トリプルガラスでは温度差が気にならない住宅が多い印象ですが、ペアガラスの住宅では、APW330 などの高性能ペアガラスを使っていても、家の上下や部屋間で多少の温度差が発生しがちです。これらの温度差は、断熱仕様を変えなくても、さまざまな工夫によって小さくすることができます。
ここではその方法について考えてみたいと思います。
(冷)暖房は連続運転にする
高断熱住宅であっても、暖房を切ってしまえば家中の温度が下がります。下がってから暖房を付けても全体が暖まるまでには時間がかかるので、その間は温度差が生じてしまいます。家中の温度差を小さくするためには、エアコンなどの連続運転は欠かせません。床が冷たいままだと体感温度の低下にも大きく影響するので、冬は特に連続運転に大きなメリットがあるでしょう。
エアコン 1 台にこだわらない
「エアコン 1 台で全館暖房できる住宅」というのは広告としては魅力的ですが、Q 値が 1 を切るような超高断熱住宅のケースを除き、あまりメリットはないのではないかと思います。温度差はエアコンから物理的に遠いほど発生しやすいので、複数台あったほうが温度差は小さくできるはずです。また、エアコンを複数台にすると、一般に大型エアコンより効率の高い小さなエアコンを使用できたり、1 台故障した時の保険にできるというメリットもあります。
エアコンを 1 台にする場合には、1F に付けるか、 2F に付けるかという問題もあります。冷気は下に、暖気は上に移動するので、夏と冬のどちらにも 1 箇所のエアコンで対応することにはやや困難が生じるかもしれません。40坪程度までの住宅で、全部屋に隣接する吹き抜け空間があれば可能でしょうが、そういう間取りは限定されます。
なお、エアコンは最小の 6 畳用クラスでも、冷房 2.2 kW、暖房 2.5 kW ほどの能力があります。以下のページで計算できる必要暖房能力は高断熱住宅ではそれほど大きくないので、リビング以外の広くない居室にエアコンを設置すると効きすぎてしまうこともあり、設置場所に注意が必要です(必要冷房能力は日射遮蔽の徹底度しだいです)。過剰な能力のエアコンは、効率低下の原因にもなります。
追記:さまざまな住宅ブログを読んでいると、暖房はともかく冷房を家中に効かせるのが難しいという話をよく見かけます。そのため、家の大きさにもよりますが、1F に家中を暖められる能力のエアコンを 1 台設置し、2F は各居室に隣接する空間に小さいエアコンを 1 台設置するのがいいのかなと思っています。
開放的な間取りにする
エアコンを個別間欠運転する場合は室内ドアを閉めて閉鎖的にしたほうが冷暖房が効きますが、家中を冷暖房する場合はその真逆です。開放的な間取りのほうが室内の空気が移動しやすく、効率的に冷暖房を効かせることができます。
吹き抜け
開放的な間取りといってまず思いつくのは吹き抜けですが、ただあれば良いというものではなく、2F の各部屋まで空間的につながっていないとあまり意味がないでしょう。
個人的には、吹き抜けは必ず必要なものではないと思います。なぜなら、2 階建ての家ならばどこでも、階段という吹き抜け空間があるからです。たとえば暖房を 1F に付けた場合、暖かい空気は上に行くので、階段経由だけでも 2F はそれなりに暖かくなるのではないかと思います(間取りにもよりますが)。吹き抜けがあったとしても、2F が 1F より暑くなってしまうこともあるので、バランスが重要です。各階にエアコンを設置して運用する場合、吹き抜けがなくてもそれほど不便はないのではないでしょうか。
ペアガラスで全館暖房を行っている方を対象にしたアンケートでも、2F の部屋につながる吹き抜けがあるケースは 1 件のみでした。
リビング階段
階段という吹き抜け空間を利用するならば、階段の位置は角より中央寄りが適しており、エアコンは階段付近に設置したほうがよいと思われます。しかし、せまい階段付近や廊下、玄関などにエアコンという突起物があると、多少なり違和感があるかもしれません。これを違和感なく溶け込ますには、リビング階段の間取りが適しているように思います。
個室の工夫
エアコン数台で全館冷暖房を行う場合に悩ましいのが、エアコンを付けるのも微妙な大きさの個室の対応です。個室の室内ドアには換気のためのアンダーカットがあることが多いですが、これだけでは不十分でしょう。ドアを開けっぱなしにすれば温度差は小さくできますが、プライバシーや音の問題もあります。
