「大震災で全壊している住宅はシロアリ被害を受けている住宅が多い」、「〇〇でもシロアリに食われる」、「ほとんどの木造住宅でシロアリ被害が発生している」、などという話を聞くと、わが家のシロアリ対策は大丈夫だろうかと不安になります。今は大丈夫でも、数十年後までは持たないのではないか、と。
しかし、シロアリ駆除業者や、徹底対策していることを宣伝したい住宅会社などは、商売なのでリスクを大袈裟に喧伝している可能性もあります。そこで、実際の被害状況はどうなのか、CiNii でタダで読める論文を中心に調べてみました。
シロアリの被害状況について
最近の被害状況については、以下の PDF によくまとめられていました。
大村和香子:木材害虫の最近の被害傾向と新たな対策, 木材保存, 44(3), 180-183, 2018
気になったポイントは以下のとおりです。
- アメリカカンザイシロアリなども増えているが、国内におけるシロアリ被害の9割以上は在来のイエシロアリとヤマトシロアリによる
- 基礎外断熱工法での被害事例が多数報告されている(食害を受けない硬い断熱材でも、断熱材と基礎の間から侵入されたりする)
- ベタ基礎でも、わずかな割れ目や配管の隙間などから侵入されることがある。
ちなみにベタ基礎とは近年の木造住宅の 9 割ほどで採用されている基礎工法で、シロアリに強いとされています。発生は少ないでしょうが、必ずしも十分ではないということでしょう。
シロアリ被害と耐震性の関係については、熊本地震までの経験がまとめられている以下の PDF が参考になりました。
森拓郎:<総説>地震被害にみる木造住宅を長持ちさせる技術, 生存圏研究,13, 19-26, 2017
気になったポイントは以下のとおりです。
- 生物劣化(腐朽菌やシロアリによる被害)は土台あたりで最も多くみられる
- 熊本地震で調査した範囲では、2000年以降の比較的新しい木造住宅に生物劣化による被害は発見されず、防腐防蟻の処理が適切に施されていることが確認できた
- 被害があると耐力性能が低下するが、土台が健全であれば交換によって回復できる
- 屋根からの雨漏り、ベランダからの雨水侵入、窓の結露の対応、床下調査などで予防・軽減できる
シロアリ被害と対策について思うこと
上記のほかにもいろいろ調べてみたところ、シロアリ対策にはさまざまな方法(基礎工法、薬剤、木材処理など)がありますが、いくら調べても被害を完全に防ぐ単一の方法は見つかりません。どれも穴があることが指摘されています。
これさえすれば大丈夫という方法がない以上、コストのバランスを見ながらツボを押さえた対策を複数組み合わせ、万一侵入された場合に被害を抑える対策までを考えるのが筋でしょう。
サイバーセキュリティにおける多層防御の考え方とよく似ています。
シロアリ対策として特に重要なのは以下の 3 つで、これらのすべてに注意を払ってさえいれば、それほど恐れる必要はないように思います。
- 土壌からの侵入経路を断つこと
- 定期的なメンテナンスを怠らないこと
- 木材の含水率を低く維持すること
1 の侵入経路については、ベタ基礎や基礎パッキンが普及した近年の住宅のほとんどは、シロアリの潜む土からの侵入を物理的に防ぎやすくなっています(ただし基礎外断熱工法は対策が困難)。
被害が見られるのは主に、ちょっとした隙間から侵入を許すケースです。近年のシロアリ被害は玄関や勝手口などが多いそうですが、これらは建築業者の施工上の注意が足りないことが問題と思われます。
2 のメンテナンスについては、まず大切なのは、床下などを点検できる構造にしておくことです。長期優良住宅では、床下・小屋裏に点検口を設置することと、床下空間の有効高さ 330mm を確保することが基準となっています。
また、住人の対応も大切です。以下などの対応で、被害はかなり予防・軽減できるでしょう。
- 基礎まわりに物を置かない
- ヒビや蟻道に注意を払う
- 定期的に床下の点検や防蟻処理を行う
- ベランダ・屋根・外壁の防水メンテナンスを欠かさない
- 天井の水染みやブカブカの木材、虫のフン、羽アリなどを見つけたときに放置しない
3 の木材乾燥については、ヤマトシロアリであっても乾燥木材でも被害を受けるので、シロアリを防ぐことにはならないという人もいます。ただ、広い意味で腐朽菌を含めた生物劣化対策として考えると、木材の乾燥状態を保つ必要があることに疑いはありません。生物劣化は古い住宅を中心に実際に起きていることなので、配慮は必要でしょう。
この問題について詳しくは以下の記事をご覧ください。
・木造住宅の耐久性を決める主要因は何か?
・壁内部結露計算でわかること・わからないこと
・やっすい木材水分計を買って遊んでみた
三井ホームのシロアリ対策は問題ないか?
わが家を建てた三井ホーム(ツーバイフォー)のシロアリ対策は、こちらの Web ページにまとまっています。ベタ基礎を採用し、基礎断熱は採用していません。玄関や配管にも注意を払っており、被害を受けやすい土台の木材には薬剤が加圧注入されています。
しかしながら、徹底したシロアリ対策を売りとしているハウスメーカーなどと比べてみると、不十分ではないかと心配になります。一般的に行われている「基礎から 1 m までの薬剤処理」だけでなく、1 階などの構造部材を全部 ACQ 加圧注入材にするべきではないかとか、パイプを埋設して薬剤を散布したほうがよいのでは、とか。
少し気になるのは、三井ホームの Web サイトから、2006 年以降シロアリ被害ゼロという記述がいつの間にか消えていたことです。ひょっとしたら、2005 年以前や近年には被害が発生したのかもしれません。
それでも、一般にシロアリ被害は築年数が浅くても受けることがあるというのに、2006 年から 2016 年頃までは被害ゼロだったわけです。年間 3 千棟ほど建てていることを考えると、被害が発生する確率は極めて低いでしょう。輸入家具にシロアリが潜んでいることだってあるし、乾材シロアリが飛んでくる可能性もあるし、メンテナンスをきちんとしていない住人もいる、ということまで考えると、十分な結果に思えます。
前述のとおり、シロアリに油断は大敵ですが、基本的な対策を行っていれば、それほど恐ろしいものでもありません。三井ホームのシロアリ対策は妥当なところではないでしょうか。
予防的な防蟻施工は必要か?
ほとんどの住宅会社では、どれだけ住宅仕様で対策していたとしても、5 年または 10 年ごとの防蟻処理が推奨されています。それなりに費用がかかる(2千円/㎡前後)ため、やっていない施主もいて、それで被害が出ていない住宅もあります。地中生物環境のために薬品をむやみに使うべきではないという人もいます。やらなくても他の対策をしっかり行っていれば問題ないかもしれませんが、もし被害が発生した場合の保証はなくなってしまいます。多層防御の一環としてリスクを減らす効果は期待できるので、わが家ではきちんと受けていくつもりです。
シロアリ対策の業者はいろいろありますが、専門知識が要求されるため、一般に、公益社団法人日本しろあり対策協会の登録業者が良いと言われています。しろあり協会は、シロアリ防除施工の標準仕様書を定めている団体で、住宅金融支援機構の仕様書にも規定されている歴史ある団体です。サイトの会員名簿で施工業者をリストから探すこともできますし、協会指定工法の業者を紹介する以下のようなサービスもあるようです(紹介料がかかると思われるのに低価格な点が少し気がかりですが)。
わが家でも、時が来たらいろいろ検討し、報告したいと思います。
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