エコハウスという言葉に感じる違和感

この頃、高断熱住宅という言葉に代わって「エコハウス」という言葉が使われることが多くなってきました。
私見ですが、私は「エコハウス」という言葉があまり好きではありません。

理由は2つあり、エコハウスという言葉の意味があいまいなことと、環境に優しい住宅という評価軸に違和感を覚えるからです。

環境問題を軽視しているのではありません。私は昔から住宅よりも環境科学に興味があり、学生時代からずっと環境問題について真剣に考えてきたからこそ、建築関係者やメディアなど世間一般でいわれている「エコ」と、「環境問題の本質」とのギャップがどうしても気になってしまいます。

近年、日本でも環境問題に対する危機感が高まっています。
2020年10月には菅首相が所信表明演説で2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言し、経産省はグリーン成長に2兆円もの予算を確保しました。
環境問題の専門家なら歓迎すべきことなのでしょうが、私はむしろ、日本の前のめりな姿勢に危機感を覚えます。目指すべきは日本国民や人類の幸福であり、カーボンゼロが絶対目標ではないと思うからです。

守る気のないただの目標なら構いませんが、本気で実現する気なら、日本の将来に多大な負担をかけることになります。危機をあおるメディアに動かされた世論によって政治が無茶な目標へと突き進み、結果として多くの市民が犠牲になるというのは、もう懲り懲りです。。

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エコハウスって何?

エコハウス(つまり「地球にやさしい住宅」)というと何となく聞こえはいいですが、エコハウスとはいったいどのような住宅なのでしょうか。

実はその形は決まっておらず、人や時代によって変わっています。

エコハウスの意味が変わった一冊の本

エコハウスという言葉の転機は、2012年に東大の前先生が書いた『エコハウスのウソ』という本でした。
この本は、当時流行っていたエコハウスが「科学的に見て本当にエコなのか」という観点からわかりやすく解説しています(紹介記事も書いているように、この本はエコ一辺倒ではなく施主のためになる良書です)。

この本によると、当時の建築雑誌で紹介されていたエコハウスは、”大きな窓に吹き抜け空間があり、通風重視でエアコンを使わない住宅” のことを漠然と指していたそうです。人工物の機械に頼らない自然重視の住宅がエコである、と。

ところが科学的に考えるとこのような住宅には問題があり、エコで快適な住宅は高断熱である必要がある、というのがこの本の主張の一つです。

ここでのエコとは、主にCO2排出量が少ないという意味で、省エネは家計にも助かるので消費者にもメリットがあります。

こうして、昔から高断熱住宅を推進していた方々は、「エコハウスとは高断熱住宅のことだ」と解釈し、使い古されオタッキーな印象のある「高断熱住宅」という言葉の使用を控え、代わりにイメージのよい「エコハウス」という言葉を使うようになりました。

建築業界一般で「エコハウス」というとき、現在どちらの意味で捉えられることが多いのかは知りませんが、とにかく、エコハウスの意味は一つではないということです。

経産省関係者や、その補助金の受益者にとっては、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略、ゼッチ)こそがエコハウスだと思っているかもしれません。

エコハウスと高断熱住宅は違う?

細かい話ですが、エコハウスと高断熱住宅は、厳密には違うと思います。自然派住宅や ZEH はもちろん、CO2 排出量が少ない住宅という意味のエコハウスであっても、高断熱住宅とイコールではありません。

エコハウスは高断熱住宅である必要がありますが、高断熱住宅がエコであるとは限らない、と思います。

高断熱になればなるほど冷暖房エネルギーが小さくなるのは確かですが、それは冷暖房を同様に行った場合での机上の話です。温暖地の冷暖房は間欠運転が当たり前ですが、高断熱になって北海道などと同様に連続暖房を行うようになれば、話は別です。実際、温暖地でも全館空調や連続暖房を採用する住宅はおそらく増えています。

高断熱にすると省エネになる、というデータのほとんどはシミュレーションに基づいています。
シミュレーションの問題は、温暖地で間欠運転を基本としていることだけではありません。非現実的なことに、間欠運転でも同じ暖房スケジュールでの運用を想定しています。
これまでコタツなどを活用して電気代を節約してきた家庭が、新居でより広い空間の暖房を行うようになったとき、暖冷房エネルギーが本当に減るのかは疑問ですし、私は知りません。

断熱レベルごとの実際の消費エネルギーについての大規模な調査データを見たことがないからです。
高断熱化で省エネになると主張するのなら、そのような実データを見てみたいものです。※

