「夏涼しく冬暖かい家」は快適であり、理想です。そんな住宅を実現するためには、熱に関する物理的な現象を理解し、人間が暑さ寒さをどのように感じるのかを知っておく必要があります。今回は、第一弾として、まず前者についてかんたんに紹介したいと思います。
住宅の室内の温度には、熱の移動が大きく影響します。この熱の移動を扱う知識は、伝熱工学として体系化されています。
熱の移動の 3 形態
熱の移動は、熱伝導、熱伝達、熱放射のどれかに分けられます。それぞれ、住宅との関係を紹介します。
熱伝導
静止している物体中を熱が移動する現象のことで、高温部から低温部に向かって発生します。
熱伝導による熱の移動は、家を構成する壁や屋根、ガラスなどすべての材料で発生します。
各材料の熱の移動のしやすさは、熱伝導率(λ値、W/(m・K))で表され、この値が小さいほど熱が移動しにくい(=断熱性が高い)ことになります。
主な住宅材料の熱伝導率は、アルミ>鉄>>コンクリート>ガラス>プラスチック>木材>空気です。アルミは非常に熱を伝えやすいため、窓サッシなどで局所的に使われているだけでも住宅の温熱環境に大きく影響してしまいます。
住宅の断熱方法には、内断熱(充填断熱)と外断熱があります(両方を採用することもあります)。内断熱の場合、断熱材は構造材の隙間に充填することになります。このため、構造材の部分は断熱材による断熱効果が期待できず、構造材自体の熱伝導率が大きく影響することになります。この部分は他より熱を伝えやすいため、「熱橋(ヒートブリッジ)」と呼ばれ、注意が必要です。鉄骨住宅で外断熱を採用するケースが多いのは、このためです。
壁、屋根、床に施工する断熱材の性能は、熱伝導率と、材料の厚さで評価できます。熱抵抗(R値、(㎡・K)/W)は、熱伝導率と材料の厚さから計算できる値で、大きいほど断熱性能が高いことになります。
なお、床材の熱伝導率は体感温度に影響します。これについては後編で詳述する予定です。
熱伝達
流体が関係する熱の移動現象のことです。
住宅に関係する流体は、主に空気です。空気は完全に静止していると非常に熱伝導率が低い物質なのですが、実際にはかんたんに動くため、対流による熱の移動を考慮する必要があります。
この対流熱伝達には、流体の速度が大きく影響します。住宅内外の空気の速度はまちまちなので厳密な計算は困難ですが、熱伝達という現象があり、空気の流れが小さいほど熱の移動が小さくなることは覚えておきましょう。気密性や換気が重要なのは、このためでもあります。
複層ガラスの間には、通常、アルゴンガスやクリプトンガスなどの希ガスが入れられます。これは、空気より熱伝導率が低いだけでなく、重く対流が発生しにくい性質があるため、熱伝達を少なくする効果も期待できます。
ちなみに、窓の断熱性能は、流体を含むため、熱貫流率(U値、W/(㎡・K))で表されます。熱貫流率は熱抵抗の逆数でもあり、壁などの固体の断熱性能の評価にも利用できます。
参考 断熱性能は窓、壁、換気で決まる(部位別の断熱性能比較)
壁などの断熱性能は基本的には前項の「熱伝導」で説明できますが、「熱伝達」の視点も必要です。グラスウールなどの断熱材では、施工などの偏りで隙間が発生し、そこで対流熱伝達が起きることがあるからです。そのようなことがあると、計算される本来の断熱性能の半分程度しか効果がない、ということもあるようです。その点においては、ボード型や吹き付け型の断熱材は安心と言えます。
熱放射
熱放射は、物体を介さない、電磁波による熱の移動です。電磁波というと難しく感じるかもしれませんが、住宅に関係するのは主に太陽光と赤外線です。電磁波はあらゆる物体が放出しており、別の物体がこれを受けると、その一部が熱に変わります。この熱は、輻射熱とも呼びます。
輻射熱というと、床暖房の暖かさをイメージされるかもしれません。床暖房の床も赤外線を放出するため間違いではありませんが、イメージとしてはあまり適切ではないと思います。輻射熱のイメージとしては、太陽光やハロゲンヒーターの暖かさが適当でしょう。床暖房が暖かいと感じる理由は別にあり、これも後編で説明する予定です。
