野村総研によると、日本では将来的に空き家が急増するそうです(参考)。
わが家の隣も空き家になっていますが、空き家はゴミを捨てられやすく、病気持ちの野良猫やタヌキが住みついたり、木が巨大化したりと、さまざまな問題があります。中古住宅もできれば活用していきたいものですが、既存の住宅には耐震性などの点で多くの問題があります。構造上の欠陥を抱えたままでは、表面をリフォームしても長く住み続けることはできません。
ここでは、日本の一般的な木造住宅について、耐震性能と耐久性能の観点から仕様の変遷を確認し、築年代ごとにどのような問題があり、改善にどの程度のコストがかかるのかについて考えてみたいと思います。
木造住宅の築年度別耐震性
木造住宅の耐震性については、以下のページに多くの調査データが紹介されています。
なかでも、最新(2019年1月)の「建築年度別にみる耐震性に関するデータ(PDF)」を見ると、2000年以前の住宅でも現行の耐震基準を満たさない住宅が多く、1980 年以前の住宅は特にリスクが高いことがわかります。
しかし、上記のデータを出している日本木造住宅耐震補強事業者協同組合(木耐協)という団体について調べると、「危ないと恐怖心を煽り、商売をする詐欺集団」とまで言われています。
そこで、木耐協という団体についても少し調べてみました(読み飛ばして結構です)。
木耐協の情報は信用できない?
木耐協は、確かに耐震補強で商売をしている業界団体ではあります。理事長はエイム株式会社という耐震関連会社の社長ですし、他の理事も同様の企業の方々です。メーカー会員には、私が以前就活をした企業も含まれていました(入る気ゼロだったので落ちました)。
つまり、耐震補強工事が増え、耐震金具が売れることで利益を受ける団体です。耐震補強をめぐっては、恐怖をあおって高額のリフォームを行う詐欺事件もよく問題になります。「そんな業界団体の情報は信用できない」と思うのも無理はないかもしれません。
しかし私はそうは思いません。耐震補強で詐欺が発生しているからといって、すべての耐震補強が詐欺的に行われているわけではありません。「平成12年5月以前の木造住宅 90%超の住宅が耐震性不足」といった見出しはやや煽っているようにも感じられますが、データをよく見ると、特におかしな点は見当たりません。
木造軸組工法では接合部に大きな負荷がかかるため、壁や金具で補強する必要があることは明らかです。2000 年の建築基準法改正で金具の適切な使用が義務付けられたのは、耐震性を考えるうえで不可欠と判断されたからでしょう。
現行の耐震基準を満たす住宅と比較し、それ以前の住宅で耐震性に劣る住宅が多いのは当然予想されることであり、木耐協の調査方法にも特に問題があるようには思えません。強いて論点を挙げるとすれば、倒壊するかどうかの判定基準となる地震が「数百年に一度起こる震度 6 強クラス」であることがやや安全寄りではないか、というくらいでしょう。
そんなわけで、耐震診断や耐震補強工事を木耐協に頼むべきかどうかは別として、調査データは十分参考になるものだと思います。上記の最新データは興味があればよくご覧いただくことをお勧めします。
参考
▶ 面構造と軸組工法
▶ 耐震等級3を超える耐震性能を求める理由
築年代別耐震リフォーム費用
上記のデータには耐震補強工事の金額も記載されているので、おおまかな費用の目安がわかります。
1980 年以前築の補強工事額は一般的に約 160 万円(中央値。平均額は約 188 万円)。
1981 ~ 2000 年築の補強工事額は一般的に約 125 万円(中央値。平均額は約 150 万円)。
つまり、これらの築年代の中古住宅を購入する場合は、最低でも上記の費用が掛かるものと考えるべきでしょう。
また、耐震補強工事の見積りをとったときに上記とかけ離れた金額を提示されたら、疑ってかかる必要があるでしょう。
木造住宅の築年度別耐久性
木造住宅の耐久性については複雑です。壁内や構造木材に水分が溜まらない構造になっているかどうか、屋根やバルコニー・外壁の防水機能がしっかり維持管理されているか、シロアリ被害に遭っていないかどうかなどが影響し、住宅の仕様だけでなく、住み方やメンテナンス状況によっても変わってくるためです。
特に問題だと思うのは壁内結露対策です。詳しくは「木造住宅の寿命は20年~200年?住宅仕様と耐久性の変遷」に書いたとおりです。
ポイントとしては、以下のような条件が絡み合い、1980 年以降の木造住宅では、程度の差こそあれ多くの住宅で壁内結露が起こっているのではないかと思われます。
- 気流止めがあるか
- 通気層工法か
- 気密シートを使用しているか
- 剛床工法(根太レス工法)か
- 外壁側に構造用合板を張っているか
- 灯油でヤカンを沸かす暖房か
特に重要と思われる気流止めの問題については、「Q値C値に現れない高断熱住宅の要「気流止め」の問題」に書いたとおりです。
北海道などの寒冷地を除く日本の住宅の仕様としてこの問題が解決されるのは、少なくとも H11 省エネ基準の等級 4 以上の住宅のみです。かなり多くの木造住宅で問題が残っていることが予想されます。
この問題を抱えている住宅では、まず気流止めを設置することが望ましいでしょう(ツーバイフォー工法なら不要)。これにより、壁内に入る水蒸気量が大幅に減って劣化が進みにくくなるだけでなく、壁の断熱材がはじめて効力を発揮できるようになるでしょう。
現行基準レベルへのリフォーム費用
上記のとおり、2000 年以前の木造住宅には一般的に多くの問題があります。これらの耐震性を上げ、気流止めを設置し、現行省エネ基準レベルへの断熱改修を同時に行うとすると、費用対効果の高い方法でも、設備周りや一部の内外装改修を含めてリフォームにおおよそ 500 万円ぐらいはかかるようです。より大規模な改修を行うとなると、1000 万円を超えることも普通にあるようです。
既存住宅の活用について思うこと
はじめは中古住宅を活用すべきと思って調べたのですが、調べた結果として思うのは、中古木造住宅の活用はなかなか厳しいということです。2000 年以前築の住宅は劣化対策に問題がある傾向があるのに、すでに 20 年くらいは経過しています。
ある程度の住宅性能を妥協せず、リフォームに高額なお金がかかるなら、いっそのこと新築で建てたほうがいいと思ってしまいます。よほど自宅に愛着がある人を除き、リフォームで何とかしようとはなかなか思わないのではないでしょうか。
すき間が多すぎるため結露せずに長持ちしている古民家を再生し、局所暖房で暮らせばいいという考えもありますが、高断熱住宅の生活を知ってしまった私にはもう、あの生活は耐えられません。
中古住宅なら、築 2000 年以降で長期優良住宅の認定を受けているような高性能住宅か、鉄筋コンクリートのマンションに内窓を付けるかの選択になりそうです。
ただし、多少古い住宅でも、ツーバイフォー工法の住宅は狙い目かもしれません。2000 年以前築であっても仕様上壁が多く、柱がないので耐震金具の必要箇所が少なく、耐震性能はもともと高めです。また、気流止めの問題がないため、壁内や小屋裏の結露の問題が比較的マシなのではないかと思います。親戚が最近中古で購入したツーバイフォー住宅を見てみましたが、間取りにやや古さを感じたものの、建物自体はまだまだ丈夫そうでした。
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