床の断熱方式には、大きく分けて床断熱と基礎断熱の 2 種類があります。このうち基礎断熱は、年中安定している地熱を利用できるため、夏は涼しく冬は暖かい、冷暖房費がかからずにエコだと宣伝されているのをよく見かけます。ここでは、地熱利用の宣伝されている効果が本当なのかについて考えてみたいと思います。
※この記事は温暖地を前提としています。
床断熱と基礎断熱
床断熱と基礎断熱の大まかな違いを示したのが、以下のテキトーな図です。オレンジ色が断熱材、灰色がコンクリートです。
床断熱では生活空間がすっぽり断熱材で囲まれていて、床下空間は室外扱い。外気が通じています。
一方の基礎断熱では、床面に断熱材がなく、床下空間までが室内環境のような扱いになります。
基礎断熱を採用している会社に言わせれば、床断熱は床下に冷たい風が通るので床が寒く、基礎断熱は地熱を利用できるので床がポカポカだとのことですが、果たして本当にそうでしょうか。
地熱の温度は暖かい?
まず地熱の温度について考えてみます。地熱は地下深くでは、年平均気温程度(15℃とか)に近いと言われています。外気温と比べると夏は低く、冬は低い温度です。
さて、床の温度が 15℃だとすると、その床は暖かいといえるでしょうか?
住んでいる家によっては暖かいと思うかもしれませんが、冬に床温度が 20℃を切ることがない家に住んでいる私からすると、とても寒いと思います。その私の家は床断熱であり、床暖房もありません。
つまり、「床断熱だと床下に冷たい空気が流れているから床が寒い」というのは、ウソです。住宅にある程度の気密性があり、高断熱の窓を採用し、床にそれなりに断熱材が入っていれば、暖房をうまく活用していれば、床断熱でも床は寒くなりません。
基礎断熱の床は寒い?
しかし私は、基礎断熱の住宅会社の床が寒いというつもりもありません。基礎断熱の住宅の床温度が 15℃になるわけではないからです。地熱利用住宅といっても、多くの場合は断熱材を多用し、暖房を併用しています。もし、これに反して暖房を全く使用しないとすれば、快適な住宅は実現せず、クレームが出るでしょう。
鎌田先生の本『本音のエコハウス』によると、基礎断熱の住宅は床断熱住宅より床表面温度が 1~2℃下がるそうです。つまり、一般的な暖房の使用法だと、基礎断熱の床のほうが寒くなる傾向はあります。
ただし、上の図でもわかるように、基礎断熱では床下空間も温熱的に室内と同じ空間です。このため、床下空間にエアコン等の暖房を設置して床を暖かくする暖房方式を選択することができます。床断熱でも床暖房は採用できますが、床下空間を利用する方式は採用できません。
要は、どちらにしても暖房は必要だし、床を暖かくすることは可能です。
暖房費用はどっちが安い?
気になるのは、どちらのほうが暖房費が安くなるのか、です。床断熱では床面から熱が逃げますが、外気の通じる床下も外気ほど冷たくはないため、その熱損失量はそれほど多くありません。簡単に計算できます。
一方、基礎断熱では床断熱よりも、暖めなくてはならない範囲が広くなります。床まわりからの熱損失量も、計算により評価することができます。しかし、前出の『本音のエコハウス』では、現行の省エネ基準の基礎断熱の熱損失計算式は過小評価されている、とも指摘されています。
どちらも断熱性能に左右される面もありますが、傾向としては床断熱のほうが熱損失量は小さいのではないかと思います。しかし、床下エアコンなどで床温度を高くした場合、体感温度が上がるため、家全体の平均温度は低くすることができます。家全体の平均温度が低くなれば、暖房費は抑えられます。きちんと考えられた住宅であれば、大きな差はないのではないかと思います。
結局どっちが優れている?
そんなわけで、結局のところ、最適化さえされていれば、施主としてはどっちでもいいのかなと思っています。床断熱と基礎断熱のどちらがよいかは、業者の得意・不得意、シロアリ対策、床下のカビのリスク、気密性の確保、浸水被害のリスクなども含め、総合的に評価すべきことでしょう。
どちらも一長一短があり、研究熱心な住宅会社でも統一されていないのですから、どちらかが絶対的に優れているとは思えません。むしろ、「絶対に〇〇断熱が良い」と主張する業者の意見のほうに疑問を感じます。
ここでは暖房について述べましたが、冷房にしても地熱の効果は限定的と思います。少しはあるのかもしれませんが、内部発熱や日射熱が発生し、高温多湿な外気と換気する必要がある以上、エアコンは必要だし、それらの対策やエアコンの効率的な使い方のほうがずっと重要なことだと思っています。
また、地下深くの地熱を利用する工法もあるようですが、公開情報が少なく、その距離と熱利用のトータルコストを考えると懐疑的に思います。
※ 気づけば 1 年前も似たような記事を書いていましたが、そこはお許しください。
・基礎断熱 vs. 床断熱 – メリット・デメリットと注意事項
関連テーマとして、以下の動画もお勧めです。
コメント
「地熱利用で暖かい」
微妙な表現です.
