Q 値から暖房費を推計してみた結果(月暖房費、ピーク暖房負荷)が想像以上に実際と近かったので、とある冬の一日に、日射熱取得によってどれだけ暖房費が安くなったのかを推定してみました。
結果だけ知りたい方は、最後のセクションだけお読みください。
方法
日射熱取得が期待できる日中の 3 時間において、22 度の室温をキープした状態で予想される電気使用量と、実際に消費された電気使用量とを比較し、日射熱取得の効果を推定しました。
また、日射量や窓ガラスのタイプ、面積からも日射熱取得量を算出してみました。
条件と結果
室温:22 ℃
外気温:10 ℃(3 時間の平均)
天気:晴天
エアコン暖房能力計算ツールに上記とわが家の断熱・面積条件を入力したところ、必要暖房能力=熱損失は 3.2 kW となりました。
日中は家電などの内部発熱もあるので、概算でこれを 0.3 kW として引くと、必要暖房能力は 2.9 kW になります。
エアコンの効率を考慮し、COP = 4.26 で割ると、推定される暖房の消費電力は次のようになります。
2.9 [kW] ÷ 4.26 x 3 [hr] = 2.0 [kWh]
この計算により、日射熱取得がゼロの場合、日中 3 時間の暖房に 2.0 kWh の電気が必要になることがわかります。参考までに、内部発熱と日射熱取得が少ない早朝にこの理論値を検証した結果の誤差は 1 割程度でした。
暖房で実際にかかった電気使用量は、わが家の場合、電力メーターをチェックするだけで検証できます。計算が正しければ、これと比較した差分が、日射熱取得によって削減できた電気ということになります。
さて、スマートメーターで 3 時間の実際の電気使用量を確認したところ、たったの 0.3 kWh でした。おそらく換気のみの消費電力です(熱交換換気のため、ここでは暖房費と見なします)。室温は常に 22 度だったので、日中は無暖房で室温を維持できていたようです。
日射熱取得によって 3 時間で節約できた電気は、2.0 – 0.3 = 1.7 [kWh] です。わが家の場合は 36 円くらいに相当します。一日あたりの暖房の電気使用量は約 26 [kWh] なので、1 割にも届きません。今回、測定時間が短いことや、曇りや雨の日があることを考慮すると、1 カ月あたりの節約額は千円くらいではないでしょうか。
ちなみにこの計算から推測される日射熱取得量は、ワットに換算すると次のようになります。
1.7 [kWh] ÷ 3 [h] × 4.26(COP)= 2.4 [kW] ・・・①
この日射熱取得量は、地域や住宅の条件によって大きく異なります。わが家の日射条件は以下のとおりです。
日照条件
地域条件:関東南部(省エネ基準6地域)、暖房期日射地域区分H4(5段階中、日射が多め)※
南面の窓面積:6.7 ㎡(ガラス面のみ)
窓ガラスの日射熱取得率:0.40
その他:通常はレースのカーテンを閉めていますが、わかりやすい結果が出るように今回は開放しました。
※これらの地域区分については、こちらの PDF で全市町村の区分を確認できます。
日射熱からの計算による検証
先ほどは暖房消費電力と熱損失の観点から日射熱取得量を推定しましたが、侵入する日射熱量の計算からも今回の結果を検証してみます。
冬の南面の窓ガラスに射す日射熱を 0.7 kW/㎡ ※とすると、わが家の南面から取得できる日射熱量 Q は次のようになります。
Q = 0.7 [kW/㎡] x 6.7 [㎡] x 0.40(日射熱取得率)= 1.9 [kW]
① の 2.4 [kW] と比べると 2 割ほど少ないですが、実際は南面以外の窓からの日射熱取得もあるので、妥当なところではないでしょうか。
※日射量の計算は複雑ですが、東京の冬至における南面の晴天時日射量の計算値(参考 PDF、p.9 の図7)を参考に決めました。追記:『エコハウスのウソ 増補改訂版』P.214 の図を見ると 0.6 kW/㎡ 程度かもしれません。
結果から考えたこと
わが家は南北に長い形状でツーバイシックス工法のため南面の窓は特に多くありませんが、それでも冬の日中には暖房がいらないほどの日射熱が得られていることがわかりました。これは思っていたよりも大きな効果でした。
もし、南面の Low-E ガラスを日射遮熱型ではなく日射取得型にしていたら、日射取得率が 0.64 と 1.6 倍になるので、この日射熱取得量も 1.6 倍になります。レースのカーテンで多少は調整できますが、それでも日中は無暖房で室温が上がっていたことが推測されます。私としては昼にちょっと温度が高くなるのは構わないので日射取得型にすればよかったと少し後悔していますが、これは好き嫌いがありそうです。
温暖地で日射熱取得を重視すると、暖房費は安くできますが、冬でも日中の暑さが問題になる可能性があることがわかります。断熱性能が非常に高い住宅では熱損失が少ないので、特に注意が必要でしょう(参考:冬に日射熱でオーバーヒートしないかチェックする方法)。
また、日射熱による恩恵を受けているといっても、暖房費の節減効果に関しては、月千円程度と、それほど大きな額ではありませんでした。もともと温度差が小さく暖房負荷が少ない昼間の時間帯に暖房がいらなくなるだけで、冷え込む夜間にまで日射熱の恩恵を受けることができないからでしょう。
蓄熱を利用すれば日射熱の恩恵を長時間にわたって受けることができます。ただし木造住宅は熱容量が少なく蓄熱が期待できないので、基礎断熱にしてコンクリートの熱容量を活用する程度しか方法はないかもしれません。窓辺に水を入れた黒色のポリタンクや巨大な岩を置いておけばよいかもしれませんが、そんな奇抜なことはさすがに勧められません。
今回の結果からは、「日射熱利用によって暖房費を大幅に減らすことは難しい」という思いが強くなりました。
最後に
わが家の設計時にはこのような知識がなく、窓ガラスの量やタイプをどうするかなどは勘で決めるしかありませんでしたが、こうしてみると、計算でわかることも意外と多いことがわかりました。ちょっと難しい内容になってしまったかもしれませんが、一例として参考になれば幸いです。
(参考)追加実験
別の日に、10 ~ 15 時の 5 時間でレースのカーテンを閉めて同じ計算を行ってみました。
その結果、浮いた消費電力が合計 3.0 kWh、推定日射取得量が平均 2.6 kW となりました。カーテンを閉め、時間幅を長くした分、時間あたりの日射取得量は減るかと思いましたが、微増という結果になりました。最初の実験日より日射が強かったのか、実験の誤差なのか、あるいは実際は日陰の室温が微妙に下がっていたのかは、不明です。
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