近年の住宅では外壁に通気層を設ける工法が一般的ですが、なかには通気層のない工法を採用している住宅会社もあります。
ここでは、通気層の役割を考えることにより、通気層の有無によってどのような配慮が必要になるのかを考えたいと思います。
外壁通気層のメリット
まず、外壁に通気層を設ける第一の目的は、木造住宅の耐久性を高めるためです。木材の強度や耐久性を考えるときに鍵となるのは、乾燥状態が保たれるかどうかです。壁内に通気層があったほうが、内部に入った水蒸気が排出されやすくなり、乾燥状態を保ちやすくなることは明らかです。
もちろん、通気層があるだけで十分とは限らず、それが機能するような設計・施工になっている(出入口がふさがれていない)ことと、壁内に入り込む水蒸気量を減らす工夫(気流止め、防湿層)が施されていることも重要です。
しかし、外壁通気層のメリットはそれだけではありません。耐久性向上という点では上記と同じですが、防水の仕組みとしても有効です。
住宅金融支援機構の工事仕様書の解説には、次の記述があります。
外壁内通気措置とした場合には、万一、外装仕上材の継目等から外壁内に雨水が侵入しても、侵入した雨水や湿気が通気層を通じて屋外に排出されて滞留しにくいため、木部の腐朽を防止する機能を有する。
このように、通気層は防水上のフェイルセーフの仕組みとしても機能しているのです。
さらなるメリットとして、通気層には高温になる外装材の熱を外壁内に伝えにくくする効果もあります。日光の当たる外壁の外装材は、日射角度と時間によっては 50℃くらいになることがあります(これは最も外側にある外装材の日射熱吸収率(あるいは反射率)に依存し、屋根よりはマシです)。
この熱は、外装材の内側に通気層がある場合、温度が高ければ高いほど強くなる上昇気流によって排出され、外気温に近づけられます。これにより、冷房期の断熱の負担が軽減される効果も期待できます。
外壁通気層なしの工法の注意点
これらのメリットが大きいことと、外壁をサイディングにする場合に外壁通気層が必須になることから、外壁通気層は多くの住宅で採用されています。
しかし世の中には、外壁通気層を採用しにくい工法もあります。外装材が断熱材を兼ねているような場合です。このような場合に通気層を採用すると、通気層(外気)の外側にある断熱材は住宅の断熱性能としてカウントできなくなるため、通気層がないほうが都合がよいことになります。
すると外壁内の水分排除が課題になりますが、外装材自体の透湿性が高く、最も外側の面(塗装など)に透湿・防水層を設けることができるのであれば、理論上は問題ありません。実際、そのような工法を採用している住宅会社も一部にあります。
ただ、この場合、通気層工法と違って、万一雨水が侵入した場合の保険はありません。長期にわたって防水層が途切れないようにするには、防水層にヒビが入らないよう、防水層に耐久力のある伸縮性があることが求められます。住宅自体にも高い耐震・制振性能が要求されるし、塗り替えなどの徹底したメンテナンスも欠かせません。
前述の仕様書には、以下の記述もあります。
外壁内通気措置を施さない場合は、雨水や湿気が雨漏りや腐朽の原因となる可能性が高いため、軒の出及びけらばの出を十分に確保し、外壁への雨がかりを少なくする対策が望まれる。
防水が心配なら、雨が当たる頻度を減らすべきということでしょう。ただし、住宅によっては、雨が当たらないようにすることが困難な箇所があることもあります(バルコニーなど)。
また、通気層がない工法の場合、日射で暖まった外壁面の温度を緩和する仕組みもありません。充填断熱を併用し、断熱材を兼ねる外装材と併せて分厚い断熱面を構成しているのであれば問題ありませんが、外壁全体の断熱性能が高くない場合には、注意が必要でしょう。
コメント
はじめまして。
いつも参考にさせて頂いております。
今回の記事で、通気層の外側の断熱材は断熱性能としてカウントしないとのことですが、実際に断熱材として意味はなさないのでしょうか?
素人目線でいくと、通気層があろうがなかろうが、断熱材はあるわけなので、熱の伝わり方としては変わるのではなかろうか?と思ってしまうのですが…
ご質問ありがとうございます。
住宅の断熱性能とは、室外と室内の温度を隔てる断熱材の性能です。通気層は室外=外気温と見なされるので、住宅の断熱性能としてカウントされないのでしょう。
しかし実際は、通気層の温度=外気温とは限らず、通気性の悪い通気層であれば通気層の温度は室温に近づくはずです。したがって、連続した断熱層ほどではないにしても、ある程度の断熱効果はあるものと思われます。
ただし、この断熱性は通気層の幅だけでなく、風や周囲の温度などにも依存するため、熱抵抗値などとして定量的に評価することが困難です。そのため、省エネ性能評価などでは通気層の内側のみが考慮されるのだと推測します。
断熱材の厚みの合計が同じであれば、通気層はなるべく外側のほうが効率的です。が、元々の充填断熱が薄い場合は、通気層の外側であっても断熱材があるほうが夏の日射熱の影響などは受けにくくなると思います。
ご丁寧に回答頂き、ありがとうございます。
よくわかりました。
これからも更新を楽しみにしています。
また勉強させて下さい。
すみません、追加で質問ですが、もし知見がありましたらご教示下さい。
外壁を塗り壁の湿式工法で仕上げようと思うと、外断熱の上に塗っていくので、通気層が取れないと思います。その場合は外断熱と塗り剤の透湿性で湿気を排出するものと思っておりますが、こちらについては問題ないのでしょうか?
湿式工法で通気層を取ろうとすると、外断熱が意味をなさなくなってしまうと思うので、それでも通気層を設けた方が良いのでしょうか?
よかったら回答をお願いします。
わが家を含む三井ホームの多くの住宅は湿式工法の外壁ですが、こちらのページの「VFフェルトII」のような外壁下張材を使用して通気層を確保しています。
外断熱がある場合の湿式工法ではどのような構成が一般的なのかはわかりませんが、通気層は必ずしも必要ではありません。
外断熱と塗り剤の透湿性で湿気を排出する場合は通気層のメリットが受けられなくなるので、記事中に書いたような点には注意が必要かなと思っています。
下張材に突起を設けて、その間で空気を抜くという考え方ですね。
外断熱の塗り壁だと通気層を設けることができないので、記事中にある雨水等の予防的な観点では不利になりますね。
通気層の確保もしくは断熱材による断熱性の確保か…どちらがいいのか悩みどころですね。汗