断熱を考えるとトリプルガラスは有利ですが、初期費用は高くなるし、日射熱取得率はペアガラスよりも劣ります。特に南面は、日射の多い地域では日射熱を取り入れることで暖房費を節約できる効果があるため、温暖地でどちらのサッシが良いのかは大いに悩むところです。
家全体での費用対効果については「トリプルガラスへのアップグレードで元は取れるか?」で検討しましたが、必ずしも家中で統一する必要はないため、窓面積が大きい傾向がある南面だけ特別な仕様を検討する方もいらっしゃいます(南面だけトリプル、南面だけペアなど)。
また、ペアかトリプルかという問題に加え、高断熱複層ガラスでは同じ窓シリーズでも Low-E 層の色や配置によって日射熱取得率と熱貫流率に差があるため、日射の多い温暖地で南面に日射取得型のガラスを選択すべきかどうかも、いろいろ考えると難しい選択です。
一長一短があるのでずばりコレという結論は出せませんが、参考となる視点を提供できればと思います。
タイプ別の日射熱取得率を調べてみた
まず最初に、ペアガラスとトリプルガラスそれぞれの日射取得型(断熱タイプ)と日射遮蔽型(遮熱タイプ)の日射熱取得率をチェックしたいと思います。
温暖地で人気のある二種類の高断熱窓について、以下に抜粋したデータを紹介します。
YKK AP の APW 330/430 の場合
Web カタログ(APW 330 商品カタログ p.90、APW 430 商品カタログ p.72)を元に日射熱取得率が高い順に並べると、次のようになりました。
APW 330(ペア)断熱タイプ(ニュートラル)60%
APW 430(トリプル)日射取得型(ニュートラル)57%
APW 330(ペア)断熱タイプ(ブルー)48%
APW 430(トリプル)日射遮熱型(ニュートラル)47%
APW 330(ペア)遮熱タイプ(ブルー)40%
APW 430(トリプル)日射遮熱型(ブルー)30%
注:APW 430 の日射取得型は Low-E 層が1つになるので熱貫流率が劣ります。
リクシルのサーモス X の場合
サーモスXのガラス設定のページに基づいて日射熱取得率が高い順に並べると、次のようになりました。
サーモスX ペアガラス クリア 62%
サーモスX ペアガラス グリーン 49%
サーモスX トリプルガラス クリア×クリア 49%
サーモスX トリプルガラス クリア×グリーン 42%
サーモスX ペアガラス グリーン(高遮熱型) 40%
サーモスX トリプルガラス グリーン×グリーン 34%
以上から、トリプルかペアかの違いもあるものの、ガラス色や Low-E層の配置による差も大きいことがわかります。
ガラス色の注意点
日射熱取得率を考えるとニュートラル(クリア)色が優れていますが、東西面には色付きの遮熱型が勧められるので、面によってガラス色が異なるという見た目の問題が発生します。
ただ、窓の室内側でレースのカーテンを常に閉めておく場合はあまり気にならない気がします。
熱貫流による熱損失と日射熱取得の熱収支を考える
窓の熱収支がプラスだと、その分、暖房費を節約できることになります。このためには、熱貫流による熱損失は小さいほど良く、日射熱取得は多いほど良いことになります。
ただし、熱貫流率の小さい高断熱な窓ほど日射熱取得率は小さくなる傾向があり、窓の断熱性能と日射熱取得にはトレードオフの関係にあります。このバランスを見極めるためには、詳細なシミュレーションが必要になります。
理想は住宅会社がシミュレーションしてくれることですが、なかなか難しいケースもあります。
収支を計算してみる
西方里見先生の近著『最高の断熱・エコハウスをつくる方法 令和の大改訂版』の p.199 を読むと、日本各地で計算した熱収支のデータが掲載されています。
そこで、この東京のデータを元に、一例として窓の熱収支を計算できるツールを作ってみました。
なお、暖房期の日射強度は地域差が大きく、こちらの PDF で全市町村の区分を確認できます。
収支を計算すると、ペアガラスが有利
仮に、ペアガラス の Uw=1.6、トリプルガラスの Uw=1.2 として、上記サーモスX の数値で計算した結果は次のようになりました。
枚数 | 窓タイプ | 取得率 | 熱損失 | 日射熱 | 収支 |
---|---|---|---|---|---|
ペア | クリア | 62 | 2.1 | 7.0 | 5.0 |
ペア | グリーン | 49 | 2.1 | 5.6 | 3.5 |
ペア | 高遮熱 | 40 | 2.1 | 4.5 | 2.5 |
トリプル | クリア | 49 | 1.5 | 5.6 | 4.0 |
トリプル | グリーン | 42 | 1.5 | 4.8 | 3.2 |
トリプル | 高遮熱 | 34 | 1.5 | 3.9 | 2.3 |
