冷輻射は高断熱住宅で気にする必要はない?

高断熱住宅のメリットなどを説明する際に、「冷輻射」という言葉が使われることがあります。Google検索でトップ表示されるページでは、次のように説明されています。

暖房していて部屋の温度は高いのに、窓ガラスの近くに居るとゾクとするのは、自分が発生している輻射熱が冷たいガラスにどんどん吸い込まれてしまうから底冷えを感じるわけです。これが冷輻射です。

引用:https://hyuuga.co.jp/shittoku/shittoku_02_22.html

西方里見先生の近著『最高の断熱・エコハウスをつくる方法 令和の大改訂版』p.198 にも、次のような記述があります。

ガラスの室内側の表面温度が 16.8℃となり冷輻射を感じる

しかしながら、私はこのような説明を読むたびにいつも引っ掛かります。

熱輻射のエネルギーはシュテファン=ボルツマンの法則(Wikipedia)のとおり熱力学温度の 4 乗に比例するから絶対にプラスの値になるはずなのに、「冷たい輻射熱」ってどういうことなのでしょうか?

冷たい窓に熱が吸い込まれるなんてことは本当にあるのでしょうか?

高断熱住宅で太陽熱以外の熱放射まで考える必要はあるのでしょうか?

この問題について二宮金次郎ばりに考え続け、あるときは「市民のための環境学ガイド」の遠赤外線に関する似非科学撲滅の講演を読みなおしたり、またあるときは太陽の表面温度を輻射熱から計算してみたりして、ようやく少しわかってきた気がしたので、これらの疑問についての見解をここに書いてみたいと思います。

スポンサーリンク

「冷輻射」はあるのか?

冷輻射という言葉から受ける印象は「温度を下げるビーム」ですが、その認識はあまり正しくありません。この問題について説明しようと思いましたが、エネルギー保存則や電磁波についての理解も必要なので、説明するのは簡単ではありません。

OKWABE にちょうど同じ質問があり、ベストアンサーでわかりやすく説明されていたので、そちらをご覧ください。

「冷」輻射熱とは、なんでしょうか
家電製品のカテゴリーで、暖房機についての専門家の方のご説明の中に、「遠赤外線ヒーターが暖かいのは、ふく射熱を利用しているからで、これとは反対に、冷たい物体からは「冷」輻射熱が発せられる」という趣旨が述

要は、遠くのエネルギーをうばうビームのようなものは存在しない、ということです。

しかし、冬の窓際から感じる寒さは誰もが経験していることです。「冷輻射」があると考えるとわかりやすいのでそういう言葉が生まれたのでしょうが、もう少し物理的に正確な説明を考えたいものです。

冷たい窓の方向が寒いのはなぜか?

短く答えるなら、窓際が寒いのは、窓から受け取る輻射熱が他より小さいためと、冷たい窓で冷やされた空気が下から流れてくるため(コールドドラフト)です。

この輻射熱について、もう少し詳しく見ていきます。

シュテファン=ボルツマンの法則から、温度と放射エネルギー(輻射熱)の関係を表にすると次のようになりました。なお放射率※は 1 と仮定しています。

温度 [℃]放射エネルギー [W/㎡]
0316
10364
20419
25448
30479
35511

太陽光を垂直面で受けた場合がだいたい 1000 W/㎡ であることを考えると、なかなか無視できないエネルギー量です。ただ、この熱輻射はあらゆる物体が全方位に向けて放出するいっぽうで、周囲から受け取る熱輻射もあります。周囲全方位の温度が同じであれば収支はゼロになるので、大事なのはその差です。

人体について考えてみましょう。

以前、「「夏涼しく冬暖かい家」の科学(体感温度編)」にも書いた気がしますが、人間が寒さを感じるのは放熱速度しだいです。つまり、単位時間当たりでの、<放出する熱> から <受け取る熱> を引いた値です。

裸の人間の表面温度が 35℃、人間の表面積が 2 m2 であると仮定すると、放射エネルギーは約 1020 W にもなります。

次に、電磁波(主に赤外線)として受け取るエネルギーについて考えます。
周囲全方位の表面温度が 35℃であれば、同じだけの熱を受け取ることができ、収支はゼロになります。しかし、35 ℃の環境が暑いのは明らかです。

実際には、人体は 1 日2,500 kcal くらいのエネルギーを消費しています。このうちの熱エネルギーについて単位を換算すると、約 100 W です。このため、差し引き 920 W の熱を受け取ることができればちょうどいいことになります。

920W の熱を受け取ることができる周囲温度を逆算すると、27 ℃ でした。

現実には服を着ているため、もっと低い温度がちょうどいい室温となります。

ただ、室温が低いと、室温と体温の温度差に比例して対流熱伝達による熱放出が大きくなるため、そちらも考慮しないといけません。ついでに、本当は汗などの気化熱、足などからの熱伝導もあります。

やや断線してしまったので、窓の話に戻り、窓との間の輻射熱の収支がどうなのかを検討します。

人体からの放射エネルギーについては、周りがどうであろうが変わりません。

いっぽう、窓から受け取る輻射熱は、人体を中心とする全方位に占める窓面積の割合によって決まります。つまり、熱輻射の影響は、窓が大きいほど、窓に近いほど大きくなります。

