「夏涼しく冬暖かい家」の科学(体感温度編) | さとるパパの住宅論

「夏涼しく冬暖かい家」の科学(体感温度編)

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前回は、家の中の温度はどのように決まり、どのような要因に左右されるのかについて説明しました。夏の家の温度を下げるには日射熱を遮断する必要があり、冬の家の温度を上げるには、高断熱にする必要があります。

しかし、実際に夏涼しく冬暖かいと感じるかどうかは、結局のところ人間の感覚しだいです。今回は、人間が暑さ寒さをどう感じるのか、住宅はどうすればよいのかについて考えたいと思います。

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暑いか寒いかは放熱速度しだい

体感温度を左右する要因はいろいろ言われますが、詰まるところは放熱速度(単位時間当たりの放熱量)でしょう。

放熱速度が適度であれば、体温を維持するために何もしなくて良いので、快適です。

放熱速度が大きいと、体温が低下してしまうため、寒いと感じ、身体を丸めて放熱を小さくしたり、震えによって熱を生成したりしようとします。

放熱速度が小さいと、そのままでは体温が上昇してしまうため、暑いと感じ、発汗するなどして対応しようとします。

人体の放熱のしくみ

人間は汗によって体温調節を行うため、放熱のしくみには、前回述べた熱移動(熱伝導、熱伝達、熱放射)に加え、気化という方法もあります。

気化熱

気化熱とは、汗などの液体が気体になるときに周囲から吸収する熱のことです。この気化熱の程度は、温度だけでなく、風速や湿度によっても変化します。夏は湿度が低いと気化熱が多くなるので涼しく感じ、反対に冬は湿度が高いと暖かく感じます。湿度と風速の体感温度への影響については計算式が考案されていて、計算できるサイトもあります。

快適さや健康のためにも、夏は湿度 60% 以下、冬は 40% 以上になるよう、エアコンや加湿器を利用するのがお勧めです。

熱伝導

人体が接触する物体との間では熱伝導が起こります。衣服は常に人体と接触し、室温と体温の間の熱移動を調整します。

熱伝導の影響が一番大きいのは、裸足で床を歩くときです。床の温度は体温より低いため、接触するたび、熱伝導により足から熱が奪われることになります。

この接触による放熱速度は、体温と床面との温度差と、床材の熱伝導率に比例します。床暖房が快適なのは、温度差が小さいためにこの熱放出が小さいことが大きく影響していると思われます。エアコン暖房の場合はどうしても温度差があるため、日射が入る床面以外は裸足では冷たいものです。

床面の温度条件が同じ場合は、熱伝導率の低い材料の床材を使うことにも効果があります。石(タイル)より樹脂、樹脂より木材、木材よりもカーペット類のほうが熱伝導率が低く、接触による放熱を軽減できます。

なお、床材の物性として、比熱や熱容量も重要です。冷暖房を連続運転して常に一定温度をキープする場合は問題ありませんが、冷暖房を間欠運転する場合、比熱が大きい(暖まりにくく冷めにくい)床材では適温になるまでに時間がかかってしまうからです。

床材を選ぶときに熱伝導率などの情報はあまり公開されていませんが、快適性の観点からはもっと重視すべき項目ではないかと思います。足の熱伝導による放熱はスリッパや靴下でもかなり防ぐことができますが、裸足が好きな人にとっては重要です。

熱伝導率は、数字がわからなくても触った瞬間の熱の奪われ感(?)でわかります。同じ木材でも熱伝導率は種類によって大きな差があるので、確認してみてください。

なお、いくら良い床材を選んでも、床面温度が低ければ快適にはなりえません。後述するように、床面温度を上げるには、高断熱にすることも非常に重要です。断熱性能が低い住宅で温かい床材にこだわるより、まず断熱性能を上げることを考えたほうが効率よく快適な住宅ができることでしょう。

床の温度とカーペットやマット、床材、床暖房の相性について

熱伝達

空気に接している衣服や肌の表面からは、熱伝達による放熱が発生しています。この熱伝達と汗の気化熱は風速の影響を受けるので、風が当たるところでは放熱が大きくなります。

よく、「日本の夏は風通しをよくすることが大事」と言われますが、日陰でも汗をかくほど暑いときに快適であるとは言えません。

風通しをよい設計にしたとしても、風の強弱は気まぐれですし、熱帯夜を心地よく過ごすことは困難です。現代では、エアコンで温度と湿度を不快でない程度に下げ、強い気流が身体に直接当たらないようにしたほうがずっと快適になるでしょう。

