住宅を高断熱化しても脱炭素にはならない | さとるパパの住宅論

住宅を高断熱化しても脱炭素にはならない

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脱炭素化に向けた動きが活発になっている昨今、東京都は戸建住宅への太陽光パネル設置を義務化しようとしています。太陽光発電にはさまざまな問題もあることが認知されてきており、反対論も大きくなっておりますが、その代案や脱炭素化の対応として、住宅の高断熱化を推す声も高まっているように感じます。

しかし、住宅の断熱性能について調べてきて思うのは、住宅を高断熱化しても脱炭素にはならないということです。

論拠は以下のとおりです。

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高断熱化で省エネのまやかし

高断熱化で省エネになるというのは、一見本当のように思えますが、実際にはかなり疑問です。

高断熱化で省エネはシミュレーション上の話

住宅を高断熱化すると暖房費がかからなくなって省エネになるという話のほとんどは、実際の統計データではありません。それらは、暖房の使用条件が一定という非現実的なシミュレーションの結果であったり、宣伝に都合の良い一部の住宅に限定したデータであったりします。

住宅の断熱性能とエネルギー消費量の関係を調べたリアルなデータを知りたいと思っていたところ、以下のような資料を発見しました。

断熱性能が高いほど暖冷房費が安いのは本当か?【ZEH住宅の実測調査結果】

データが限られるものの、これを見ると、基準値や設計値とされるシミュレーション上のエネルギー消費量と実績値のエネルギー消費量との間には大きな隔たりがあることがわかります。

よく言われる「高断熱なら暖冷房にかかるエネルギー消費量が少ない」ということも、はっきりとした傾向がみられるのは、UA値0.28以下(断熱等性能等級7相当)の超高断熱住宅のみです。

シミュレーションと現実が違う理由

このようにシミュレーションと現実でエネルギー消費量に差が出て、高断熱化による省エネ効果が現実にはあまり見られないのはなぜなのでしょうか。

かんたんにいうと、次の3点が大きいのではないかと思います。

  1. シミュレーションが現実的でない
  2. 日本人はもともと暖冷房を節約している
  3. 高断熱化で暖房の使い方が変わる

1と2の詳細は住宅の省エネ評価やシミュレーションの問題点についての別の記事に書いたので省略し、ここでは3について補足します。

日本人の暖房消費エネルギーがもともと少ないのは、低断熱・低気密な住宅が一般的であったことが影響しています。というのは、低性能な住宅では暖房が局所的にしか効きません。局所的な暖房とは、コタツやホットカーペット、部屋の空間を区切った暖房使用などです。まず、家中を暖房しようという発想にならないし、もしやろうとすれば光熱費が高くなりすぎることは、容易に想像できます。

ところが、住宅が高断熱になると、暖房の効率がぐっと高まり、家中を暖房することが非常に快適で、かつそれほど光熱費が高くならないことに気づきます。そうなると、局所暖房から全館暖房へのシフトが発生し、トータルのエネルギー消費量は減るどころか増えるケースも発生します。

高断熱住宅には、快適性重視と省エネ重視の 2 タイプの高断熱住宅があります。本当に省エネでトータルコストの安い高断熱住宅が建てられるケースは多くありません。そのためのノウハウをもつ建築業者は少数派ですし、大手ハウスメーカーは高額な設備を勧めがちです。また、施主にしても、快適性を犠牲にしてまで本気で省エネを追及する人は、多くないかもしれません。

さとるパパの環境論

そういうわけで、住宅の省エネ等級というのはまやかしと思います。
住宅を購入せずに暖房も使わない生活をしている人のほうが究極のエコなのに、省エネ住宅を推進した結果、エネルギー消費量が減らないのでは意味がありません。省エネを重視したいなら、炭素税でも導入し、シンプルにエネルギー消費量に比例して徴税する仕組みのほうが、よっぽど公平です(税は他の用途に還元されるので中立として)。

また、以下の点も考慮が足りません。

  • 再エネを増やした結果、火力発電への依存が高まっていること(過去の該当記事
  • 超高断熱住宅によく使われる発泡系断熱材の製造時に多量の二酸化炭素が排出されること(LCAの視点がないこと)

住宅の高断熱化にはまったく反対しませんが、それを脱炭素社会に向けた意義ある対策として税金を投入することには反対です。気候変動対策として考えると費用対効果が悪く、一部業界への産業保護政策となるだけではないかと思います。

また、選択の自由を奪って義務化することにも、私は反対です。太陽光パネル設置に限らず、義務化は住宅価格を押し上げることになり、富裕層しか戸建住宅を購入できなくなるのではないでしょうか(税金で補助するにしても、不公平かつ非効率)。

結局、省エネ住宅の推進というものは、ただ住宅業界や関係省庁に予算を付けるためにやっていることのように思えてなりません。

なお、環境問題については、2021年に刊行されたスティーブン・クーニン氏の『Unsettled』という本が世界的に話題です。名門カリフォルニア工科大学出身の学者で、以下の日本語版も出ており、日本へのメッセージの部分(Amazon で試し読みできます)は共感しかない内容でした。お勧めです。

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【追記】東京都の太陽光パネル義務化について

東京都では断熱窓や断熱ドアへの改修に補助金を出すそうなので、利用できる方はご検討ください。

改修(高断熱窓・高断熱ドア)、蓄電池に助成|東京都
この度、高断熱窓・高断熱ドアへの断熱改修や蓄電池の設置に係る経費の一部を助成する事業の申請受付を開始します。

また、当サイトでも著書を度々取り上げている、東京大学大学院の前真之准教授の記事が PRESIDENT Online に掲載されていました。

輸入パネルを使うのは売国、東京は曇りが多い…「太陽光義務化」への批判10項目を、東大准教授が完全論破する むしろ化石資源の既得権益をぶっ壊す最大のチャンス
東京都が整備を進める、新築住宅に太陽光発電の設置を義務付ける条例案について、多くの疑問や批判が寄せられている。東京大学大学院の前真之准教授は「具体的な代替案のない批判は国民を問題だらけの化石エネルギーに縛り付けるだけ。太陽光も完璧ではないが...

前先生の断熱などの話はわかりやすくて好感を持っていましたが、この記事の内容には引っかかることばかりでした。高断熱住宅の専門家には SDGs や再エネが好きな方が多く、彼らと比べると私の環境意識は異端だと思っていますが、記事についたヤフーコメントを見ると反発だらけでした…(追補:Yahoo!ニュースへの転載は終了したため、現在はコメントを確認できません)

「なんだかなぁ」と複雑な気持ちになります。環境政策に関して先生を支持する気にはなれませんが、著書の推薦は勝手に続けます。

推薦本:『エコハウスのウソ』を読んでみた

補足:私は別にアンチ太陽光発電ではありません。太陽光発電に対して過度な期待を抱いている人が多く、そういう人の一部が時に押しつけがましいと感じるだけです。この頃は太陽光発電に対する世論の反発が高まっていますが、それは利益しか考えない一部の悪徳業者や電力政策の誤りのせいであり、太陽光パネルを設置した戸建住居者が肩身の狭い思いをする必要はないと思っています。自宅屋根で電気自動車やエコキュートと組み合わせて運用するのは良い選択肢の一つだと思います。

不安定な再エネ(VRE)の比率を増やすことの問題は、エネ庁PDF資料にある次の図に集約されています。

再エネの主力電源化とか、再エネ最優先の原則は、見直すべきではないでしょうか。

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