住宅の省エネ評価に対する疑問

ZEH支援事業の調査発表会資料(2019、PDF)を読んでいたら、今更ながら住宅の省エネルギー性能の評価手法について疑問が湧き出てきました。

住宅の省エネ評価は主に一次エネルギー消費量の削減度で評価されるようですが、まず、「一次エネルギー」という用語が身近ではありません。この省エネ評価で目指すことを簡単に書けば、省エネ+創エネのトータルでエネルギーを消費しない住宅を増やそうということでしょう。

省エネ住宅になって発電すれば家計にも地球環境にも良さそうなものですが、よく見るとその評価方法には根本的な問題が多々あるように思えてなりません。

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削減率 166% の実績?

上記資料 p.85 の調査結果サマリーには、以下のデータが掲載されています。

これによると、ZEH の実績とされる一次エネルギー消費量の削減率は、
省エネ分だけで 55% [式:消費削減量 ÷ 基準一次エネルギー消費量]、
再エネ発電分を含めると 166%[式:(消費削減量+発電量) ÷ 基準一次エネルギー消費量] もあることになっています。
それが本当なら、ものすごい効果に見えます。

しかしその内訳や計算方法をよく見ると、実は効果を大きく見せているだけということがわかります。
この疑惑は、主に次の3点です。

  1. 「その他」エネルギーを除外している
  2. 基準一次エネルギー消費量を過大に見積もっている
  3. 再エネ発電分を消費分と等価とみてよいのか

1 については、住宅性能に関係ないとして、家電等の「その他」のエネルギーが分母から除外されています。ところが実績値を確認すると、実際は「その他」が基準値(=設計値)よりだいぶ多いことがわかります。「その他」は断熱性能が低いほど多い傾向があることから、局所暖房が含まれている可能性があります。本来は局所暖房も暖冷房(=空調)に含めるべきですが、HEMSデータでは区別できなかったのでしょう。

「その他」を基準値に含めると、省エネ分の削減率は 55% から 35% まで小さくなります。ZEH が 20% 以上の省エネを目指していることを考えると 35% でも十分すごい気がしますが、この評価には 2 番目に挙げた基準値の問題を考える必要があります。

2、3 については長くなるので、以下のセクションで詳しく説明します。

基準一次エネルギー消費量の不思議

省エネ評価は、「基準一次エネルギー消費量」を基準として計算しています。これを基に何%省エネになるかを計算しているわけですが、この基準は、平均的な一般住宅における実際の一次エネルギー消費量ではありません
ふつう、一般住宅と比べてどれだけ省エネになっているのかを考えたいものですが、この基準一次エネルギー消費量はそうではありません。

基準一次エネルギー消費量とは?

基準一次エネルギー消費量」というのは、現行の省エネ基準より前(1999年)の住宅仕様で、モデルケースの生活パターンをシミュレーションした結果を積算し、0.9 を乗じた値です(外部参考PDF:「住宅の一次エネルギー消費量基準の考え方」)。
これに対し、「設計一次エネルギー消費量」は、設計仕様で同じモデルのシミュレーションを行った結果の積算値です。

問題は、このシミュレーションが現実とかけ離れていることです。
調査結果資料のどこを読んでも、設計値と実績値には大きな差があります(ほとんどの場合、実績値が少ない)。
シミュレーションでは低断熱な住宅ほど暖冷房エネルギーが多いことになっていますが、実際には低断熱な住宅では部屋着を着込み、空調ではなく局所暖房(「その他」のエネルギーに分類)を使用するため、トータルのエネルギー消費量は現実ではあまり差がありません。
実際にはシミュレーションほど空調を使わない人が多いし、「断熱性能が変われば暖房の使い方も変わる」という当然のことが考慮されていないのではないでしょうか。

参考 断熱性能が高いほど暖冷房費が安いのは本当か?【ZEH住宅の実測調査結果】

この結果、基準一次エネルギー消費量にしても設計一次エネルギー消費量にしても、見積もりが過大なのではという疑いがあります。
これらが大きいと、実績の削減効果は過大に評価されてしまいます。

基準一次エネルギー消費量と、既存住宅の平均一次エネルギー消費量の比較

この基準一次エネルギー消費量の見積もりが過大であることは、統計データからも推測できます。

ZEH支援事業全体(N=6,905)の基準一次エネルギー消費量の平均値は、95 GJです(調査結果資料 p.80)。

基準なのだから、日本の一般的な住宅における実際の一次エネルギー消費量の平均値と同じくらいだろうと考えるのが普通だと思いますが、そうなっているのでしょうか?

