私は住宅に関する本を読むとき、どういう人が書いた本か、という点をまず確認するようにしています。建築士、工務店、営業担当者、ホームインスペクターなど、それぞれ立場によって視点や経験が異なっていて興味深い一方、自社の宣伝ばかりというケースもあり、注意が必要です。
Amazon で高評価を受けていて前から気になっていた『エコハウスのウソ 増補改訂版』(前真之著、2015増補改訂版)は、「建築環境」を専門とする東京大学建築学科の准教授が書いた本です。
学者が書いた本というと、公平中立で正しいとしても、良くも悪くも理論重視で現実離れしている印象がありましたが、この本は、読んでみると現場をよく知っていると感心することばかりでした。建築家と工務店、ハウスメーカーの違いについても簡潔によくまとまっています。
国の基準や政策については、おそらく日常的にかかわっているためか、さまざまな立場を考慮した実情やポイントが、どの本よりもわかりやすく的確に解説されています。それでいて、多方面に配慮しすぎて当たり障りのない内容になっていたり、国の御用学者になっていたりということがまったくなく、科学的な見地から、時に辛口に、まっとうな意見が述べられています。国が勧める蓄電池や ZEH についても無条件に勧めたりはせず、批判的な意見も載っています。
また、建築士などの本や当サイトの内容は、実は地域が限定されていて他の地域には当てはまらないことが多々ありますが、この本では日本各地の違いもきちんと意識されているので、どこに住む人が読んでも違和感のない内容となっています。
この本で特に素晴らしいと感じたのは、住環境について説得力のある理論やデータが多数紹介されているだけでなく、読みやすく理解しやすい工夫がされていることです。きちんと熟読すると難しそうな内容であるにもかかわらず、わかりやすいイラストが付いてまとまっているので、ざっと目を通すだけで要点をつかむことができます。
また、40 の誤解と回答という構成になっているので、見出しだけを読んで意外に思ったところだけをじっくりと読むこともできます。とても効率的に正確な知識が得られる、ほんとうによく出来た本です。私としても、細部で自分の理解が足りなかったと感じたことがいくつか見つかったので、今後や過去の記事に反映していきたいと思っています。
少し残念に思うのは、「エコハウス」という主題に一般の消費者がどれだけ食いつくか、という点です。エコな住宅を建てたほうがいいだろうと思っている人は多くても、みんながみんなエコや省エネに大きな優先度をおいているわけではありません。
この本で問題だと指摘しているエコハウスとは、主に建築雑誌に載るデザイナーズ住宅のような家を指しているようですが、そのような住宅には元々縁のない人が多いでしょう。一般消費者にとって、デザイン以外で大事なのは、おそらくお金と住み心地です。
この本をよく読むと、真のエコハウスは結果的に消費者にとっても良い家になることがわかります。つまり、住宅関係者みんなが読むべき内容の本なのに、読まれないかもしれない点が惜しまれるのです。
その点、以前紹介した『ホントは安いエコハウス』は、タイトルからして経済的なメリットが得られることがわかるし、最近の実情に沿った内容が多く、直接的なメリットがわかりやすくなっているように思います。ただし、お金の話は時間が経つと変化し古くなっていくデメリットもあります。
なお、この本では良い住宅の真贋を見分ける力は身に付きますが、どういう住宅にすべきかということはそれほど書かれておらず、あくまで消費者の判断に委ねられています。この本では、超高断熱では吹き抜けの問題もなく全館冷暖房ができることは書かれていますが、著者はそういう住宅を選択する人が日本で主流になるとはまだ考えていない印象を受けました。
当サイトや『ホントは安いエコハウス』では、どちらかというと、高断熱にしてエアコンの連続運転を行い、全館暖房を行うことを推奨しています。
そんなわけで、「良い家」について手っ取り早く学びたい方、経済的で快適な住宅を建てたい人には、『ホントは安いエコハウス』と『エコハウスのウソ 増補改訂版』の 2 冊を両方ともお読みになることをお勧めします。重複しているテーマもありますが、異なる話題も多く、内容は共に一押しです。
追記:2020年8月に続編の新刊が発売されました。こちらは「実践編」とのことです。私のエコハウスに対する認識とは温度差がある気がしますが、参考になる点は多いと思います。
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