地熱は積極的な屋内暖房と言うよりも,次のような考えですっきりすると思います.
冬季間においてのお話.
第一種顕熱交換機に冷たい外気が入ってきて,熱交換の際に結露が発生.
その結露した液体の水に対し,外気が氷点下だったら水は凍結してしまう.
凍結すると熱交換が正常に行われなくなる.
凍結を防ぐためには導入外気に対してプレヒーターが必要.
このプレヒーターを電力や温水でやると,ランニングコストUp.
そこで,外気をいったん(凍結深度以下の)地中を通して
できるだけ暖めて熱交換機に入れると
結露しても凍ることが少なく,プレヒートが不要な場合が多くなる.
というながれで,欧州(特に北欧)で採用されている,と伺っています.
http://unohideoblog.seesaa.net/article/83284264.html
よって,このように考えてはいかがでしょうか
「地熱の温度は(人間にとって)暖かい」
ではなく
「地熱の温度は外気より暖かい」
こう考えると-20℃前後になる北海道では
(凍結深度以下の)地温と気温の差が大きいので,冬期の地熱利用は効率的ですが
外気が氷点下にならない地域では,あまり効率的ではない.
と,私は考えています.
(冷房はわからないです)
違っていたらスミマセン.
コメントありがとうございます。おっしゃるとおり、寒冷地では凍結対策等として基礎断熱が有効であり、実際に普及しています。
日本では多くの地域で一時的に外気が氷点下になることがあっても、多くの温暖地では床断熱で冬の凍結は問題になりません。
そのような温暖地であっても冬のメリットを誇張した宣伝が多いので、温暖地であることを前提として記事を書きました。
説明不足ですみません。
ご回答ありがとうございます。
この「高断熱・高気密住宅」ブログの中でも
1地域と6地域のひと(住宅?)が同じ土俵で語っていたり
1地域でも札幌と旭川と釧路が同じ基準だったり
温暖地においても暖房デグリーデーが2500時間以下だったり。
あとは「パッシブ暖房」と「パッシブ換気」が入り乱れて「パッシブ」と呼称されたり。
いろいろ、条件がありますよね。
これらを同じ土俵に載せるのは無理がある。
一方、
温暖地において地中熱で暖房を補助するというのは
イニシャルコストの割には
御説の通り「誇張した宣伝」
つまり「見栄とハッタリ(と、ハウスメーカーの過剰な利益)」で終わっているでしょう。
私(凍結深度=100cm地域)は、
一冬は地中に外気導入パイプを埋めないでやってみます。
というか、工務店さんに「そこまでいらないよー」と止められた(w)。
なので、気が向いたら掘って埋めてみようかな、と。
基礎断熱も一時はちやほやされましたが、
「新住協」以外の建築士さんから
「床下に住まないのに、基礎断熱に金かけて
床下を外気以上に金かけて暖めてどうするの?
基礎断熱って、でっかい床暖でしょ?
要は足の裏がヒヤッとしなければいいので
床材に注意して
気密と断熱と透湿をしっかり取った床断熱の方が安上がり」
という声を7,8年ほど前から聞いています。
「冷房の地中熱」については
当地は一般家庭におけるエアコンの普及率が数%と
涼しくてわからないので、
これは、内地の皆さんに「人柱」をお願いしたいと思います(笑)
シロアリもゴキブリも住めない寒冷地なので。
長くなりました。
乱文にて失礼します。
以上で、私からは〆ます。
一口に高断熱住宅といっても地域によって条件が異なり、発祥は寒冷地です。寒冷地の方の知恵や経験から学ぶことは非常に多いのですが、温暖地にそのまま当てはまることばかりではないので難しいですね。
当サイトは高断熱住宅がまだまだ市民権を得ていない温暖地における事情について書いており、「当サイトをご利用になる上で注意が必要なわが家の特殊事項」というページも設けていますが、ほとんどの人は読まないので記事ごとに注意したいと思います。
温暖地の基礎断熱も、メリットばかり誇張せず、デメリットも徹底的に考えたうえで採用しているという住宅会社であればいいなと思っています。