環境への影響については、日射遮蔽を考えた高断熱住宅であれば、少ない電力で快適な空間を実現できますし、連続運転すればピーク電力を上げないこともできます。

参考 東京・大阪・沖縄・ハワイの夏を不快指数で比べてみた結果

輻射熱

あらゆる物体は遠赤外線を出すため、人間の肌からも放射による放熱が発生しています。この放射エネルギーは、シュテファン=ボルツマンの法則(Wiki)により、絶対温度(ケルビン。一般の温度 +273)の 4 乗に比例します。

人体からの放熱量は、人体から出る放射熱と、人体が周囲から受ける輻射熱の差によって発生します。これは、寒いところに裸で立っていると大きな割合になりますが、気温 35 度以上の空間ではゼロになるそうです(参考:「市民のための環境学ガイド」)。

この放熱には衣服が大きく影響しそうですが、後述する体感温度の式にも表れるように、室内の周囲の物体温度は室温に近いほうが、やはり快適なのでしょう。

なお、床暖房ではよく輻射熱の効果が強調されるきらいがあります。足元が暖かいと快適であることは確かですが、床暖房の床は体温より低いので遠赤外線の量は大して多くないことと、輻射熱の効果が床面のみに限定されることには注意が必要です。

室内の体感温度

体感温度はよく、(室温+各方位の表面温度の平均)÷ 2 であると言われます。

しかしこの式には疑問を感じています。なぜなら、空気以外の床面と接する足の熱伝導や、頭部の毛髪という断熱材の存在(私は低断熱…)、そして着衣の存在を考慮していないように思えるからです。つまり、この式が当てはまるのは、つるピカハゲ丸くんが全裸で空中浮遊している場合なのではないか、と。

また、『ホントは安いエコハウス』によると、人間の快適温度は頭部が 22℃、足元が 26℃ と差があるそうですが、このことも考慮されていません。

このため、体感温度の式では天井も床も壁も同列に扱われていますが、本当の現実的な体感温度は床面の温度がカギでしょう。

低断熱の住宅では、すべての面の表面温度が外気温の影響を強く受けるため、冬の部屋の表面温度は室温よりずっと低くなります。なかでも床面は、窓面で冷やされた冷気の流れ(コールドドラフト)と、気密性が低いことによる冷たい「すき間風」のダブルパンチによって、特に低温になっているのが実情です。つまり、日本の多くの住宅では、体感温度が室温よりずっと低くなっていることになります。

一方、高断熱住宅では、このすべての表面温度が室温に近づき、温度差が小さくなります。次世代省エネ基準(Q=2.7)レベルの断熱性能でこの温度差が 3~4 ℃になる(参考:『ホントは安いエコハウス』)そうです。樹脂サッシのペアガラスを採用して暖房を連続運転している我が家の場合、この温度差は 1 ℃程度です。いくら温度差が小さくても足元の快適温度よりは低いのですが、この差は大きいので、次世代省エネ基準を上回る断熱性能は、目指す価値があります。

まとめると、冬暖かい住宅を実現するには、まず次世代省エネ基準を上回る断熱性能と、すき間風が入らない気密性能が不可欠です。そのうえで、さらに快適性を上げるためには、床面温度を上げることが望ましいでしょう。

床の温度を上げる暖房方式

床面温度を上げる簡単な方法は、暖房を間欠運転ではなく連続運転にすることです。間欠運転にすると温度が下がっている床材を暖めるのに時間がかかる(空気より床材のほうが比熱が大きいため)ので、床面温度と室温の差が開きがちです。

床暖房は足元が一番暖かくなる暖房方式のため、快適さにおいては理想的と言えます。ただし、初期費用、維持費用が高いなどの難点もあるため、床下エアコンという方法も広まりつつあります(こちらは最初から組み込んで設計する必要があります)。

参考エアコン vs. 床暖房」、「床下エアコンは理想的な暖房方式か?

ちなみに我が家はというと、床暖房も床下エアコンも採用していません。しかし、ZEH レベル以上の断熱性能と、連続暖房によって温度差がそれほど大きくないため、冬でも十分快適です。裸足では寒いので靴下やスリッパは履きますが、以前の住宅のように足の冷えに悩まされることはありません。

参考 全館空調の家に実際に住んでわかったこと

まとめ

夏涼しく冬暖かい家を実現するためには、自然の力や昔ながらの設計の知恵を活用することも大事ですが、それだけでは不十分です。日射の影響をじゅうぶんに考慮し、断熱性能の高い住宅にする必要があるでしょう。

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