近年、エアコン暖房は、高効率の暖房手段として高断熱住宅を中心に広まっています。エアコンが高効率で低コストと言われるのはなぜなのでしょうか。ガス、灯油による暖房などと比較してみたいと思います。
各種エネルギーの単価
こちらのページによると、熱量 1 GJ あたりの単価は次のとおりです。
電気:7,800 円
都市ガス:3,700 円
LPG:6,000 円
灯油:2,500 円
なお、GJ を kWh に換算すると、1 kWh あたりの単価は次のようになります。
1 kWh あたりの単価
電気:28 円
都市ガス:13 円
LPG:22 円
灯油:9 円
どちらも割合は同じですが、これらを見ると、電気の暖房は一番安い灯油より 3 倍以上も高そうに見えます。
しかし、エアコンには他にない特長があります。
高効率なのはエアコンだけ
エアコンでは、ヒートポンプ技術(外部参考サイト)を利用することにより、消費エネルギーの数倍の熱エネルギーを得ることができます。この倍率を
COP(成績係数)と呼びます。
消費エネルギーで比較すると…
ヒートポンプを使わないその他の暖房手段で得られる熱エネルギーは、最大でも消費エネルギーと同じ(COP = 1)です。ということは、同じ暖房負荷に対して必要なエネルギー(消費電力)は、エアコンの場合、1/COP で済むということになります。
たとえば、単位エネルギーあたりの電気料金が灯油代より 3 倍高くても、COP が 3 より大きいのであればエアコンの方が安く暖房できることになります。
ちなみに、価格コムで一番売れていた以下のエアコンの仕様を見ると、暖房 COP は 4.68 もあります。
我が家の全館空調システムでも、暖房 COP は 4.26 です。エアコンの効率は年々進化しており、最新型ではもっと高効率のものもあります。
エアコン暖房が高効率で低コストな暖房方式と言われるのは、そういうわけなのです。電気料金は今後上がる可能性がありますが、その場合は灯油代やガス代も上がるでしょうし、COP が 4 を超える状況ではエアコン暖房の優位性は変わらないでしょう。
なお、暖房能力だけを見るとエアコンは弱いのですが、高断熱住宅では必要な暖房能力が小さくて済みます。エアコンでも十分に家全体を暖めることができます。寒冷地でもエアコン暖房が広まっているのは、そのためです(追記:寒冷地では霜取り運転が必要だったり COP が低くなるため、必ずしも優れているわけではありません)。
エアコン以外の電気暖房は高コスト
参考までに、最も高コストなのは、ヒートポンプ技術を使わない電気暖房です。電気暖房には、セラミックファンヒーター、オイルヒーター、ハロゲンヒーターなどいろいろありますが、どれも部屋を暖める用途では非常に高くつきます。
よく最新式で高効率などと宣伝されていますが、それは「空間を効率的に暖める」という意味ではなく、「近くで当たっているところは従来品より消費電力の割に暖かく感じる」という意味でしかないのです。いくら最新のものでも、消費エネルギーを超える熱エネルギーを生み出すことはできません。つまり、空間を暖める用途ではエアコンの効率には到底かなわず、これらは局所的な用途でのみ使うべきものなのです。
なお、暖房器具を選ぶ際は室内空気汚染にも注意が必要です。石油やガスを使う場合は FF 式でないと室内の空気が汚染するため、高気密住宅には不向きです。
コメント
全館空調をこれから導入しようとする者としては勇気の湧いてくる嬉しい記事です。
低圧電力で安定ローコストってのも良いですよね。基本料金もそこそこしますが。
気になるのは、動力電源なので、太陽光と蓄電池で完全自給自足の生活をすることは
できないということ。そんなこと気にする人は1%もいないと思いますが(笑)
(普通は新しい製品が出ても買い換えが困難とか、故障時とかを気にしますよね)
三井ホームの標準仕様のように電力を多く使う場合には低圧電力はメリットが大きいですね。個人的には電気設備にお金をかけず、もっと高断熱にして消費電力を減らしたいのですが、太陽光のような補助金や料金制度上のメリットを受けられないのが残念なところです。次に家を建てるとき(?)は、基礎内断熱の床下エアコンと太陽熱利用給湯システムの導入を検討したいと思っています。
さとるパパさん、こんにちは。
先日はコメントありがとうございました。
あれから全館空調などについて、あれこれ考えてみました。
3月上旬ごろに全館空調についての記事をアップしようと思います。
その際に、さとるパパさんのブログや、先日に書いて頂いたコメントを
記事でご紹介させて頂いても良いでしょうか?