本当の結果(効果)を見ないでシミュレーションだけで政策判断を行ってはならないと思いますが、コロナ対応を見ると…(以下自粛)。

※ ZEH について設計上と実際の消費エネルギーを調査した結果(PDF)が見つかったので、近々紹介したいと思います。

断熱性能が高いほど暖冷房費が安いのは本当か?【ZEH住宅の実測調査結果】

エコハウスは重要ではない

環境問題が重要でないとは私も思いません。温室効果ガスの排出量削減を含む、気候変動やその影響を減らすための措置は、言うまでもなく重要です。地球温暖化について不確実性はありますが、懐疑論の立場はとりません。

私がエコハウスに疑問を感じる最たる理由は、住宅だけでエコ(ゼロエネ、創エネ)を追求することに意義を見出せないことです。

住宅分野のCO2排出量を減らすことが目標ならばそうなるのはわかりますが、この目標設定はそもそも適切なのでしょうか。

元も子もないことをいえば、家は建てないほうがエコであり、人間は存在しないほうがエコですが、一人一人が幸福を追求して家を建てるのは問題ないこととして話を進めます。ディープエコロジーには賛同しません。

エコハウスはSDGsの目標にない

近年、国連が定めた SDGs(持続可能な開発目標)Wikipedia)が注目されています。
これに沿って社会は発展していくべきと思われます。

ところが、SDGs で「住宅」に着目してみると、細かい目標を見ても、”住宅の” CO2排出を減らそうとか、ゼロエネルギー住宅にしようといった項目は見つかりません。

住宅に関する唯一の項目は、「2030年までに、すべての人々の、適切、安全かつ安価な住宅および基本的サービスへのアクセスを確保し、スラムを改善する。」という項目があるのみです。

世界的に、まずは住宅を確保することこそが重要だということです。そうすることができない貧困は、当事者にとって環境問題以上にとてつもなく重要な問題です。環境問題は概ね、豊かな国のぜいたくな悩みともいえます。

日本の ZEH は、すべての人々のための安価な住宅のカタチでしょうか?
電気の完全自給を目指すのは、将来はともかく、現在の技術ではまだコストが高すぎ、非効率的ではないでしょうか。

SDGs の 17 の目標には、「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」という目標と、「気候変動に具体的な対策を」という目標もあります。エコハウスはどちらかというとこれらに関係が深そうです。

ところで、環境問題で有名な標語として、「Think globally, act locally」(グローバルに考え、ローカルに行動しようという意味)というものがあります。

ここで、エコハウスについてグローバルな視点で考えてみたいと思います。

日本の住宅が地球温暖化に与える影響は小さい

日本の住宅が地球温暖化(≒気候変動、CO2排出量)に与える影響はどの程度なのでしょうか。

この問題の概要をつかむのに良い資料は、以下のサイトによくまとまっています。

JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター |
全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)は地球温暖化防止活動に役立つ情報の収集発信の場です

まず、2017年のデータによると、世界の二酸化炭素排出量のうち、日本の占める割合は 3.4%です。
二酸化炭素排出量は人口や経済規模の大きい国ほど大きいので、現在の日本はその程度であり、この割合は今後も低下していくことでしょう。

国民一人あたりのCO2排出量の比較データもあります。

出典:全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(http://www.jccca.org/)

これによると、日本人はアメリカ人より4割少なく、環境先進国といわれるドイツ人とほぼ同じことがわかります。

次に、日本からの排出量の内訳をチェックします。
2018年の日本における部門別二酸化炭素排出量の割合は、以下のとおりです。

出典:全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(http://www.jccca.org/)

家庭部門はわずか 4.6% しかありません。ただし、この部門分類では、発電に伴う排出量がすべてエネルギー転換部門(40.1%)に集約されています。これを電力消費量に応じて配分すると、住宅部門の排出量シェアは 14.6% になるとのことです。

つまり、グローバルに考えると、日本の住宅は地球温暖化の原因の 0.5%(3.4% x 14.6%)ということです。また、家庭部門の排出量の大部分は発電要因です。

一人一人の努力が求められるとはいえ、日本の住宅が気候変動対策に貢献できる余地はほとんどありません。
発電に伴うCO2排出量を削減することや、国際的な技術開発協力(高効率火力発電の普及も含む)のほうがよほど効果的であることが見えてきます。

発電に伴うCO2排出量を削減するためには、化石燃料による火力発電を減らす必要があります。クリーンなエネルギーが手に入るようになれば、新築のエコハウスだけでなく既存の住宅での排出量も大幅に減らすことができます。

