家づくりにおけるリスクと各種住宅基準について | さとるパパの住宅論

家づくりにおけるリスクと各種住宅基準について

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家づくりでは、さまざまなリスクを考える必要があります。地震被害のリスク、施工不良のリスク、劣化のリスク、火事のリスク、健康被害のリスクなどです。

これらのリスクを限りなくゼロに近づけようとすれば素晴らしい住宅が出来ると思うかもしれませんが、そのためには膨大な費用が必要になります。お金をかけて完璧に近い住宅を建てたとしても、視野を広げれば、転勤・近所トラブル・自然災害等で住めなくなるリスクや、住宅ローンを支払えなくなるリスクもあり、家づくりにお金をかけすぎることで増大するリスクもあります。

このように家づくりは不確実性を伴うものなので、リスクマネジメント(Wikipedia)の考え方が役立ちます。リスクを特定し、それぞれのリスクを分析・評価することによって、不測の損害を最小の費用で効果的に処理することができます。問題が発生する確率と予想される損害を推計し、その積である期待値と、その対策をとった場合にかかるコストを比較したりします。ただし、発生確率は極めて低いものの、発生すると巨大な損害をもたらすリスク(テールリスク?、ブラックスワン・イベント?)もあり、その可能性や、対策としての保険も考慮する必要があります。

また、リスクの評価は簡単なことではありません。2019年にベストセラー第 1 位となった本、ハンス・ロリング著『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』に書かれているように、人間にはさまざまな思い込みのバイアスがあるからです。問題に対して合理的に立ち向かうためには、事実を知り、それに基づいて行動する必要があります。特定のリスクを過大評価して過剰対応を取った結果、その他のリスクが増大した事例は、振り返ればいくらでも見つかります。

家づくりにおけるさまざまなリスクを適正に評価するためには、思い込みを排し、さまざまなリスクについての事実を把握する必要があるわけです。しかし、この多岐にわたるリスクについて正確な知識を身に付けることは、私はもちろん、たとえいくら優秀な建築士がいたとしても困難なことです。個々の建築の専門家が持っている知識の幅と深さには限りがあります。COVID-19 をめぐる騒動で、専門家であるはずの医師の意見が分かれているように、住宅の専門家でも意見はさまざまです。

ただ、いくら意見が分かれているからといっても、専門家に共通する認識はあるし、なにが正しいかを判断するうえで参考になるものはあります。私が最も頼りになると思うのは、公的機関や専門家集団による情報・基準です。このような組織からは、ここまで対策しておけば概ね問題ないだろうという基準が公表されていることがあります。

役所などで第一線の専門家が集まって議論を重ねた結果として公表される情報は、重みが違います。間違った情報があれば、それを公表した組織や専門家の責任問題になるからです。それこそが、事実に基づく正確かつ重要な情報だと思います。住宅会社から発信される情報は、いくら詳しくても広告でもあるために評価が難しい情報が多いし、当サイトのようなブログ情報も信頼性に欠けます。

COVID-19 の例でいうならば、厚生労働省や国立感染症研究所、WHO、米国 CDC が発表している情報は、センセーショナルな話題を取り上げがちなテレビ情報やネットニュースよりもよほど役立ちます。

住宅関係では、IBEC の情報や、建築基準法はもちろん、耐震等級や長期優良住宅、住宅性能表示制度などの評価基準には重みがあります。

ただ注意が必要なのは、家づくりにおいて、「公的基準をクリアしていれば問題ない」という保証はないことです。公的情報は信頼でき、その基準は尊重すべきですが、問題点もあります。公的基準には、以下の特徴があります。

  • 適合しているかどうかのチェックにコストがかかるため、簡略化されていたり、見逃しがある
  • 新技術や例外的技術の対応に時間がかかる
  • 規制基準と推奨基準は異なる
  • 政治の影響を受ける

基準だけで完璧と思わず、疑ってかかる慎重な姿勢も必要です。最後の項目について補足すると、いくら公的機関に専門知識が集結していても、行政機関はあくまで、政治で決めたことを推進するだけの組織です。役人は議員には逆らえません。

