坪単価の高い住宅会社の営業や広告ではよく、「建築費は一見高く見えるけどトータルコストで考えれば安い」ということを主張します。
2016年にわが家を建てた三井ホームもご多分に漏れず、メンテナンス費はかからないと言います。
本当でしょうか?
ここでは、前回紹介した戸建住宅の一般的な長期メンテナンス費用と比較することにより、生涯のメンテナンス費用について検討したいと思います。
契約前後の2種類のメンテナンスコスト試算
三井ホームの長期メンテナンスコストについて、私が受け取った資料は 2 つあります。
1 つは三井ホームと契約する前に問い合わせて入手した、パンフレット上のモデルケースの試算例。
もう 1 つは、長期優良住宅にしたために引き渡し時に渡された、わが家限定の長期優良メンテナンスプログラムの試算です。
契約前に提示されたメンテナンス費用の目安
この資料には、延床面積 31.5 坪と 45.9 坪の 2 種類のメンテナンス費用の目安が示されています。
詳細は省きますが、当時の資料によると、60 年目までにかかる費用の目安は以下のとおりです。
31.5 坪のケース:約 408 万円(積立月額 5,667 円)
45.9 坪のケース:約 592 万円(積立月額 8,221 円)
これを見れば、多くの人は高くないと感じるのではないでしょうか。
しかしこれには、どこまで含むかという問題があります(後述)。
引渡し時に提示されたメンテナンス費用
問題は、建物が完成し、引き渡しを受ける当日の終わりに提示された、長期優良メンテナンスプログラムの試算です。
わが家は二世帯住宅なので資料は合計金額ですが、概算でテキトーに案分した結果、延床面積約 40 坪のわが家の 60 年目までのメンテナンス費用は、約 1,200 万円でした。。
月額にして、約 1 万 7 千円です。
最初にこの資料を出されたときは、さすがに「前に聞いた話と違って高くない?」と思いましたが、ベテランの営業担当者は、ケロッと「あくまで概算で、実際にこのとおりに費用がかかるわけではありません」とか言ってごまかします。
そのときは、「ブルータス、お前もか!」と不信感を抱きつつも、細かい数字が多くてよくわからないし、ハッピーな引き渡し時にモメたくないし、そもそも今さら喧嘩してどうにかなることでもないし、金額に動揺するのもカッコ悪いし、まだ先のことだしと、とりあえず深く考えないことにしました。
現実逃避です。
が、いつまでも考えないわけにはいかないので、最近になってやっと真剣に向き合うことにしました。ここまでくるのに 3 年以上かかりました。。
それはさておき、今回検討したいのは、この 1,200 万円の内訳と妥当性、そして一般戸建住宅のメンテナンス費用との比較です。本当にそんなにかかるのか、それはフツーより高いのか否か。
大雑把な内訳は以下のとおりです(単位:万円、税別、一部簡略化)。
項目の中ほどに罫線がありますが、この上側が「躯体耐久性維持のためのメンテナンス費用」で、その下が「その他のメンテナンス費用」だそうです。
それぞれ同じくらいの額になりますが、契約前に見たメンテナンス費用は前者だけで、実際には後者もかかるというワナだったのです。ちょっと考えればわかる話ですが。
それぞれの項目別の金額についてリフォーム費用の相場をいろいろ調べてみると、概算とはいえ妥当なところという印象でした。
全館空調の費用が 10 年目、30 年目、50 年目という間隔になっているなど、ところどころ意味不明ですが。
一般的な戸建住宅のメンテナンス費用と比較してどうか
1,200 万円は大きな金額とはいえ、前回記事で紹介した、一般的な戸建住宅の 60 年間で約 2,000 万円という長期メンテナンス費用(以下、「一般費用」)と比べると安いものです。しかしこれは、比べている項目が異なります。
大きな違いとして、一般費用では 60 年目に行うメンテナンス費用(約 300 万円)が計上されていません。60 年経つ頃にはおそらく死んでいて、死が近いのに新品同様の状態に戻すリニューアル工事を行う必要はありません。住宅をそれ以上使うのであれば使う人が工事費用を負担すればいいので、60 年目の工事費用を考えないのは合理的でしょう。
そのほかにも、細かく見ると以下のような違いが見つかりました。
一般費用に含まれず、三井ホームの総費用に含まれる項目
空調機の費用:123 万円
防蟻処理:109 万円(以下、50 年目頃までにかかる費用)
基礎:12 万円
この 2 つは一般費用に含まれているのかよくわかりませんでしたが、含まれないものとして一般費用にこれらを足し合わせるとすると、生涯の一般費用は約 2,300 万円ということになります。
三井ホームの総費用に含まれない項目
反対に、一般費用に含まれていて、三井ホームの計算に含まれない項目としては、壁紙・天井・床の張り替え、内部建具の交換、浴室・キッチン・洗面所・トイレの大規模なリフォームなどがありました。
三井ホームのメンテナンス計画でユニットバスは 10 年ごとの再シーリングのみとなっていますが、ユニットバスを補修のみで 60 年間使い続けられるのかは大いに疑問です(30 年目の交換が推奨されています)。
トイレについても、60 年後の未来に 60 年物のトイレを使っていることは想像しにくいので、いずれ交換は必要になるでしょう。キッチン・洗面所も同様で、これらのリフォームには、どれもまとまったお金がかかります。
そう考えると、三井ホームの 50 年目までの「その他のメンテナンス費」が 478 万円というのは非現実的です。いくら建材が進歩しているとはいえ、一般費用から躯体維持等の費用を除いた約 1,400 万円という数字の方が、「その他のメンテナンス費」としてしっくりきます。
なお、ここまでの計算に以下は含まれないので、その点にも注意が必要です。
どちらのメンテナンス費にも含まれない項目
- 全館空調メンテナンス費:120 万円(年間約 2 万円)
- 外構のメンテナンス費(ゲート、チャイムなど)
- 生活家電・照明器具
- 水道光熱費
- 固定資産税
- 消費税
これらももちろん重要です。
三井ホームの生涯メンテナンス費用は安いか?