よろしくお願いしますm(__)m
こちらこそ、ありがとうございました。私もくろーばーさんの視点が勉強になりました。
コメントが長くなり乾燥のテーマとずれるので控えましたが、私なりに整理すると、やはりペアガラスとトリプルガラスとではコールドドラフトの影響に差があり、高断熱・高気密ほど上下の温度差は小さいと思います(窓の配置や間取りも影響)。
ただしこの温度差は空気の流れ(エアコンまたは全館空調吹出し口の配置)で軽減できそうです。故・鵜野日出男さんによると、断熱的に弱い窓に向かって水平に暖房の風を送る方法が快適のようです(該当記事)。窓の内外温度差が増えて熱損失は微妙に増えるかもしれませんが、冬も夏も快適になると思います。
床の暖まり方がエアコンと全館空調で異なるなら、エアコンから離れた場所でどうなのかが気になるところです。今後の更新を楽しみにしておりますので、その際は個別記事やコメントなどもご自由に使っていただければ幸いです。
よろしくお願いします。
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ペアガラスとトリプルガラスとではコールドドラフトの影響に差があり、高断熱・高気密ほど上下の温度差は小さいと思います(窓の配置や間取りも影響)。
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そうですね。
窓の大きさ
ガラス面がペア・トリプル
スペーサーが樹脂、アルミ
サッシの太さ
など、様々な面で熱の移動する量が変わるのだと思います。
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ただしこの温度差は空気の流れ(エアコンまたは全館空調吹出し口の配置)で軽減できそうです。故・鵜野日出男さんによると、断熱的に弱い窓に向かって水平に暖房の風を送る方法が快適のようです(該当記事)。窓の内外温度差が増えて熱損失は微妙に増えるかもしれませんが、冬も夏も快適になると思います。
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ですね。
寒冷地にお住まいで断熱・気密に詳しい施主の方々では、コールドドラフトが起こる窓下にパネルヒーターを設置するのをよく見聞きします。
エアコンならば断熱の弱い窓に向けて冷暖房する方が、温度ムラが少なくなるので快適性アップですよね。
我が家も窓に向けてではないのですが、エアコンの向きを変えてみようかと考えています。(玄関・階段方向)
夏場のエアコンの効き方を体感してからにしようと思うので、来年の冬にやってみようと思います。
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床の暖まり方がエアコンと全館空調で異なるなら、エアコンから離れた場所でどうなのかが気になるところです。今後の更新を楽しみにしておりますので、その際は個別記事やコメントなどもご自由に使っていただければ幸いです。
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まさしく記事に書いたところなのですが、エアコンから離れた場所(2階の床)は、やはりリビング床に比べると冷たいです。
エアコンの気流が直接当たらないのが大きな原因だと思います。
また詳しくは記事で書いてみます。
記事、コメントの引用、ありがとうございます。
大切に使わせて頂きます(^o^)/
個人的にエアコンは日本の家造りにおける革命だと思っています。
私が高気密高断熱住宅の唯一の欠点と思っているのは日本の様な温暖な国で高気密高断熱住宅を建てると夏の夜に無冷房で過ごすのは至難の業になると言う事です。
日中40度に迫る事が珍しくなくなり、夜中25度以下に下がる事が少なくなってきた日本の夏では、どんなに通風を良くした高気密高断熱の住宅を建てても、無冷房の場合、室温は30度に迫り、場合によっては超える事になります。高気密高断熱住宅は日中30度前後に上昇した室温をその高い性能によって保温してしまう為、25度以下にならない夜風だけで室温を冷やす事は出来ません。しかも、高気密高断熱住宅は温められた断熱材からゆっくりと熱が流入する関係で日中よりも夕方から夜にかけて室温が最高になる特徴があります。昔ながらの低気密低断熱住宅であれば日中の室温が40度を超えてしまう様な事がある代わりに、その低い性能によって夏の夜、室温は外気温の低下に素早く追従して低下し、何とか寝られる室温を期待できます。もちろん高気密高断熱であれば夏場の冷房効率も上がりますので冷房技術がある現代で住宅性能を求めるのは当然ですが。
