放射温度計で住宅の温度を測定する際の注意点

放射温度計は時に大きくズレた値を表示する場合があるのでこれまで使用してきませんでしたが、場合によっては使えるし、意外と安かった(これが大きい)ので、購入して試しにいろいろと測定してみました。

ここでは、その際に気づいた測定上の注意点を紹介したいと思います。

中学生の自由研究みたいな内容になってしまったので、過程がどうでもいい方は結論だけお読みください。

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購入した放射温度計

放射温度計の価格はピンキリです。高価なものほど精度が高かったり機能が豊富だったりしますが、まずは簡易的なポケットタイプの製品を試すことにしました。安価で売れていたのは海外のものでしたが、信頼性を考慮し、日本の計測機器メーカー「エー・アンド・デイ」の製品を購入してみました。安価な絶対湿度計「みはりん坊W」と同じ会社です。

測定距離(D):測定領域(S)が 1:1 なので、直径 10cm の領域の表面温度を測るためには 10cm の距離まで近づいて測定する必要があります。

測定精度はどのくらいか?

この放射温度計では住宅の温度を測定しようと思っていますが、そもそも放射温度計には実用に耐えられる精度があるのでしょうか。

仕様上の測定誤差

測定精度は、仕様としては次のように表記されています。

測定精度(25℃時):±2.5%または±2.5℃のいずれか大きい方の値(0℃以上)、±4.2℃(0℃未満)

つまり、10℃と表示された場合、7.5 ~ 12.5 ℃くらいの範囲ということです。けっこうな誤差です。

安価な製品であるせいもありますが、5千円くらいする計器でも ±2℃ くらいあります。

また、低温だと赤外線量が小さいためか、精度が落ちる傾向があるようです。

実際に使ってみて感じる誤差

しかし、そうは書いてあるものの、実際にいろいろ測定してみると、測定対象の物質によるものの、意外と正確な印象です。

エタノール水温計で4.2℃のコップの水を測定しても、4.8 ℃でした(沸騰しているお湯は湯気でうまく測れませんでした)。

室内にあるデジタル式温度計の付近を測定してみても表示と 1℃もズレていませんし、何度か測定しても数値のばらつきは ±0.2℃ 程度です。

なお、「物質による」と書いたのは、放射率の影響です。

放射率の違いによる影響

上記の誤差は、放射率が正しい場合の話です。今回の放射温度計の放射率は 0.95 固定であり、測定対象の物質が測定波長の赤外線(おそらく8-14μm 程度)をほとんど反射・透過しないことが前提となっています。

このため、放射率が低い物体表面を測定する際は、補正が必要になります。

また、赤外線の反射・透過は目で見た感じ(可視光域)とは異なる点にも注意が必要です。たとえばガラスは透明ですが、8-14μm 程度の遠赤外線は透過しないため、ガラス越しに手をかざしても、測定されるのはガラス表面の温度になります。

放射率についての説明は、「放射率の正しい設定の仕方」を検索すればわかりやすくまとまっているページが見つかります。

住宅関係で影響しそうな放射率を調べてみると、以下の数値が見つかりました。

物質放射率
人間の皮膚0.98
塗料0.8-0.95
プラスチック0.85-0.95
コンクリート0.94
セメント0.96
0.92-0.96
板ガラス0.94
繊維0.9
布(黒)0.98
オーク0.91

放射率に誤差があると測定値にどのくらい影響するのかは、「放射率が違う場合、どの程度の誤差が生じるか?」を検索すると、詳しく解説された表が見つかります。

解説を見たところ、放射率が低い物質は 0 ℃のものでは測定値が実際より高く表示されるのに対し、50℃のものでは逆に同程度低く表示されます。

このことから、中間の 25℃くらいのものを測定する場合、放射率が 0.85 以上くらいであれば大きなズレは生じないことが予想されます。

金属を除くほとんどの物質は 0.9 前後の放射率があるので、これらを常温で測定する際は大きな問題はないと言えるのではないでしょうか。

住宅の場合、私が主に測定したいのは、窓ガラス、サッシ(表面はアクリル)、壁紙(塩化ビニル)、床材です。

ここで微妙なのがプラスチックです。プラスチックは、材料や表面、波長、測定角度によって放射率が異なる場合があり、これを正確に測るには黒体テープを使用したほうがよい気もします。

しかし、黒体テープを買ってみようと思ったら、5 千円以上します。

黒体テープの代用品を探してみた

黒体テープは高いので、代用品を探すことにしました。テープの粘着剤が溶けるほどの高温を測定するつもりはないので、家にあるテープで放射率 0.9 くらいのものを使用すれば常温での実用上は問題ないと思ったからです。