ただ、XY平面、YZ平面の各 360 度の立体で考えると、よほどの大窓に張り付かないかぎり、全方位に占める窓面積の割合は 1 割くらいではないでしょうか。

そう考えると、たとえ面積比 10% の窓の表面温度が 10 ℃ でも、その他 90% の表面温度が20 ℃であれば、上記の表から計算すると、受け取る放射エネルギーは 414 W/㎡ となります。これは周囲全体が 20 度のときの放射エネルギーの 99% であり、全体の温度が 19 ℃ のときの放射エネルギーと同等です。

1 ℃の温度差は感じられる程度ではあるし、それが一方向から集中するのであればなおさらです。

輻射熱の差によって窓から冷気を感じる、という状況は、なんとなく説明がついた、ということでよろしいでしょうか。

放射率Wikipedia)について補足します。

放射率は物体の熱放射のしやすさを表す 0~1 の値です。光が透過しない場合、放射率(=吸収率)と反射率の合計は 1 になります。金属では放射率が 0.1 以下の物体もありますが、非金属の放射率はだいたい 0.9 以上あります(参考:放射率の一覧)。

明るい色や透明の物体は小さい気がしてしまいますが、これは人間が可視光領域の波長しか認識できないために感じることであり、実際には、白色のエナメル、水、ガラス、人体の放射率(=吸収率)はどれも 0.9 以上です(条件にもよる)。

放射温度計(こちらなど)を使う際は、放射率が 0.95 固定のものが多いことと、距離対測定範囲の比が機種によって決まっていることにご注意ください。

16℃の窓は寒いか?

ところで気になるのは、表面温度 16 ℃の窓は寒いか?という疑問です。室温 20 度、外気温 0 度のときに Low-E ペアガラス中央部の表面温度はそのくらいになります。

これも上の例と同様に面積比で考えてみると、冷輻射を感じるというほどの影響はない気がします。わが家の Low-E ペアガラスの使用感としても、すごく近づくと少しだけ冷気を感じるかな、という程度だったように思います。

微妙なところであり、西方先生に盾突くわけではありませんが、大した問題ではないかと。私としては、床の温度と素材のほうがどちらかというと重要な気がします(床の温度に窓の性能も影響します)。

今度寒くなったら、全裸で 16℃の窓の前に立って確認してみようと思います。

参考 床の温度とカーペットやマット、床材、床暖房の相性について

冷輻射は考慮すべきか?

ここまでのくだりで表面温度が大事といわれる問題の程度はご理解いただけたと勝手に思っているのですが、問題は表面温度を上げるにはどうすればよいか、ということです。

室内側の表面温度を上げるには、室内側にカーテンを設置すればよいと考えるかもしれません。たしかに表面温度は室温に近づき輻射熱の影響は和らぎますが、カーテンと窓の間の空間温度は下がり、下から流れてくる冷気は悪化するかもしれません。

結局のところ、暖房以外で窓の表面温度を上げるには、熱貫流率の小さい窓を採用するしかありません(結露を考えると、サッシの断熱性能 Uf も重要です)。

上のほうで表面温度 10 度の窓を考えましたが、そのような窓であればコールドドラフトが発生し、床温度なども低下しているはずです。これは輻射熱の低下だけでなく、足の冷えにもつながり、当然ながら不快です。

逆に窓を中心とする断熱の弱点にしっかり対応していれば、表面温度は室温に近づき、輻射熱の問題も自然と改善します。

低気密も同様に重要で、冷たい空気が隙間から入ってくると下部にたまるため、快適さを損ないます。

そんなわけで、断熱・気密にきちんと配慮していれば、別の問題として表面温度や冷輻射を心配する必要はない、と思います。輻射熱は、熱を与えてくれる存在として期待する対象ではなく、高断熱化に取り組んで暖房を行った結果として得られるメリット、くらいに考えています。

「断熱よければ輻射対策は不要」という結論は、「遮熱材が効くところ、効かないところ」と同じです。

ここまで書いてからふと本棚を見てみたら、この「熱の移動」についてもっと的確にわかりやすく説明している本があったことを思い出しました。

第2章の説明は非常にわかりやすいし、ほかの章にも大事なことがたくさん書いてあります。いま思うと、大御所がみな「高断熱住宅」を「エコハウス」と表記するようになったのは、この本の影響でしょう。。

参考 推薦本:『エコハウスのウソ』を読んでみた

追記:断熱をしっかりすれば日射熱以外の輻射熱はあまり気にしなくていい、と書きましたが、断熱がちゃんと機能しているかどうかは、輻射熱を測定して室温と差がないかどうかをチェックすることで確認できます。一部の先進的な工務店などは、完成後にサーモグラフィによるチェックを行っていたような気がします。

そんなわけで、私も安い放射温度計(こちら)を購入し、三井ホームの屋根断熱や壁の熱橋部などに問題がないか、次の冬と夏にチェックしてみたいと思います。

さらに追記:購入後、外気温 3℃、室温 21℃のときに APW 330(ペア、アルミスペーサ)の表面温度を測定してみました。

カーテンのない窓中央の温度:18.6℃
カーテンのある窓中央の温度:16.4℃
カーテン表面:20.8℃

コメント

タイトルとURLをコピーしました