ハウスメーカーが熱損失係数Q値を良く見せるカラクリ | さとるパパの住宅論

ハウスメーカーが熱損失係数Q値を良く見せるカラクリ

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ハウスメーカーが試算値として発表しているQ値が実際より2~3割良い(低い)ということは以前の記事で紹介しましたが、そのことについて詳しく検討してみます。まずは、Q値とUA値について細かく見ていきます。

Q値は、「建物全体の熱損失量」を「床面積」で割ったもの、UA値は「建物全体の熱損失量」を「外皮面積」で割ったものです。外皮面積とは、床・外壁・窓・屋根(小屋裏)などの断熱面の面積の合計です。おおまかに言って、「建物の熱損失量」は「外皮面積」に比例します。表面積が大きいほど熱の移動は増えるからです。UA値は、外皮面積1㎡あたりの熱損失量(W/K)を表すので、外皮の平均的な熱の移動のしやすさ、断熱性能を意味します(「外皮平均熱貫流率」と呼ばれるのはそのためです)。このため、建物の形状はどうであれ影響しません。実際には建物の形状によって冷暖房費が変わるため、冷暖房費の目安としては Q 値に劣ります。したがって、Q 値に不利な設計(高い天井高、屋根断熱)を採用しているハウスメーカーにとっては燃費の悪さを隠すことができる指標となっています。

一方、Q値は床面積1㎡あたりの熱損失量(W/K) を表すので、家全体の冷暖房費の目安(燃費)を知ることができます。Q値とUA値の分子の「建物全体の熱損失量」は同じように見えますが、実はQ値では換気による熱損失も含まれています。UA値には含まれないため、熱交換率90%の優れた熱交換換気システムを採用していても、UA値には反映されていないのです。このため、実際の家の燃費をより正確に表しているのはQ値と言えます。しかし、建物の形状の影響を受けるので、ハウスメーカーが理想的なモデルを使って算出している数値と実際の家の数値の差が出やすいという欠点もあります。

ハウスメーカーが試算に使う、Q 値が良く見えるモデルとは、大きく、上から見て正方形の形状をした家です(円柱形状はより有利ですが、さすがにそこまではやっていないと思います)。多くのハウスメーカーは、試算モデルとして 50 坪程度のモデルを採用しています。試しに、床面積 50 坪の正方形の家と、35 坪の正方形の家、35 坪で長方形の家について比較計算してみると、次のようになります。簡便のため、すべて総 2 階建て(1F と 2F が同じ形)です。

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熱損失量が外皮面積に比例すると仮定すると、長方形 35 坪の家の Q 値は、正方形 50 坪の家より 15% 高い(悪い)ことになります。実際の家は総 2 階建てではなく、もっと複雑なことが多いでしょう。

ここで、外皮の断熱性能はすべて同じと仮定しましたが、実際は屋根や床下の方が壁面より断熱性能が高くなっています。床面積が大きいほど壁面より屋根と床下の面積の割合が大きくなり、Q 値、UA 値は小さくなります。つまり、50 坪未満の住宅の Q 値、UA 値はモデル値より悪化します。また、壁面には窓が含まれますが、窓は住宅で最も断熱性能が低い部位です。多くのハウスメーカーの標準仕様となっているアルミ樹脂複合サッシ Low-E ペアガラスは、木造軸組工法の壁で一般的なグラスウール 100mm 厚の断熱材と比べて 6 倍もの熱を伝達します(「断熱性能は窓、壁、換気で決まる(部位別の断熱性能比較)」を参照)。このため、試算モデルでは窓を最小にするという細工も行っています。

ハウスメーカー発表の Q 値の試算値が実際より 2~3 割良い(低い)のは、こういうカラクリなのです。大事なのは実際に建てる家の数値です。くれぐれも注意しましょう。

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