調べてみると、そのものズバリのデータは見つかりませんでしたが、日本の世帯当たりエネルギー消費量についてはデータが見つかりました。
環境省の資料(PDF)によると、2015年の世帯当たりエネルギー消費量は、33.8 GJ とのこと(※1)。これは二次エネルギーなので、一次エネルギーに換算する必要があります。この換算は私には難しいですが、すべて電気として 2.71 倍し、最大限に見積もったとしても、一次エネルギー消費量は 92 GJ にしかなりません。実際は、60~70 GJ くらいではないでしょうか(※2)。

実際の世帯当たり一次エネルギー消費量を仮に 60 GJ とし、基準一次エネルギー消費量と比べると、全国世帯平均で既に基準から 35% 以上も削減できていることになってしまいます。数字がテキトーですが、「省エネ住宅とか関係なしに、住宅分野の省エネはすでに実現しているのでは?」という疑惑が浮かんできます。

※1 国土交通省のデータ(PDF、p.8/110)によると、2016年の世帯当たりエネルギー消費量は、38.7 GJ というデータもあります。

※2 エネルギー白書2020 には次の記述があります:「2018年度は、日本の一次エネルギー国内供給を100とすれば、最終エネルギー消費は66程度でした」。
ここから、エネルギー消費量を一次エネルギーに換算するには約 1.5 倍すればよい気がしますが、家庭部門は電気の割合が大きいため、1.9 倍くらいかなという大雑把な計算です。

再エネ発電分を差し引くことの是非

省エネ住宅政策の目玉である ZEH の考え方は、一次エネルギー消費量から創エネ量(再エネ発電量)を差し引くことにより、ネット(正味)ゼロになるというものです。
エネルギー量としてはわかりますが、しかしそもそも、需給を無視して不安定に発電される再エネ発電を、量だけで比べて等価とみなすのはどうなのでしょうか。

現在、年間数兆円ものお金を再エネに回しながら、化石燃料への依存度は以前より高まっているわけで、等価と見なすのはやや再エネびいきに感じられます。

参考 簡単ではない電力問題

また、住宅の省エネ評価では LCA(ライフ・サイクル・アセスメント、Wikipedia)の視点が抜けていることも気になります。LCA は、エネルギーミックスの重要性が考慮されない、データの選択に左右されるなどの弱点もあり万能ではありませんが、トータルで環境への影響を評価する必要があることに疑いはありません。ゆくゆくは世界的に LCA の観点で評価する流れになることでしょう。

住宅を LCA 視点で見れば、蓄電池、ベタ基礎の多量のコンクリート、発泡プラスチック系断熱材などは施工までの環境負荷が高いことがわかるはずです。

発電量だけを見るのでは、「EV(電気自動車)の CO2 排出量がゼロ」というのと同じで表面的です。EV は実際には原料の採掘から製造までに大量のエネルギーを消費し、CO2 を排出しています。またいくら EV でも、充電時の電源に火力発電が含まれていれば、その分の環境負荷までを考慮する必要があります(欧州では原子力と水力などのエネルギーが豊富な国で EV 向けバッテリーを製造する方向に動いており、欧州に有利なタイミングで LCA 規制を導入することが検討されています。すぐに LCA 規制が導入されないのは、トヨタのハイブリッドに勝てないからです)。

家庭部門でも、蓄電池を利用したりして太陽光発電の自家消費割合や自給率を上げることは重要ですが、LCA 視点で考えると、設備をクリーンなエネルギーで製造する必要もあるわけです。そうした視点は、ネット・ゼロ・エネルギーの計算ではまったく見えません。

環境のためには、主な製造地域であるアジアの化石燃料依存を減らさなくてはいけません。しかし現状、日本の化石燃料依存度は高く、再生可能エネルギーを低コストで主力電源にする道筋はついていません。欧州では水力と原子力の組み合わせでクリーンなエネルギーを供給できますが、日本で簡単にマネできるものではありません。

現在の省エネ評価の問題点

そういうわけで、住宅の省エネ評価は一次エネルギー消費量の削減効果を高く見積もりすぎ、と思います。
いい加減なシミュレーションなのに手法が複雑すぎ、本当はどの程度エコなのか、どうすればエコになるのかも見えません。
認定の事務作業に官民の労力がかかりすぎること、基準が杓子定規なこともまた問題に思います。

「家庭部門の二酸化炭素排出量をさらに減らさなければ」という縦割り行政的な考え方には限界があるのではないでしょうか。

そもそも、日本の家庭のエネルギー消費量は世界的に見て既に優秀です。
以下のグラフは、世帯あたりの家庭用 用途別エネルギー消費量の国際比較です。

出典:https://www.mlit.go.jp/common/001223583.pdf

一番下の日本は、合計量で圧倒的なトップを走る省エネ住宅国家です。改善の余地はありますが、省エネすべきは暖房(図のピンク)ではありません。温暖な気候もあるとはいえ、日本の暖房使用量は少なすぎるくらいです。高断熱化によって削減できる余地はほとんどないように思えます。

ZEH住宅の断熱性能と暖冷房費の関係を調べた実測調査結果と併せて考えると、日本において住宅の高断熱化はエネルギー問題ではなく、健康福祉の問題ではないかと思います。

経産省、環境省、国交省がかかわる現在の住宅省エネ政策は、環境問題に資する効果を期待して補助金を出す仕組みです。が、明白な結果が見えないにもかかわらず大きな予算を割いているのだとすれば、納税者としてはどうも納得できません。

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