このため、再生可能エネルギーを増やすべき、という意見をよく聞きます。私も、無理のない範囲で再生可能エネルギーが増えることには賛成です。

しかし、再生可能エネルギーを増やせば解決するのかというと、そう簡単な問題でもありません。

簡単ではない電力問題

再生可能エネルギーが増えない理由は単純です。安定性とコストに問題があるからです。本当に安くて価値があるのなら勝手に普及するはずで、そうならないのは複雑な事情があります。

経済的な問題に関しては、2012年からは FIT(固定価格買取制度)が始まりました。簡単にいうと、電気使用量に応じて税金のように金を集め、そのお金を再エネ支援に充てる制度です。

電気代の請求書を確認してみると、2021年1月現在、再エネ発電賦課金は 1kWh あたり 2.98円 徴収されていました。だいたい電気単価の 1 割超であり、2030 年頃まで増え続ける見込みです。

小さい単位でみると大した額に思えませんが、日本全体でみると、賦課金の総額は 2019 年単年で 2.4兆円にもなります。約 10 年前の国の生活保護費に匹敵し、アベノマスクを 92 回配布できる金額です(?)。いつの間にか尋常ではない額が再エネに移転されるようになっていたのです。

これだけの費用負担によって、どれだけの効果が出ているのでしょうか。再生可能エネルギーの割合はどれだけ増え、CO2を排出する化石燃料の割合はどれだけ減ったのでしょうか。

気になったので、電気事業連合会による電源別発受電電力量の推移のグラフを確認してみました。

原子力発電所が稼働していた震災前の 2010 年度と最新の 2018 年度で比べてみます。
「地熱および新エネルギー」の割合は 2% から 9% (内、太陽光6.7%)へと少しずつ拡大していますが、その程度です。
(なお、国の「長期エネルギー需給見通し」(H27)では、2030 年の再生可能エネルギーの割合を 23% 前後としています。)

一方、化石燃料(天然ガス・石炭・石油等)の割合は、66% から 77% に増加しています。グラフの数値から絶対値で計算してみても、総電力量が 1 割弱も減っているにもかかわらず、化石燃料による発電量は約 7% も増加しています。

再生可能エネルギーを増やしても、結果的に化石燃料依存を脱することができないのであれば問題です。火力発電を減らせという人もいますが、再生可能エネルギーの不安定さを補う発電設備は必須であり、強引に減らせば停電リスクが高まります。大容量の蓄電も、まだ当分はコストが高すぎます。

再生可能エネルギーの未来は期待できるかもしれませんが、現状の現実を見るかぎり、CO2 排出量削減に対する費用対効果は大いに疑問です。

このような現状から、FIT は賦課金の再分配によって関連業界を優遇しているだけのようにも思えます。kWh の収支だけで考えるネット・ゼロ・エネルギー住宅支援に至っては、ただ不公平で非効率的な住宅取得補助金(あるいは関連業界に対する時代遅れの産業保護政策)ではないかという気すらします。

再生可能エネルギーに思い入れのある方はそんなはずではないと思う方も多いかもしれませんが、電力問題は複雑なので、基礎知識として『誤解だらけの電力問題』(Amazonリンク)を読んでいただくことをお勧めします。2014年と少し古い新書ですが、電力事業の基本(複雑な理由や世界との比較)、電力会社の思考回路がわかりやすく書かれていて、再エネ業者側の意見からは見えない問題点が浮かび上がってきます。

現時点の日本の状況では、再生可能エネルギーが原子力の代わりにはならないこと、CO2排出量を減らすには原子力を活用すべきであることはエネルギー・環境問題の基本です。しかし、原子力の利用には、既存施設の活用(再稼働)ですら根強い反発があります。

「脱原発で再生可能エネルギーを」という理想論でメリットがあるのは再エネ関係者や政治家・メディアなどだけで、環境・健康問題への本質的な効果は乏しく、市民生活に負担がかかるばかりというのが隠れた実態ではないでしょうか。

負担は電気代だけの問題ではありません。日本で製造業の経営条件が悪化すると、製造拠点が海外に移転し、国内の失業が増え、産業の空洞化が発生します。その分サービス業などが伸びれば雇用の受け皿になりますが、地方で受け皿になる仕事はというと、介護・医療など、外貨を稼げない内向きのサービス業ばかりです。

日本から製造業がなくなれば日本の再エネ割合は増えてCO2排出量も減りますが、代わりに海外で製造されれば世界でのCO2排出量は増えるので、結局よいことがありません。どの道も険しい選択になりますが、このままではコストが増えて日本は貧しくなる一方です。何かをガマンしないと、魔法のような解決策はありません。

