制震装置の費用対効果と間取りの制約を考える | さとるパパの住宅論

制震装置の費用対効果と間取りの制約を考える

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当サイトでは、高い気密性能を維持するためには地震による変形を小さく抑えるべきであり、面構造の工法を採用するか、軸組工法の場合は制震装置を付けるのがお勧め、と述べてきました。

参考
耐震等級3を超える耐震性能を求める理由
制震・免震は必要か

しかしながら、神崎先生が訪問された際のくろーばーさんの記事(こちら)を読み、制震装置(制震ダンパー・制震テープ)について少し疑問を抱くようになりました。

ここでは制震装置について改めて調べてみて気づいたことを書いてみたいと思います。

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制震ダンパーの設置位置と制約について

制震ダンパーを設置するとして、どこに設置するのかは重要です。

制震ダンパーは変形を熱に変換するものなので、有効なのは変形が大きい箇所となるでしょう。

となると、なんとなくですが、住宅の中央部よりは外周部のほうが変形は大きそうです。

制震ダンパーの設置箇所について調べると、1 階のX・Y方向の中央付近の壁に 1 つずつで合計 2 箇所というケースと、1 階の南北・東西方向の外周付近の壁に 2 つずつで合計 4 箇所というケースがあることに気づきました。

計 2 箇所のケース

計 2 箇所の制震装置は、たとえばミサワホームの MGEO-N です。

計 2 箇所でよく、中央部で良いとなると、間取りがあまり制限されない点は魅力的です。

しかし、住宅中央部の変形は外周部よりは小さいため、効果が落ちるのではないかという点が気がかりです。

以下の左図のように小規模な住宅ならまだしも、右図のように大きくなればなるほど、全体の揺れを制御するのは難しくなるのではないかという気がします。

これを裏付けるように、MGEO-N には建築面積 100 m2 以下という制約があります(延べ床面積ではありません)。

また、耐震性を図示するためのモデル計算を床面積 52 m2 という条件で行っているところを見ても、小規模住宅ほど効果が高いのだろうな、と勘繰ってしまいます。

ただ、地震時の変形角のグラフを見ると大きな効果が期待できるため、実際の効果がそれより劣るとしても、個人的には採用したいと思います。

気になる費用公式サイトに一般的な免震の1/5程度とあり、免震が250~400万円/棟とあるので、50~80万円と予想されます。

参考
地震の繰り返しに耐える住宅とは(変位角と耐震性)
ミサワホーム木質系とミサワMJホームの耐震性能を比較する

計 4 箇所のケース

一方、木造住宅用制震ダンパー供給実績 No.1 という住友ゴム工業のミライエ(MIRAIE)は、以下のように外周付近に各方向 2 箇所ずつ設置するようです。

こちらも 4 箇所の場合は延べ床面積 140 m2 以下という制約があるようですが、配置としてはより高い効果が期待できそうな気がします。

しかしながら、この位置に 4 箇所設置するとなると、長方形の建物では特に間取りに制限を受けることがありそうです。

費用については、日経記事に施工料を含めて約 30 万円という記載が見つかりました。4 つだからといって 2 つの MGEO-N より高いわけではなさそうです(ちなみに MGEO-N にも住友ゴム工業が関係しています)。

費用対効果

上の 2 つはどちらも魅力的なものではありますが、気になるとすれば費用です。

「耐震等級3、制震装置なし」より「耐震等級2+制震」のほうが耐震性が高いとしても、安価に実現できるのはおそらく前者です。

くぎの間隔によって壁倍率を増やすことができる 9mm 特類の構造用合板は、ホームセンターで見ると 1 枚千円とかの値段で売られています。壁倍率 5 の壁は、制震装置と比べれば非常に安価なものです。

費用対効果を考えれば、壁倍率の高い耐力壁をバランスよく配置し、よく言われている地震に強い設計(総二階建て、軽い屋根、吹き抜けの注意など)を採用するのがベストな気がします(構造用合板を多用して壁を増やすことを突き詰めるとツーバイ工法になると思います)。めったに起きない大地震でも倒壊しないレベルを実現することは十分に可能でしょう。