この試算では、同じガラス設定であれば全体的にペアガラスのほうが熱収支に優れるという結果になりました。
熱収支ではわからない大事なこと
しかし上記の結果が出たからといって、あえてペアガラスを選ぶべきかというと、私はそうは思いません。
熱収支だけでなく、以下のことも考えないといけないからです。
日射熱にはムラがある
日射熱には見逃せないムラがあります。天気・時間・場所のムラです。
東京の場合は幸い、冬は晴れている日がほとんどですが、雪の日には日射熱は期待できません。
日射熱取得が大きいのは昼ですが、冷え込みが厳しいのは夜間です。夜は室温が低いほうがよく眠れるとはいっても、朝方の温度が低すぎるのは問題です。この点を考えると、熱貫流率が小さいトリプルガラスのほうが夜間の温度低下が小さくて済みます。
また、日射が当たるのは南面の窓際が中心です。この熱はいったん床材などに蓄えられてから放熱していきますが、エアコンの熱ほど均一には拡散しません。平均的な熱収支はちょうどでも、南面は暑くて北面は寒いかもしれません。
日射熱はいわば、あまり寒くないときにだけ一部の窓際に暖房を付けているのと同じような状況になるわけです。
このムラの影響は、必要な暖房エネルギーに対する日射熱取得の依存度が大きいほど受けやすくなります。必要な暖房エネルギーを減らすには、断熱(つまり熱貫流率が小さい窓を選ぶこと)が有利です。
部屋間の温度差は断熱だけで決まるわけではなく、さまざまな工夫によって小さくすることができます。このような工夫が難しかったり、全館空調のような全部屋を効率的に暖める暖房方式を採用していない場合には特に、トリプルガラスのほうが快適になることでしょう。
UA 値(外皮平均熱貫流率)と Uw 値(窓の熱貫流率)を比べれば明らかなように、窓の単位面積当たりの熱損失は壁などよりずっと大きいので、その違いは体感できるほど意外に大きいものです。
ペアガラスは晴れた一日の熱収支だけで見ると省エネになりますが、その生活の質は異なり、これらのムラを大なり小なり我慢する必要が生じるのです。
オーバーヒートにも注意が必要
上記の熱収支(日射熱取得 – 熱損失)がプラスであることは良いことですが、日射熱取得を重視しすぎると、家全体の断熱性能や窓面積のバランスによってはオーバーヒートという問題が発生します。
冬の日中に家の中が日射熱で暑くなりすぎてしまうことがあるのです。
わが家の場合、南面も遮熱型のペアガラスですが、それでも以下のように日中の暖房はほとんど止まっているくらいの恩恵を受けています(センサーが南側の部屋にあるためかも)。
ここで、先ほどの計算は窓のみの 1 日単位の熱収支でしたが、オーバーヒートをチェックするため、わが家全体の 1 時間単位の熱収支を考えてみます。
内外温度差から計算した冬の日中(正午の 1 時間)の熱損失は、約 3.0 kWh です。
参考式)
(室温 – 外気温)x Q値 x 床面積 x 1時間 = 3016 Wh
いっぽう、同時間の南面からの日射熱取得は、約 1.6 kW です。
参考式)
日射量 x 日射熱取得率 x 窓面積 x 1時間 = 600[W/㎡] x (40/100) x 6.7[㎡] x 1[h] = 1608 [Wh]
この場合、日射熱取得と内部発熱の合計よりも熱損失のほうがずっと大きいと予想されるため、問題はありません。むしろもっと日射熱を活用すべきでしょう。
しかし反対に、同様の計算で日射熱取得と内部発熱の合計が冬の日中の熱損失を上回る場合には、一時的にオーバーヒートする可能性が高いのでご注意ください(注:日射熱はまず床を暖めるように作用するため時間がかかり、エアコンと違ってすぐに空間を暖めるわけではないため、どの程度がちょうどいいかは不明です)。
窓面積によっては、トリプルガラスの場合は特に、遮熱タイプの窓で日射熱取得は十分ということもあるのではないでしょうか。
ただ、オーバーヒートも一概に悪いわけではなく、例えば日中不在の住宅では、帰宅時間にちょうど良くなっていれば問題ありません。また、南面の窓際をコンクリートやタイルなどの蓄熱できる素材にするなどして日射熱の放熱時間を長期化すれば、うまく快適に暖房費を抑えることもできるかもしれません。
対策も、設計時の窓面積とタイプの選択だけでなく、住んでから日射遮蔽策を組み合わせることもできます。
管理しだいですが、日射熱取得に依存する熱量の割合が高いほどコントロールが難しくなる、とは言えそうです。
(追記:むらやんさんからコメントいただいたように、暑すぎたら一時的に窓を開けたり、壁を蓄熱できるようにするという方法もお勧めです)
冷房期は日射熱取得率が小さいほうが有利
夏は日射遮蔽が大事になるので、同じガラス色ならトリプルガラスのほうが高性能です。夏は冬と違ってペアガラスのメリットは特にないため、日射熱取得を重視しすぎると夏のデメリットは大きくなります。