そこで問題になるのは、エアコンは一体いつ頃ここまで普及したのかと言う事です。人類は原始人の頃から火という暖房技術を獲得していた一方で、人工的に涼を作り出す冷房技術は気化熱を利用した打ち水や冷風扇などを除けばヒートポンプが開発されたここ1世紀程度の話です。更にそれがエアコンという形で家庭の室温のコントロールにまで普及していくのはここ半世紀くらい、各部屋に一つずつ普及していくのはここ30年くらいでしょう。もしエアコンの無い時代に日本で高気密高断熱住宅を建てたら、夏の夜は寝苦しくて不眠症や熱中症の方が続出すると思います。
だからこその夏を旨とした日本の家造りだったと思います。冬は着込んで囲炉裏を囲めば何とかなるが、夏の暑さはどうしようも出来ない。つまり、徹底的に風通しをよくして冷えやすい家を造らなければならなかったのです。断熱材で覆って冷えにくくするなんてもってのほかだったでしょう。
また、エアコンの効果は冷房に留まりません。エアコンは電気抵抗を利用しない唯一の電気暖房器具で、その高効率性から唯一のメイン暖房となり得る電気暖房器具です。ヒーターは効率が悪過ぎてメイン暖房にはなり得ません。エアコン以外のメイン暖房器具と言えば灯油やガスによるストーブやファンヒーターが一般的ですが、これらは決定的な弱点として一酸化炭素中毒のリスクと結露のリスクがあります。燃料の燃焼によって大量の一酸化炭素と水蒸気を発生させるのです。
燃焼暖房による一酸化炭素と水蒸気は昔ながらの低気密低断熱住宅であれば、豊富な隙間から一酸化炭素は漏れ出すのでそれほど換気に気を使わずとも死活問題ではありませんでしたし、湿度はむしろ適正に保たれる事もあるほどです。一方で現代の高気密高断熱住宅となると話は別です。一酸化炭素は命に関わりますし、高湿度はカビを発生させます。カビについては低気密低断熱では壁内結露が問題になりますのでそれはまた別ですが。
それを回避する為に寒冷地では壁に穴を開けて閉鎖式のFF式ストーブを導入したり、煙突を建てて暖炉を導入したりして、一酸化炭素や水蒸気を外に逃して暖だけを利用しようとする訳ですが、全ての部屋に穴を開けて個別に導入する訳にもいかないので全館連続暖房が基本になりますし、それらの暖房機器は床置きで動かせない事も多いので、結果として年に2~3ヶ月しか使わず、個別間欠暖房が採用されやすい温暖地には不向きです。結果として温暖地の高気密高断熱住宅の暖房方法はエアコンが必要になってくる事になります。
非常に長くなってしまって恐縮ですが、結果としてまとめると、エアコン(ヒートポンプ)という技術が日本の住宅にもたらした影響は計り知れない物があると言う事です。エアコンの発明が夏を旨とした日本の家造りを変えて、日本でも高気密高断熱住宅を求める事を可能にしたと言っても良いのではないかと思います。
余談ですが住宅性能先進国であるドイツの最暖月は7月で、平均最高気温は25度程度だそうです。これは東京の8月の平均最低気温に相当します。日本で最も過ごしやすい4月から5月の気温がヨーロッパの夏です。夏のイメージそのものも日本人と欧州人では異なるはずです。近年の温暖化でやや変わってきてはいますが本来ならヨーロッパでは、ちょっと前までの北海道がそうであったように比較的暖かい南欧などでも夏にエアコンは必要ないのです。その代わりにヨーロッパの冬は日本より遥かに厳しい訳ですが、家造りにおいて基本的に冬の事だけを考えていれば良いヨーロッパと、夏は過酷で冬もまあまあ寒くなる日本とでは住宅の考え方が根底から違ってくるのが分かると思います。
重ね重ね長くなってしまって申し訳ありません。
コメントありがとうございます。
温暖地の高断熱住宅はエアコンと相性ピッタリですが、悪く言えば、たしかにエアコン冷房に依存しがちになりやすいですね。
高断熱住宅は自然温度差が大きい住宅です。自然温度差を可変にし、通風や日射をコントロールすることで極力エアコンを使わないことは不可能ではないと思いますが、エアコンを使えば簡単で、より快適になるので。
夏を旨とした日本の昔ながらの住宅と、エアコン利用の高断熱住宅とでは、住み方が一変するため、その違いを認識して慣れるまでに苦労する人も多いように思います。
住宅性能というと北欧やドイツが見本になりがちですが、日本の温暖地は別で考える必要があるという点も同意です。