断熱性能が高いほど暖冷房費が安いのは本当か?【ZEH住宅の実測調査結果】 | さとるパパの住宅論

断熱性能が高いほど暖冷房費が安いのは本当か?【ZEH住宅の実測調査結果】

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断熱性能が高いほど暖冷房費が安くなるとはよく言われていることですが、多くは理論上やシミュレーション上の話であったり、少数の住宅での事例であったりします。
私はずっと、高断熱の住宅に住んで本当に暖房費が安くなるのかは疑問でした。断熱性能が高くない住宅では多くの人がすでに暖房を節約して使っているし、なによりわが家の電気代が高いからです。

断熱性能と実際の暖房費の関係を調べた大規模なデータはないのかなと探してみたら、一般社団法人環境共創イニシアチブによる次の調査結果を発見しました。

『ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス支援事業調査発表会 2019』資料(PDF)

一般的に高断熱と思われている ZEH 住宅に限定した調査であり、金額ではなく消費エネルギー量のデータにはなります。が、実際の住宅 100 件の HEMS 計測データを分析した結果やアンケート結果が詳しく紹介されており、とても興味深い内容となっています。

ここでは、断熱性能と実際の暖冷房費の関係を中心にいくつか紹介したいと思います。

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断熱性能と暖房費の実際の関係

UA値(外皮平均熱貫流率)レベルごとの年間一次エネルギー消費量の内訳(p.90)は以下のとおりです。

断熱性能を3レベルに分け、右ほど高断熱です。
Q値換算だと、左から、【1.7~1.9】、【1.4~1.7】、【1.4以下】くらいになります。
柱が3本ずつあるのは、左から、基準値、設計値、実績値です。

凡例は以下のとおりです。

このデータからは、次のことが読み取れます。

・設計上は高断熱ほど空調費が安いが、実際は高断熱ほど高い
・高断熱住宅ほど「その他」の電力消費量が少ない
・エネルギー消費量の合計は断熱性能を問わずそれほど変わらない

とはいえこの解釈はかんたんではありません。以下の点に注意が必要だからです。

・3地域~7地域までの住宅が含まれている(高断熱ほど基準値が高いので、おそらく高断熱なのは寒冷地の住宅が多い)
・空調以外の暖房器具は「その他」に含まれる(おそらく高断熱ほど空調以外の暖房器具を使わない)

このため、このデータだけでは、高断熱住宅ほど暖冷房費が高いということは読み取れません。

興味深いのは、UA値 0.54~0.60(Q値 1.7~1.9)の住宅では設計値の約半分しか空調が使われていないことです。代わりにその他の電力消費量が設計値より多いため、エアコンを控えてコタツやホットカーペットなどの局所暖房を使用している家庭が多いのかなと推察します。

次に、温暖な6地域に限定した調査データを紹介します(p.102)。

太線の上側がエネルギー消費量、下側が創エネ量です。3本の柱が、左から、基準値、設計値、実績値であるのは先ほどと同じですが、細かい内訳はありません。カラー付きがZEH評価対象の一次エネルギー消費量(空調・換気・照明・給湯)、グレーがその他のエネルギー消費量というだけです。
暖房はどちらにも分類されるため、トータルで比べると、高断熱住宅ほどエネルギー消費量が小さいという傾向が見えます(ただしそれほど大きくない)。

基準一次エネルギー消費量がより高断熱なグループで多いのは、全館暖房を選択する割合が高いとかでしょうか?

以上のデータから私が感じたのは、「高断熱住宅ほど暖冷房費が安くなる傾向はあるが、その差は大きくない」ということです。

平均値の話なのであくまで傾向ですが、断熱性能が低いほど暖房を節約するため、結果として暖房費はそんなに変わらないのではないでしょうか。

ただ、それならば高断熱にする意味がないのかというと、そうではありません。

ZEH 住民のアンケート結果より

ご覧いただきたいのは、ZEH 推奨ポイントに関する次のアンケート結果です(p.143)。

ここでは左ほど高断熱です。赤の点線の枠で示されているように、UA値 0.4 以下(Q 値 1.4 以下)になると、「部屋ごとの温度差が小さく過ごしやすい」、「冬もお風呂、洗面脱衣所やトイレが寒くない」ことが推奨できると回答した人の割合が急増しています。

ZEHレベルの中でも断熱性能が高いほど推奨ポイントが多く、快適性が高い傾向が見えます。

6 地域限定の温度ムラに関するアンケート(P.120)でも同じことが読み取れます。温度ムラに不満を感じる家の割合は、夏は断熱レベルごとの差が小さいのに対し、冬は UA値 0.4 以下(Q 値 1.4 以下)を境にぐっと減っています。

この差は、暖房の節約意識にも表れています(P.121)。
以下は、断熱レベルごとの、「できるだけ暖房施設を使用しないように心がけた」家の割合です。

UA値 0.4 超(Q 値 1.4 超)の住宅では暖房を節約しようとした家庭が多いのに対し、より高断熱な住宅の住民には暖房を節約するという意識があまり見られませんでした

ZEH 調査結果から思ったこと

UA値 0.4(Q 値 1.4)を境にしたこの差はどういうことなのでしょうか?

私が思うに、ほとんどの人は暖房の連続運転などを行っておらず、暑いとき、寒いときにだけエアコンを使用します。間欠運転です。それでも温度ムラがなく家全体が快適になるのが UA値 0.4(Q 値 1.4)以下の高断熱住宅である、ということかと。間欠運転でも温度ムラが生じないのであれば、ガマンして節約しようと心がける必要がありません。

一方、UA値 0.4(Q 値 1.4)以上の住宅では、わが家のように連続運転を行っている一部の住宅では温度ムラがありませんが、慣習で間欠運転を行っている住宅では温度ムラが発生するのでしょう。これをガマンするかしないかで運用が分かれるのが、UA値 0.4(Q 値 1.4)以上の住宅ということではないでしょうか。

この結果からは UA値 0.4(Q 値 1.4)以下の超高断熱住宅がうらやましく思えますが、これはあくまで傾向の話であり、個別の住宅がどうかは別の話です。そこまで高断熱でなくても温度ムラに悩まされない住宅もあれば、高断熱なのに問題を抱えている住宅もあるはずです。

不思議なことに、別のアンケート(p.120)において、UA値 0.4(Q 値 1.4)以下の超高断熱住宅で「暖房の気流が不快だ」と答える人の割合が、そこまで高断熱でない住宅と比べて大幅に高くなっています。「不快ではない」人も多いのですが、どうやら超高断熱住宅では暖房気流が不快になるかどうかがハッキリと分かれる傾向があるようです。
ルームエアコンを全館空調風に使用することを認めず、各部屋に個別エアコンを設置することを基本とする ZEH 基準の弊害なのでしょうか?私にはなぜそうなるかよくわからないので、こういう理由ではないかという意見がございましたら教えていただけると幸いです。

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