必要暖房能力を求める2つの計算式の違いについて | さとるパパの住宅論

必要暖房能力を求める2つの計算式の違いについて

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エアコンなどの暖房器具を選ぶ際は、〇畳用といったあいまいな昔の基準に従うのではなく、断熱性能の違いなどを考慮し、必要暖房能力を考えたほうが、無駄なく省エネで快適な暮らしを実現できます。
この必要暖房能力の計算方法は特に定まっておらず、それぞれに特徴があるので、この違いについて取り上げてみたいと思います。

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2つの式の紹介

当サイトの暖房負荷から必要なエアコン能力(kW)を計算するツールでは、パッシブハウス・ジャパンの松尾和也先生が『ホントは安いエコハウス』p.69 で紹介していた次式を採用しています(①式とします)。

必要暖房能力 = {Q値+ (C値 / 10)} × その部屋の面積 × (設定室温 - その地域の年間最低温度)

一方、新住協代表理事の鎌田紀彦先生は、『本音のエコハウス』p.178 で、暖房設備容量の式として次式を紹介しています(②式とします)。

max=√(24/T) {qa × (ti-to)-E}

T:暖房時間(h)
qa:熱損失係数(W/K)(q×床面積)
ti:暖房設計室温(℃)
to:暖房設計用外気温(℃)
E:室内取得熱量(W)

この式は北海道工業大学の鈴木憲三先生が考案し、北海道で広く使われてきた式だそうです。暖房設備容量なのでエアコンはその一部ですが、本の説明ではエアコンにも適用されています。

2つの式の違いについて

この2つの式はQ値と床面積から計算している点は同じですが、細部にいくつかの違いがあります。この違いについて考えてみたいと思います。

C値を考慮するかどうか

①式では、C値の 1/10 相当をQ値と同様に考慮しています。毎時 0.5 回の換気分の熱損失が約 0.4 W/㎡K なので、毎時 0.1 回分の熱損失は約 0.1 W/㎡K です。自然換気量は C値 × 0.1 回/h くらいの割合で増えるので、C値/10 と計算しているのでしょう。

一方、②式ではC値を考慮していません。寒冷地ではC値が良いのが当然だからでしょうか。あるいは、C値が2を切るレベルでは第三種換気の場合の総換気量は変わらないので影響なし、と考えているのかもしれません。

①式は内外の圧力差がない第一種換気の場合によく当てはまるような気がします。また、C値があまりに悪いと冷気の侵入で暖房が効かなくなるので、意味がないとも思います(本でも指摘されています)。

この違いにより、①式のほうが熱損失が大きく見積もられ、必要暖房能力も大きくなりますが、高気密住宅では大きな影響はないでしょう。

外気温をどう設定するか

①式は年間最低気温を基準にしていますが、②式の「暖房設計用外気温」というのは最低気温とは異なるようです。というのも、本の中で東京の温度が3.9℃とされているからです。これは東京の冬の平均的な最低気温くらいでしょう。東京も氷点下になるので、年間最低気温より 5℃くらい高く評価されることになりそうです。

この違いは大きな差を生み、この点では②式のほうが必要暖房能力は小さくなります。

暖房時間をどう見るか

①式は連続運転を前提としているため、暖房時間の係数はありません。

一方、②式では、√(24/T) という係数により、やや間欠的な暖房運転も考慮しています。24時間暖房する場合の係数は 1 ですが、18時間暖房の場合には √(24/18) = 1.15 (※)というように、より大きな必要容量が算出されることになります。鎌田先生は東京などで夜間は暖房を切ることを想定しているため、立ち上がりにより強い能力を考慮する必要があるのでしょう。

※ 本ではなぜか 1.23 という数値が挙げられていますが、単純ミスと思われます。

以前、どこかで「間欠暖房の場合には 1.7 を乗ずる」という式を見かけた気がするのですが、これはこの式でいう 8 時間運転に相当します。温暖地の一般的な使い方はこの程度のような気もします。参考までに、HEAT20 などは温暖地では LDK で平日 14 時間運転を想定していますが、ここまで使う家庭が本当に標準的なのかはやや疑問です。

室内取得熱を考慮するか

もう一つ大きな違いは、室内取得熱を考慮するかどうかです。①式では、実際にはそういう熱で暖房負荷を軽減できるものの、余裕分として見るということで、式では考慮されず、省略されています。

一方、鎌田先生の本の説明を見ると、②式の室内取得熱は熱損失の30%にもなるそうです。その多くは日射取得熱でしょうが、日射熱は昼頃がピークであるのに対し、一番暖房負荷が高いのは明け方なので、結構な時間差があります。日射熱は天気が悪くても期待できないため、最大暖房負荷を計算する際はもう少し余裕をとったほうがよいのではないかという気もします。

鎌田先生は温暖地では夜間に暖房を切ることを想定しています。これは、多少の朝の寒さや温度差を許容するということでもあります。それでもQ1.0住宅で従来の戸建て住宅より寒さがマシになるのは明らかですが、個人的には深夜や明け方にも設定温度を低めにした暖房を行ったほうが快適でよいのではないかと思っています(わが家よりもう少し高断熱にして蓄熱を重視した設計にするとそうは思わないのかもしれませんが)。また、夜に暖房を切るというのは、鎌田先生が、極寒期に能力が落ちるエアコンよりもFF式ストーブなどによる暖房のほうが向いていると考えていることも影響しているかもしれません。

そんなわけで、私としては、温暖地で第一種熱交換換気を採用してエアコンなどのヒートポンプで暖房を行う高断熱住宅の場合には、①式のほうが向いているのかな、と考えています。ただ、暖房時間の考慮の仕方は参考になるので、そのうち「暖房負荷から必要なエアコン能力(kW)を計算するツール」にも組み込もうかと思っています。

追記:
間欠運転を考慮したエアコン選定式について以下記事内で計算できるようにしました。
省エネ基準を満たす住宅のエアコンは間欠運転でも2サイズ小さくてよい?

また、本のなかで、西日本でも床下エアコン暖房で大寒波に対応できなかったときがあったので、温暖地でも FF ストーブのほうがエアコンより信頼できるという内容(p.203)がありましたが、いま思うと、室内取得熱を多めに評価したり、最低気温を甘く見ているせいでエアコンの能力が不足していたのではないか、という疑問が残ります。FF ストーブでも計算条件は同じであり、エアコンは低温時の能力が落ちるという面も確かにありますが、①式で計算していればエアコンでも能力不足にはならなかったのではないか、と。

さらに追記:
松尾先生の最新刊『エコハウス超入門 84の法則ですぐ分かる』ではさらに新しい算定式が紹介されているようです。私は未読ですが、気になる方はご確認ください。

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