれば壁は減らせるし、わが家では無理せず耐震等級 3 を確保できたので、木造住宅でも決して難しいことではありません(ツーバイフォーなどの面構造の工法は壁量を確保しやすい傾向があります)。
それでも心配な方は軽量な屋根材を選んだほうが安心ですが、私が一番安心できると思ったのが、日本ツーバイフォー協会による地震被害調査結果(PDF)です。瓦屋根を採用している築年数の長い住宅を含めても、過去の震災でほとんどのツーバイフォー住宅が大丈夫だったのであれば、倒壊の心配はいらないだろう、と。ツーバイフォー工法限定ですが。
瓦は台風でぶっ飛ぶ?
瓦屋根でもう一つ心配なのが、強風による被害です。強い台風が通過した後には、瓦が飛び、ブルーシートをかけられた住宅が目立ちます。
この点、特に気にしていなかったのですが、昨年、さっそく風の強い台風を経験することがありました。
庭木や近所の大木が倒れて停電になるほどの台風でしたが、結果、わが家の屋根は被害ゼロ。しかし、近所では被害を受けている住宅もあります。
何が違うのか、将来はわが家も劣化して危なくなるのだろうかと思って調べてみると、わが家の瓦(セラマウント)は「防災瓦」というもので、台風や地震に強い接合構造を採用しているようです。地震等で被害が多いのは昔主流だった土葺きの瓦屋根であり、1999 年に全日本瓦工事業連盟が定めた「ガイドライン工法」によって葺かれた屋根は、耐震性も耐風性も大幅に改善されているとのこと。知らないうちに改良されていたとは、ありがたいことです。
同じ瓦でも、軽量防災瓦はお勧めです。
軽量瓦といっても従来の瓦より何割か軽いだけで、スレートや金属屋根と比べれば重量はあります。耐震性能の簡易的な計算法として使われている壁量計算において、屋根は「軽い屋根」と「重い屋根」の 2 種類に分けられるのですが、軽量瓦も分類上は「重い屋根」の扱いです。ただ、この大雑把な分類により、軽量瓦でも従来の瓦と同じ耐震性能が要求されるため、実際には軽量である分、耐震性能に余裕が生じることになるでしょう。
粘土瓦のメンテナンス性
粘土瓦の気に入っているところは、外観もそうですが、一番はその耐久性とメンテナンス費用の安さです。材料自体は非常に長持ちすることが実証されているし、塗り替えも必要ありません。
メンテナンスフリーというわけではありませんが、田島のマスタールーフィングのおかげで(※)下葺材の寿命が 60 年程度確保されるようになったため、生涯にわたって葺き替えの必要がなく、20 年に 1 度くらいの間隔で軽く補修するだけで使い続けることができる予定です(将来何が起きるかはわかりませんが)。
詳細 三井ホームの長期メンテナンス費用は本当に安いのか?【わが家の参考額】
→ 【訂正】三井ホームのMルーフィングはマスタールーフィングではなかった…
スレートや金属屋根の場合、10 ~ 15 年程度で塗り替えが必要になることが多く、その度に結構な費用がかかります(ジンカリウム鋼板は塗装不要)。
長持ちするグラッサシリーズのスレートや金属屋根も魅力的ですが、これらは 30 年以上の長期の実績が不透明です。60 年もつかどうかと考えると不安があり、新築時に採用すると、生涯のいつかの時点で葺き替えが必要になり、大金がかかる可能性があります。
SGL など新しい建材にも期待が持てますが、生涯もつ耐久性があり、塗り替えが不要であるという実績ある屋根材は、今のところ粘土瓦以外にはなかなか思い当たりません。
もちろん、高い耐震性能を確保することは大前提です。耐震性能が十分でなければ、生涯に経験するであろう大地震で倒壊は免れたとしても、内・外装材が被害を受ける可能性は高まります。
その点さえクリアできるのであれば、陶器瓦というのも選択肢としては悪くないのではないでしょうか。
参考
・耐震等級3を超える耐震性能を求める理由
・地震の繰り返しに耐える住宅とは(変位角と耐震性)
粘土瓦のメリットその他【追記】
その後、粘土瓦についていくつかメリットを感じることがあったので、紹介しておきます。
それは、粘土瓦は通気性がよいことです。これにより、
- 屋根材と矢地合板の間の乾燥を保ちやすい
- 日射熱で暑くなった熱を逃しやすい
というメリットがあるように思います。
1については、近年増えている金属屋根は防水性に優れていますが、通気性もありません。屋根材の内側に通気層を確保し、きちんと換気させることは簡単ではなく、近年その問題が注目されています(対策はあります)。
瓦屋根であれば通気性が良いため、屋根材のすぐ下の結露水を心配する必要がありません。
2についても、真夏の屋根材は非常に高温になりますが、空気を挟むことで伝導熱として影響しにくく、室内への熱移動が軽減されているように感じます。わが家の屋根断熱材は 140mm と多くありませんが、その程度で 2F や空調のない小屋裏空間が暑くならないのは、瓦屋根のおかげもあるのではないかと思っています(他の屋根材でも通気下地屋根構法などもあります)。
参考 屋根の断熱材は 140mm で足りない?猛暑日に測定した結果…
最後に、参考までに、こちらの記事で紹介しているように、屋根材の選択率の推移などのデータは住宅金融支援機構が公表しています。
コメント
うちも瓦です。最近の瓦は防災性に優れているので良いと思います。耐震性は家の耐震性能で対応しているので問題無いです。南海トラフ地震でどうなるか分かりませんが。
毎年冬に報道される雪国の雪下ろしが、家の耐荷重性が低い古い家だからと認識した時は切なかったですね。耐荷重性が有れば、周りの家に雪が落ちないための無落雪、雪全部屋根に乗っけとけも出来ますし、新しい家は家が潰れない目的ので雪下ろしはもちろん不用です。それも、歴史、文化、それぞれの世代の生き様ですね。
山形の銀山温泉の雪下ろし風景も毎年報道されます。文化、歴史を残す取り組みに感心しますが、どうかご安全にと願います。
この頃はガルバリウム鋼板屋根が増えていますが、瓦も良いですよね。耐震性の低い住宅ほど上部の揺れの増大が大きいので、耐震性との兼ね合いですが。
雪国の住宅は考えることが多くて大変だなと思います。