熱放射は必ずプラスのエネルギーであるため、マイナスの影響を与えることはありません。住宅分野でよく使われる「冷輻射」とは、マイナスの輻射熱という意味ではなく、輻射熱が小さいという意味です。つまり、窓の外がいくら冷たくても、窓の前に立つことで、冷輻射のせい(電磁波を介して熱を奪われるせい)で身体が冷えることはありません。人体から窓面に放出される熱エネルギーよりも窓面から受ける輻射熱のほうが小さいために放熱が発生している(身体が相対的に暖められない)だけのことなのです。
熱放射に関して住宅で一番重要なことは、太陽光を適切に制御することです。これは熱移動において大きな影響を持ちますが、断熱で考慮される「熱伝導」と「熱伝達」とは別に考える必要があります。
熱放射による熱移動が最も起きるのは、窓です。近年普及している Low-E ガラスは、侵入する放射熱を半分程度にしたり、室内から出る放射熱を家の中にとどめたりする効果があります。しかし日射対策はそれだけでは不十分であり、冷房期と暖房期に分けて対策を考える必要があります。
また、屋根は太陽熱によって非常に高温になるため、断熱材を分厚くする必要があります。
熱容量
住宅においては、熱の移動だけでなく、熱容量についても考慮する必要があります。熱容量とは、物体の温度を変化させるのに必要な熱量のことです。石やコンクリートは木材よりも熱容量が大きいため、温まりにくく冷めにくい性質があります。これには、良い面と悪い面があります。
良い面として、熱容量が大きいと、蓄えておいた熱を時間差で利用することができます。これが蓄熱です。基礎断熱では、基礎のコンクリートを蓄熱材とすることで、冷暖房を止めても一定の温度を保ちやすくする効果があります。
しかし一方で、冷暖房で目標の温度に到達するまでに時間がかかるという欠点もあります。
コンクリートを多用する鉄筋コンクリート造りのマンションは、この性質の影響を強く受けることになります。
夏は日射の影響を受けにくい区画では涼しさを享受できますが、日当たりのいい区画では日中暖められたコンクリートが夜間になって放熱し続けるという問題を生じさせます。また、冬は夜間の冷え込みが和らぐものの、昼間も暖かくなりにくい傾向があります。
室温はどう決まるか
室温は、家から逃げる熱(熱損失)の量と、家の内部に入る熱量および内部で発生する熱量が平衡状態になる温度となります。
熱損失は、室温と外気温との差に比例します。室温が温かく、外が寒いほど、熱損失は大きくなります。これを減らす方法は、家全体の断熱性能を上げることと、換気による熱損失を減らすことしかありません。この逃げていく熱量はまた、(延床面積) x (Q 値:熱損失係数) にも比例します。
参考 断熱性能を示すQ値とUA値の違いと注意点、第一種換気と第三種換気
一方の内部に入る熱と内部で発生する熱には、日射熱、人の活動に伴う熱、暖房による熱などがあります。熱損失が少ない住宅では、日射熱をコントロールすることで無暖房で過ごすことも可能です。暖房による熱は、ヒートポンプ技術を活用するのが効率的です。
日射熱の量を計算することは困難ですが、その影響が少ない場合、家の断熱性能から暖房費用を推測することができます。
温度ムラ
ただし実際には、家中の温度がどこでも一定ということはありません。熱の移動が発生する場所が偏在していると、家の内部で温度ムラが発生します。高断熱でない一般的な住宅では、窓際の温度が外気温に近くなり、冷暖房装置の近くとでは大きな温度差が発生します。また、暖かい空気は軽く上昇し、冷たい空気は重く下降するため、上下の温度差も大きくなります。
一方、高気密高断熱住宅では、熱の移動が発生する場所が、家内部ではなく外皮(屋根、壁、窓、床などの断熱面)となります。また、各断熱面での熱移動量の差も小さくなるため、家中の温度差がなくなります。
以上、熱に関する物理的な現象について紹介しました。しかし、涼しいか暖かいかは人間の感覚の問題なので、物理的な熱の現象だけで説明することはできません。後編では、上記を踏まえ、「夏涼しく冬温かい家」とは何か、どうすればよいのかを考えたいと思います。
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