耐震等級だけで地震に対する強さを測ることはできない

「〇×工法は地震に強い」とかいう話はよく聞きますが、「耐震等級1ピッタリで設計した建築物の耐震性はどの工法でも同じ」とも言われると、混乱しそうになります。

耐震性能は耐震等級で表されると単純そうに思えますが、意外と複雑です。
耐震等級は重要な指標のひとつですが、それだけではありません。

この記事ではそのあたりのことについて、いちおう構造工学研究室出身の私が思っていることを書いてみたいと思います。

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耐震性能にも狭義と広義がある

耐震性能が高いというと、地震に強く、大きな地震があったときに被害が小さいことを想像しますが、これは広義の耐震性能です。「地震に耐える」性能という意味で私も使っていると思いますが、建築の世界での「耐震」は、より限定的な意味で使われることがあります。

もっとも狭い意味では、一度の大きな力を受けたときに崩壊するかどうかだけが、耐震性能のものさしになります(倒壊等防止基準)。

たとえば、耐震等級でみている耐震強度は、狭義の耐震性能です。
耐震等級2は1の 1.25 倍の強度、等級3は1の 1.5 倍の強度、と一軸の数字で示すことができます。

どこが違うんだと思うかもしれません。実際、同じ工法で見る場合には、違いを意識する必要がないことも多いと思います。

一番の違いは、この狭義の耐震性能には制震や免震の概念が含まれていないことです。

この違いは、1~2枚の耐力壁を制震装置に置き換える例を考えてみるとよくわかります。
制震装置を付けることで地震の揺れが弱まり、地震に強くなることが期待できますが、狭義の耐震性は、耐力壁が減った分、低下すると見なされます。

つまり、実際の地震被害(広義の耐震性)で考えると、耐震等級2+制震のほうが、耐震等級3の建物よりも被害が少ない、ということもあり得るわけです。

免震住宅であれば、そもそも大きな力を受けないため、狭義の耐震性能は不要であり、耐震等級を評価する必要もありません。

住人からすれば、被害が小さければよいわけで、狭義の耐震性能や耐震等級は、必ずしも最重要ではないわけです。

耐震等級でわからないこと

耐震等級や狭義の耐震性能だけでは、現実に起きる地震に対する強さを正確に判断することはできません。
耐震等級が高いほど総合的に地震に強い傾向はありますが、あくまで傾向であり、評価の対象とはなっていないことも多くあります。

耐震等級で評価しているのは建物の強さだけなので、地盤が弱く地震の揺れが強くなる土地かどうかなどは考慮されません。

また、耐震等級で評価しているのは設計上・理論上のことなので、金物が適切に取り付けられていなかったなどの施工ミスがあると、実際の耐震性能はもっと低いことになります。

繰り返しの大地震に対して強いかどうかも、耐震等級の評価では考慮されません。

性能評価も新品の状態を基準にしているため、劣化が進んだ状態で耐震性能がどれだけ落ちるかまではわかりません。

設計で想定している以上に重たいものを二階や屋根に置いたりすれば、多かれ少なかれ地震には弱くなります。

ざっと思いついたことはこの程度ですが、他にもいろいろあるかもしれません。

地震に強い工法と耐震等級の関係

〇×工法は地震に強い(弱い)などという話はゴロゴロあり、根拠の怪しい話も多々ありますが、正しいとしても、平均などの大まかな傾向の話だということには注意が必要かもしれません。

個別の家が地震に強いかどうかはケースバイケースです。A工法の住宅だからB工法より強いなどと単純に言い切ることはできません。

たとえば、工法Aと工法Bがあり、水平軸を狭義の耐震性能、高さを軒数とし、次のような分布をしているとします。

この場合、次のようなことが言えますが、どちらもウソにはなりません。

  • 工法Bは工法Aより耐震性が高い(平均の話)
  • 工法Bより耐震性が高い工法Aの住宅がある(設計しだいという話)

また、工法Aを採用している住宅会社が耐震等級3以上という社内基準を設けて住宅を建てている場合、工法Bより強いということもできます。

なお、ここでの強さは狭義の耐震性だけの話です。狭義の耐震性はある力で崩壊するか否かなので、建物がどれだけ傾き、被害が出るかとはやや別の話です。
たとえば、等級3を超える工法Aの住宅の被害(崩壊に至らない程度の損傷被害)が、等級2の工法Bの住宅被害より大きいことも、十分あり得る話です(一般に、同じ工法なら耐震性能が高いほど被害が小さくなる傾向はあります)。

詳細 地震の繰り返しに耐える住宅とは(変位角と耐震性)

耐震等級の精度とバラつきの問題

一口に耐震等級3レベルなどといっても、その確認方法はさまざまで、実際の耐震性能には差がある可能性があります。

構造計算にもさまざまな方法があるし、(狭義の)構造計算を行わない壁量計算という方法もあります。
第三者による認定を受けている法律に基づく耐震等級3もあれば、自社チェックだけで等級3相当としているところもあります。

これらはどの方法がダメというものではなく、精度とコストの問題です。正確性の低い方法で耐震等級を決めている場合、平均は同程度でも、個々の住宅でバラつきがあります。たとえば、壁量計算・自社チェックで等級3ピッタリとしている住宅を厳密に調べたとしたら、実は等級3に満たないというケースも、等級3を余裕で超えているというケースも、どちらも見つかる可能性があります(仕様規定は余裕をとる範囲が大きいため、超えているほうが多いのではないかと推測します。あくまで個人的推測ですが)。

構造計算をしっかり行ったほうが、実際に設計上の強度が期待できる確率が高まるし、弱点や改善点がわかることもあるため、やるに越したことはありません。
第三者チェックも同様です。

ただしこれらはタダではなく、コストがかかることなので、実際にどこまでやるかは、各々が総合的に判断すればよいことでしょう。

私なら、意匠系の建築士の設計なら第三者の構造チェックを受けたいと思うし、自社評価の信頼性は大手ハウスメーカーと小さな工務店とでは差があるかもしれない、とも思います。

地震に対する真の強さを測るには

以上より、耐震等級は大事ですが、そればかり注意すればよいものではありません。

地震に対する総合的な強さを確認するには、過去の震災被害を調べ、帰納的に考察するのが一番ですが、過去の住宅と現在の住宅は異なるし、単純な比較は難しいことも多くあります。

こだわるなら、地盤改良、施工ミス・チェック体制、過去の実績、耐震実験、制震装置、劣化対策、耐力壁の種類や配置バランスなど、さまざまなことを検討することになります。

やはり様々な知恵を付けて総合的に判断するしかないのでしょうが、一つ言えるのは、住宅の耐震性は以前よりだいぶ改善しているということです。

参考 木造住宅の築年度別耐震性

阪神大震災以前の住宅などと比べるとかなりの改善があり、倒壊の恐れがあるような新築住宅の割合は減っています。
注文住宅を手がける大手ハウスメーカーなどは特に、命の危険がある住宅は少なく、あとはどこまで被害を軽減するかという段階に入っているように思います。

ミサワホームなどは、倒壊ゼロや繰り返しの地震に耐えることだけでなく、内装仕上げ材の「損傷ゼロ」までをも目指していることを公言しています(ミサワホームだけを推すわけではなく、地震に強い住宅のカタチはいろいろあると思います)。

「地震に強い」とはどの住宅会社も宣伝することですが、どの観点で、どのレベルで強いといっているのかを見極めようとすると、違いが見えてくるかもしれません。

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