そこで簡単な実験をしてみました。ヤカンの表面に各種のテープを貼ってお湯を入れ、撹拌して安定させてから、アルコール水温計と放射温度計で各温度を測定してみました。

結果は以下のとおりです。一番左以外は放射温度計の測定値であり、対象物の温度はだいたい同じはずです。

水温計水面ヤカン表面セロハンテープOPPテープガムテープ
4140.825.040.635.840.2

水の放射率は高いので、放射温度計でも水温は結構正確に測定できています。ポリプロピレンのOPPテープは結構ズレています。

この中で一番近いのは、セロハンテープでした。セロハンは実はプラスチックではなく、セルロース(繊維)です。見た目は透明で厚さは 0.05mm しかありませんが、ガラスと同様、可視光線は透過しても測定波長の赤外線は吸収するのでしょう。試しに計器のセンサー部分にセロテープを貼ってみると、体表面温度も測定できなくなります。

ただ、多少は透過性があるため、色付き、ツヤなしのテープなどがあればそのほうが向いているかもしれません(透過しても金属の赤外線反射を抑えられれば問題ない?)。また、セロテープは幅がないため、測定距離にも注意が必要です。

ガムテープ(クラフト紙)も良いのですが、テープ跡が残るのもイヤなので、黒体テープの代わりとしてはセロハンテープを使用することにしました。

なお、ステンレスのヤカン表面の測定値は大きくズレていました。よくサーモグラフィの画像にアルミサッシが写っていますが、これは放射率をきちんと補正しているのでしょうか。していなかったらとしたら、大きくズレているかもしれません。

Amazon で放射温度計のレビューを見ていると、「沸騰している鍋・ヤカンの温度が30℃なんてありえない」などと低評価を付けている人がいますが、これは放射温度計の理解不足です。

追加の実験として、ステンレス製のピカピカの水栓と放射率の高いアルミ箔にもセロハンテープを貼り、正確に測れるようになるのかを試してみました。

そのままの測定値セロハン値
ステンレス水栓22.621.61.0
アルミ箔23.821.62.2

室温は 21.6 ℃に近いので、やはりセロハンテープ越しの測定値のほうが信頼できそうです。

そんなわけで、黒体テープの代用品とまでは言えませんが、放射率が低い物質もセロハンテープを貼れば割と正確に測れることがわかりました(だいたいです)。

住宅各部位の測定誤差

続いて、住宅内で測りたい対象を、そのままの場合とセロハンテープを貼った場所とで測定値が異なるのかを確認してみました。

この差が大きければ、測定値が当てにならず、放射率を考慮しないといけないことがわかるはずです。

セロテープを貼ってしばらく時間を置いてから 5 回ずつくらい測定した平均値は次のようになりました。

そのままの測定値セロハン値
窓ガラス(室内側)19.419.00.4
樹脂サッシ(室内側)14.214.5-0.3
壁紙(ビニルクロス)22.022.00.0
挽板フローリング21.821.60.2
突板フローリング(明色)21.121.00.1
突板フローリング(暗色)21.621.50.1
ヒノキ無垢材(すのこ)20.220.00.2
外壁(モルタル吹付・白系)4.24.8-0.6
窓ガラス(室外側)6.65.61.0

きちんとした黒体テープでないので参考程度ですが、常温では大きな差がなく、そのままの測定でもだいたい正確に測定できている感じがします。セロハンの放射率がわからないのでどちらが正確かもわからないレベルですが、この程度の誤差は簡易的な測定では問題にならないでしょう。

外壁と外の窓ガラスの測定誤差が大きく見えますが、これは低温ゆえに測定誤差が大きいことに問題があります。安価な測定器を使用しているせいもあるかもしれませんが、測定ボタンを押すたびに ±1 ℃くらいの差が出ていたので、あまり参考になりません。

結論

放射温度計は、住宅内の非金属を測定する場合、常温に近い温度領域ではなかなか正確に測定することができます。

ただし、低温物質の測定精度は低くなります。

また、放射率の低い物質(金属など)を測定する場合には、黒体テープが必要です。常温に近い環境で簡易的な測定を行う場合、セロハンテープが黒体テープの代用品として使えるかもしれません(お勧めはしません)。

今回は低コストな放射温度計を使いましたが、予算があれば、レーザーポインター付きで多少の距離があっても測れるタイプ、そして定評あるメーカー品の放射温度計がお勧めです。

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