政治では、専門家だけでなく業界の声や市民の声も反映し、専門家よりも大局的な立場で判断を行う必要があります。たとえば COVID-19 でイベント自粛や学校の休校を決めるとなると、COVID-19 の感染者や直接的な被害を抑えるメリットはありますが、一方で、自粛による影響で仕事を失ったり、医療従事者を含む親が出勤できなくなるリスクも発生します。経済と命は別問題ではないため、単に命の問題と捉えてもコトは単純ではないし、何をするにしても利益を受ける人と被害を受ける人が発生します。これは医学の専門家だけでも判断できない難しい決断になるため、政治家が全体のメリット・デメリットを考慮し、できるだけ事実に基づいて妥当な判断を行うことが望まれます。

この政治的決断は、良くも悪くも市民感情やバイアスの影響を受ける面があります。マスクの高額転売を禁止すれば、「危機に乗じて金儲けしやがって」という市民の怒りは抑えられるかもしれませんが、その策だけではマスクを真に必要としているハイリスクな医療従事者までもがマスクを入手できなくなるリスクが高まります。忙しい医療従事者はドラッグストアに開店前から並ぶことなどできないのに。

住宅についての話に戻します。

耐震等級に関しては、耐震等級3の家が問題ないという保証はありません。地盤に問題がないか、劣化やシロアリの対策が十分かなどを考えれば、難癖はいくらでも付けられます。耐震性に関しては、こうすれば確実に安全という単純な事象ではないため、厳密にいえば一概には言えないことばかりです。それでも、耐震等級3 の住宅が耐震等級1 の住宅よりも倒壊しにくく被害が少ない傾向があることは事実でしょう。耐震等級にしても建築基準法にしても、本質的に重要な点を反映するよう、専門家が議論を重ねて改正し続けているものであり、公的な評価を受けるかどうかは別として、重要な基準だと思います。

住宅の断熱性能に関しては、低いと言われることの多い次世代省エネ基準の 2020 年の義務化が見送られています。この原因は、この基準に満たない住宅を建てることを良しとする人たちが住宅業界にはまだ多数いて、そこへの政治的配慮が必要だったからでしょう。そういう業界人にとって、「Q 値 1.6 以下、C 値 1.0 以下の住宅を建てるべき」などという当サイトのような存在は、ただただ煙たいものでしょう。「素人が口出しするな」、「家づくりには住宅の指標なんかより大事なことがいくらでもある」という声もあります。

しかし、私が日本にある多数の住宅会社を比較検討してみた結果(もちろん主観も入ります)としては、「低燃費で寒さに悩まされない長持ちする住宅」を建てている住宅会社において、Q値(UA値)とC値を軽視している会社の存在は見つけることができませんでした。

そのため、家づくりが住宅指標だけでないことは当然として、高断熱・高気密であることは、良い家づくりの前提条件だと思うようになったわけです。住宅の指標や基準を重視することと、総合的に優れた家づくりは何ら矛盾するものではなく、両立できることです。

そんなわけで、次世代省エネ基準の義務化は政治的に見送られる結果になったものの、消費者にとって本当に良い住宅は、次世代省エネ基準を上回る住宅だと思っています。そして、その望ましい住宅の断熱性能の水準は、多数の専門家によって構成される HEAT20(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会)で示されているとおりです。

そもそも HEAT20 という団体が生まれたのは、「国の省エネ基準が十分でない」と考える住宅の専門家が多かったからでしょう。この HEAT20 が示す、「省エネ」(≒低燃費)と「室内環境の質の向上」を両立できる住宅こそ、多くの消費者が住宅に望むものなのではないでしょうか。問題は、その HEAT20 で示される推奨水準(G1 ~ G3)の範囲内でどのレベルを目指すか、くらいだと思っています。

参考 HEAT20 G1・G2・G3の各基準について思うこととR-2000住宅

なお、国の基準には ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス、「ゼッチ」) というものもあります。これもある観点からは信頼できますが、その評価基準は「年間一次エネルギー消費量」です。年間一次エネルギー消費量の収支に優れる住宅こそが消費者にとって本当に良い住宅かというと、そこにはちょっとズレがあり、それが ZEH 普及が遅れている原因なのかなと感じています。

コメント

  1. ヤス より:

    こんにちは。
    いつもブログ拝見してます。
    窓について質問です。
    我が家の窓はリクシルサーモスLです。
    アルミ樹脂複合サッシは結露が起こりやすいので家が腐り長持ちしないなどの意見を見ることがあり、不安になることが多々あります。
    これは高気密高断熱ハウスメーカーのセールストークなのでは?と思うこともありますが、さとるパパさんはどのようにお考えでしょうか?

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