FIT にしても脱原発にしても日本の民主的な手続きによって決まったことなので、私には納得いかない気持ちもありますが、受け入れるしかありません。社会主義国家なら強引に決められますが、かといって中国やロシアのような自由のない国が良いとは絶対に思いません。

「地獄への道は善意で舗装されている」という格言や、チャーチルの「民主主義は最悪の政治形態といわれてきた。他に試みられたあらゆる形態を除けば」という名言には妙に納得してしまいます。

環境問題の本質

いろいろな立場の意見を聞いて思うのは、環境問題の本質は世界的な利害調整の問題だということです。
環境問題の対応にはコストがかかるので、税金や賦課金などの方法でお金を徴収し、特定分野に再分配することになります。
FIT で見たように大きな金額が動くので利権も発生するし、他国の動向も無視できません。そんな中、行政はこれらをいかに公平かつ効率的に行うかがカギとなります。

これらの活動には利益を受ける人とそうでない人がいて、ほとんどの人(あるいは国、業界)は自分の立場が有利になるようなポジショントークを行います。狡猾な意図はなく純粋な動機に基づく活動だとしても、自分の立場が不利になることは言いません。原子力ムラや財界などを悪と見なし、既得権益が再生可能エネルギーの普及を拒んでいるという主張は受け入れやすいですが、陰謀やロビー活動があるのはどちら側も同じです。

中立的に見える学者や行政、各種団体にも何らかの利害関係や立場があり、客観的に見えるデータにも意図があります。環境問題では技術・経済・国際情勢・業界事情などすべてを考慮する必要がありますが、これらすべてを把握している環境の専門家はいません。一見格好いいことを言って目立つのは、視野の狭い専門家や活動家ばかりです。科学的・合理的な評価、費用対効果を軽視し、メディア受けする感情論に流されがちな傾向もあります。

論争のある問題で、どちらかが一方的に正しいことはほとんどありません。「何もしなくていい」ということはありませんが、「~をすぐにゼロにすべき」とかいう極端な意見に対しては、その実現可能性や必要性、コストについても疑いの目を向ける必要があります。

環境問題は、不公平・非効率にならないよう、熟慮を重ねて制度を整え、長期で取り組むべき問題です。
現在の日本の環境政策は、「費用対効果」、「実現可能性」、「公平さ」のどの観点でみても問題山積に見えます。

一市民としてすべきこと

環境問題は考えると大きすぎ、個人としてできることはそれほどありません。何十年も考えてきた私でも、単純に「こうすべき」と言えることはまだ見つかりませんし、誰かが悪いとも思いません。私の場合、極端な意見に納得いかず、どうにかしたいと考えれば考えるほど、どうにもならない現実に気が滅入るので、ここに書くだけ書いてスッキリし、なるようにしかならないと諦めの境地を目指すよう心がけています。日々の身近な生活のほうが大切なので。

すでに世の中は不公平・非効率な制度であふれており、そのルールのなかで生きていくほかありません。

現状では太陽光発電は採用したほうが得なことが多いし、制約の多い補助金ももらったほうが得です。

かくいう私も、電気代が安くなってデメリットが見当たらないから、という理由で、再生可能エネルギーを推進する【Looopでんき】
と契約しています。LNG 依存に伴う調達価格高騰にも耐えたし、タケノコのように出てきた新電力のなかでも強そうなので、すぐに潰れることはないと踏んでいます。


参考
東電からLooopでんきに切り替えて変わったこと

最近は「タダで太陽光パネルを設置しませんか?」とか蓄電池とかをたどたどしい口調で勧めてくる営業の電話がうざいのですが、再エネは FIT だけでもそれだけ儲かるということなんでしょう。テスラの株価や ESG 投資もバブルのような活況であり、世界の潮流は無視できません。

全固体電池の実用化が進み、EV も増えていけば、住宅などでの太陽光発電+蓄電池のメリットはますます増えていくことでしょう。蓄電技術等の進化しだいでは、家庭部門のエネルギー自給はいつか無理なくできる気もします。

現状のままでは日本の製造業の海外流出は防げませんし、補助金の原資を忘れてはいけません。が、波に乗らないと、ただ費用を負担させられ、今後増えるであろう停電被害をもろに受けるだけです。

あまりに損ばかりなので、わが家もいつかは導入しようかなと傾きつつあります。今後も巨額が投じられるので急ぐ必要はありませんが、いつがいいのか、どんなリスクやメリットがあるのかをしっかり見極めていきたいと思います(面倒くさくて何もしない可能性もあります)。

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