しかしながら限界はあるし、いろいろ考えると耐震性を犠牲にする設計を採用したくなることもあります。変形を極力抑えて内装材の被害まで最小化しようとすると、個人的にはやはり軸組工法に制震装置はあったほうがよいのかなと思います。

制震装置の是非が人それぞれなのは、耐震性の目標をどこに置くかの違いなのではないでしょうか。

制震と耐震のトレードオフ

耐震等級 3 に制震を付ければ最強だろ?と安直に思っていましたが、耐力壁を設ける代わりに耐震ダンパーを設置すると、耐震ダンパーは通常耐力壁とみなされないがため、耐震等級は下がる恐れがあるようです。

ミサワMJホームは当初、耐震等級 2 + MGEO-N を標準仕様としていましたが、耐震性を評価すると耐震等級 3 より強くなるのでそれで良しとしていたのでしょう(最近は標準で等級3 + MGEO-N)。

最後に、制震について調べていたら、とても興味深いブログを発見しました。一般的な一級建築士の知識を超える本物の構造の専門家が、建物の安全性について、偏りなく本音で解説してくださっています。なんとなく引っかかっていた複雑なことが正確にわかりやすく書かれているので、納得することばかりです。

バッコ博士の構造塾
建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

ここを読むと構造力学を少しかじっただけの私の説明のいい加減さがバレてしまいますが、あらゆる構造・工法の耐震性について興味のある方に強くお勧めできるサイトです。話題の制震テープについて徹底解説しているページもあります。

当サイトと違うことが書いてあれば、そちらを信頼してください。

コメント

  1. くろーばー より:

    さとるパパさん

    こんにちは。
    くろーばーです。

    構造、耐震、制震。

    建築素人の自分にはホントに分からないことだらけです。

    プロの神崎先生をはじめ、さとるパパさんのような
    建築に造詣の深い方の発信で勉強させて頂いています。

    いつもありがとうございます。

    まだブログでは書いていませんが、神崎先生は、
    簡易免震装置「UFO-E」についても懐疑的なお考えでした。

    お話を聞く時間が少なくて、詳しくはきけずじまいだったのですが、
    やはり構造などのことはプロに聞くのが一番だなと思いました。

    それも型式認定などにたよる設計士ではなく、きちんと自身で
    構造計算できる設計士でないといけないと。

    今回、さとるパパさんがご紹介して下さった
    バッコ博士さんのブログも、すごく勉強になりそうで、
    またゆっくり拝見させて頂こうと思います。

    それにしても・・・リンクで我がブログを改めてみると、
    さとるパパさんの知的なブログからの落差がすごい・・・。

    いろんな意味で勉強させて頂きます(>_<)

    • さとるパパ より:

      こんにちは。お世話になってます。
      私は断片的な知識しかないので本当の専門家から見ればいい加減なことも書いていると思います。
      本当の専門家の方によるネット情報は限られ、ネットには明らかに誤った情報も氾濫しているので、その穴を埋めて少しでもマシな情報を提供できればと活動していますが、構造に関しては素晴らしいブログがあると知り、紹介したほうが早いと思いました。

      また私は気になったことしか調べないので、UFO-Eは知りませんでした。
      地震と建物については厳密に考えるとあいまいなところが多く、方法ごとに効果があるケースとないケースがあったり、確率的な事象もあるので、適正に評価することは本当に難しいと思います。
      何を求めているのかを明確にして信頼できるプロに相談するのが一番なのでしょうね。

      くろーばーさんのブログはくろーばーさんなりの良いところがあり、役に立つブログだと思って応援しております。
      ちなみにバーンリペアさんは三井ホームに床鳴り補修をお願いした時の委託先で、同じく若く丁寧な印象でした。

      今後もよろしくお願いします。

    • バッコ より:

      『バッコ博士の構造塾』を書いていますバッコです。
      当ブログをご紹介頂きありがとうございます。
      なにか構造のことで質問等ありましたら、お気軽にお声かけ下さい。

      • さとるパパ より:

        はじめまして。勢いで勝手に紹介してしまいましたが、コメントまで頂き、ありがとうございます。
        わかりやすくまとまった説明の中にも熟考と豊富な経験が感じられる貴重なブログで感銘を受けました。
        今後も疑問が生じたときの指針として有難く利用させていただきたいと思っております。

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