夏と冬とでメリットを最大化するためには、ちょうどいい長さの庇(ひさし)や軒を設計する必要があります。
それでも、夏至(6/21 頃)のように太陽の南中高度が高いときは短い庇でも日射を防ぐことができますが、秋に近づくほどに太陽高度が下がってくるので、南面の日射を完全に防ぐことは難しくなってきます。どんなに最適な長さの庇を設計したとしても、それだけで冷房期と暖房期の日射管理を完璧にコントロールすることは困難なことがあるのです。
グリーンカーテンもよいですが、意外と日射を防げていなかったり、私のように毎年失敗したりすることもあります(去年は台風でゴーヤを枯らし、今年はパッションフルーツを育てましたが伸びる時期が遅すぎました)。
このため、省エネ目的で日射熱取得率の高いガラスを選択するのであれば、冷房期の日射遮蔽をきちんとできることは不可欠です。この点に不安があるのなら、日射熱取得率が小さい遮熱タイプを選ぶほうが無難かもしれません。
まとめ
そんなわけで、ペアガラスのメリットが強く出る南面において、トリプルガラスとの優劣差は微妙です。
シミュレーションなどではペアガラスのほうが初期費用も暖房費も安くなるという結果が出るかもしれません。
快適性は多少犠牲にしても省エネにしたい、初期費用も抑えたい、という場合で、うまく日射を管理できる場合には、ペアガラスも良いかもしれません。
しかし、快適性を重視するのであれば、「日射熱取得のためにあえてペアガラスを選択する」ことはお勧めできません。トリプルガラスを選んで日射熱への依存度を下げるほうが無難だからです。
コストと快適性のどちらも重視したい、という場合が一番難しいですが、その場合は最低でもサーモスXくらいの高断熱なペアガラスを選び、その他の設計(日射管理、間取り、暖房方式など)を工夫するのがいいのかな、と思います。APW 330 やサーモスX のペアガラスは一般的な Low-E ペアガラスよりは高性能なので、前述のデメリットも大きくはありません。
南面のガラスを断熱タイプと遮熱タイプのどちらにするべきかは、ケースバイケースです。
- オーバーヒートしないか
- オーバーヒートしても許容または管理できるか
- 色の見た目の問題は大丈夫か
- 夏の日射を制御できるか
などを検討し、日射熱取得量を可能な範囲で増やす方向で考えれば、各家に合ったタイプが選択できるのではないでしょうか。
関連記事
▶ トリプルガラスへのアップグレードで元は取れるか?
▶ 関東以西の温暖地でトリプルガラスは必要か?
▶ 【高断熱ペアガラス】サーモスXと APW330 の比較
▶ 高断熱ペアガラスでエアコンを連続運転するとどうなるか?【アンケート結果】
▶ 断熱仕様を変えずに家中の温度差を小さくする方法
▶ 快適性重視と省エネ重視の 2 タイプの高断熱住宅
コメント
お久しぶりです! 自分のサイトは現在も放置中ですが… 我が家レベルの断熱(HEAT20 G2ほどやったかなぁ?)でトリプルガラスのシングルLow-Eではオーバーヒートに中々なりませんでした。断熱レベルや庇の長さ、窓の向きによっても変わるので難しいところですが… 我が家にはLow-E無しがベストと思っています。日射によるホッコリとした暖かさは快適で、そんな感じがある期間は案外少ないんですよね。
少しオーバーヒートに窓開けはアリ、と思っていますので…結果論ですが(^^; ハウスメーカーを決める前に見学に行ったスウェーデンハウスのお家はオーバーヒートしていたので、Low-Eあるか無いかは大きいように感じています。でも、トリプルガラスを入れるほどの他の断熱もある家では、シングルLow-Eを日射取得として設定するのは妥当なところなんでしょう。
あと、蓄熱を上手く利用すれば良いのですが、1年前はエコナウォールが良いと思っていました。冬場は部屋の奥の壁にまで日射が届くので、蓄熱のため壁の石膏ボードを二枚にするのも有効に思っています。
長文、すみませんm(_ _)m
コメントありがとうございます!鵜野先生のブログで関東の日射の強い地域でトリプルの日射熱取得型が暑すぎたという話があったのでオーバーヒートが気になっていたのですが、ツーバイでは窓面積も限定されるのであまり問題にならないのかもしれませんね。わが家は日射熱取得型を設計士さんに反対されて遮熱型にしてしまいましたが、やっぱり後悔しています。
日射のポカポカ感ってホント気持ちいいですよね。そういえばオーバーヒートが問題になるのは在宅時で天気のいい日だけなので、窓を開ければ調整できますね。壁による蓄熱までは考え至りませんでしたが、たしかに有効でしょう。水を張るとか岩を置くとか(謎)しか思いつきませんでした。情報提供ありがとうございました!