こんな感じでざっと計算してみると、三井ホームのわが家における 60 年間のメンテナンス費用は、ざっと 2 千万円くらい(躯体耐久性維持に約 400 万、その他 1,500万円~)はかかるのではないかという結論に達しました。最近の壁紙は汚れにくく、内装材がどこまで持つかは不明ですが、備えておくに越したことはありません。やはり、それなりの貯金は必要です。
一般費用と比べると、躯体耐久性維持にかかる費用は数百万円安く済みます。外壁再塗装は一生に 2 回でなんとかなりそうですし、屋根は瓦を採用していれば、葺き替えも塗装も必要ありません(下葺きにはマスタールーフィングを採用→※誤解していたため最後に追記しました)。
しかしその分、初期費用も高めなので、トータルで考えると特別に高くも安くもないといったところでしょうか。
その見積りは甘い、というご意見等ございましたらご指摘願います。
次回は、各項目を調べてみて気が付いた、メンテナンス費用を抑えるポイントについて考えてみたいと思います。
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【訂正】三井ホームのMルーフィングはマスタールーフィングではなかった…
三井ホームの屋根の防水シートについて、仕様書には田島の「Mルーフィング」との記載があります。
田島ルーフィングといえば防水材等の大手メーカーであり、耐用年数約60年のハイエンドモデル「マスタールーフィング」も有名です。
私は、
・メーカーが同じこと
・三井ホームが一般より高耐久なルーフィングを採用していると宣伝していること
・長期メンテナンス計画に屋根の葺き替えやルーフィング交換が含まれていないこと
の3点から、てっきり「Mルーフィング」は「マスタールーフィング」のこと、もしくは同等品であると思い込んでいました。。。
コメントで別物とご指摘いただき、改めて調べ直したところ、三井ホームの「Mルーフィング」を「マスタールーフィング」だろうと推測した人は他にもいましたが、本当に別物でした。
よく確認せずに誤解を生む記述をしてしまい、大変申し訳ございません。
詳細は三井ホームのライフサイクルコストのページに書かれており、三井ホーム独自のMルーフィングの性能表(一部)が書かれていますが、田島のマスタールーフィングのカタログにある仕様と比べると、「低温可とう性」と「耐久性」の性能が明らかに劣っています。
三井ホーム「Mルーフィング」の耐久性は、マスタールーフィングの約60年ではなく、「30年以上」とのこと。
ひょっとしたら50年くらい持つのかもしれないとも思えるあいまいな表現ですが、マスタールーフィング並みの耐久性を期待してはいけないでしょう。
30年を超えたら、雨漏りのチェックを入念に行うようにしたいと思います。40年目の2回目の塗り替え時などに、瓦を再利用する形でルーフィングを交換する必要が生じるかもしれません。
いつかの点検時に確認してみたいと思います。
コメント
こんにちは。
いつもブログ見てます。
メンテナンス費用は悩ましい問題です。
最近知ったのですが、屋内配線にも寿命があるらしいですね。
それを交換するとなると内壁を全部剥いだりしないといけないので、相当大掛かりになるみたいです。
コメントありがとうございます。
屋内配線の寿命についてちょっと調べてみたところ、昔の仕様では交換したほうがいいとか 60 年は大丈夫とか様々な意見がありました。
たぶん大丈夫な気がしますが、三井ホームのメンテナンス計画の配線 5 万円は過小評価で、調査論文の約 37 万円が現実的かと。
考えてみれば 60 年使い続けている住宅は現在の日本にほとんどなく、建材も変わってきているので、将来どんな問題が出てくるかはよくわからないですよね。
その分余分にお金を用意できれば理想的ですが、悩ましい問題です。
Mルーフィングはミツイルーフィングでマスタールーフィングではないですよ!
ご指摘ありがとうございます。
誤解して誤った記載をしており、誠に申し訳ございません。
訂正し、追記しました。