そこで考えられる温度差対策は、個室の熱損失(および熱取得)を小さくすることと、CF(循環ファン)を設置することです。これらについてはそれぞれ後述します。
ちなみに換気方式は熱交換型換気のほうが有利ですが、換気の空気の寒さがちょっとマシになるかどうかという程度なので、室内ドアを閉める場合、これだけで十分というものではありません。
送風設備で室内の空気循環を促進する
自然の空気循環だけでは不十分なことが多いので、ファンで強制的に空気を動かすと効果的です。
シーリングファン
1F と 2F とで温度差が発生する場合、吹き抜けや階段の上にシーリングファンがあると、温度差を小さくすることができます。
壁付けのサーキュレーターというものもあります。
CF(循環ファン)
CF(循環ファン)では、個室の壁上部などにパイプファンを設置し、居室に向けて強制的に空気を送るようにすることにより、室内の空気を均質化することができます。閉め切った個室の温度と湿度を均質化できるので、高断熱住宅でエアコンを付けるのも過剰になる個室で使用すると、小さいエアコンのような役割を果たすことができます。ただし気流が発生するので、どちらかというと冷房向きで、暖房の場合の使用感はよくわかりません。
CF(循環ファン)については以前、風呂場での使用例を紹介しましたが、緑の家では以下のブログ記事で紹介されているように個室でも多数採用しているようです。
以下は製品の一例です。
サーキュレーター
家に組み込まなくても使えるので、わが家では浴室や洗濯物の乾燥に活用しています。扇風機よりも場所を取らず、効率的に空気を動かすことができます。
ただし、地面に置くとファンにホコリが付きやすい、足元で本体とコードがジャマになる、風量を強くすると音がうるさい、という欠点もあります。部屋間で常用したい箇所には CF(循環ファン)をあらかじめ設置するほうがお勧めです。
断熱の弱点を減らす
家の中でも、熱損失が発生するのは外皮(窓、玄関ドア、壁、床、天井または屋根など)です。これらに接する面積が大きい角部屋や、冷暖房機から距離がある脱衣所などは、温度差は大きくなりがちです。
一番影響が大きいのは窓です。例えば UA 値(外皮平均熱貫流率)が 0.5 の住宅の場合、Uw 値(窓の熱貫流率) 1.5 の窓は同面積で平均より 3 倍の熱損失が発生することを意味します。このように、ペアガラスは壁よりはだいぶ熱を通しやすいので、このような部屋の窓はなしとするか、小面積にしたほうが部屋の温度差は小さくなるでしょう。
採光の窓は大きすぎると逆に室内が暗く感じられることになるので、大きければ良いものではありません。また、小さい閉鎖的な部屋は日射熱の影響も受けやすいので、方位別の注意も必要です。
あえて温度差をつくる
今回のテーマと正反対ですが、これは寝室についての話です。快適な寝室の温度について調べると、多少の誤差はありますが、だいたい、夏は 26~28℃、冬は 16~20℃ とされています。夏はともかく、冬は全館暖房の設定温度よりも若干低いのではないでしょうか。
暑さ寒さには個人差があるので微妙ですが、全館空調のわが家の場合、起きているときの冬の室温は 22~23 ℃が快適です。しかし、この温度のまま寝ると、羽毛合い掛け布団でちょっと暑く感じます。そこでわが家では、寝る前に設定温度を 1~2℃ 下げています。これで快適に眠ることはできますが、朝方に温度を戻すとエアコン(全館空調)の負荷が一時的に高まります(参考:「全館暖房の時間帯別電気使用量」)。トータルの熱収支で見ると省エネかもしれませんが、エアコンの効率的な運用方法ではありません。
エアコン複数台で全館暖房して寝室の温度を下げる場合、家中の温度を下げる必要はありません。方法としては、寝室付近のエアコンの設定温度を下げる方法と、上記と逆の方法により寝室だけ温度が低くなるようにする方法(窓を大きくする、エアコンと距離を置くなど)が考えられます。住み方やエアコン能力の余裕などによって最適解は異なりそうですが、このように、あえて温度差をつくるというのも一考の価値があるのではないでしょうか。
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