高断熱住宅の住み心地の例えとして、「魔法瓶のような住宅」という表現が使われることがあります。調べてみたら当サイトでも使っていましたが、改めて考えてみると、わかったような気になるものの、よくわからない例えです。
魔法瓶の中に住んだことはないし、内容物は通常液体なので、その住み心地は水生生物でないと理解しえないものでしょう。
使う人はおそらく、「暖かさがずっと続き、冷めにくい」ということを言いたいのだと思いますが、それは高断熱住宅の特長というより、コンクリートのような熱容量の大きい蓄熱材の性質に近い気がします。
たしかに高断熱住宅では暖房を切った後の温度低下が緩やかになり、間欠的に暖房を使うにしても室内の最低温度は高くなります。しかし、「魔法瓶」という例えが高断熱住宅の住み心地を十分に表しているとは思えません。
高断熱住宅の快適さとは
住人として思うに、高断熱住宅の住み心地が快適なのは温度差が小さいからでしょう。部屋間の温度差が小さいことも重要ですが、特に身体と足元との温度差が小さいことは、体感温度として非常に大きな違いがあります。
魔法瓶以外に何かうまい例えはないかと思って考えてみましたが、なかなか思いつきません。
強いていえば、鉄筋コンクリート造りで窓が少なく常に空調が効いている図書館のような感じかなとも思いましたが、図書館はそういった建物ばかりではないし、カビくさい負のイメージもあります。
ペアガラスを使用している最近の鉄筋コンクリート造りのマンションの住み心地が近いような気がしますが、住んだことはないのでよくわかりません。
高断熱住宅が少なすぎる現状
なかなか説明できないのは、高断熱な住宅や建物が少なく、みんなが共有できる体験をしていないからです。
日本の温暖地で「別の世界であるかのよう快適な室内環境をもたらす」(『最高の断熱・エコ住宅をつくる方法』、p.20)とされる Q 値は 1.9 くらいであり、UA 値に換算すると 0.57 程度ですが、このレベルを超える断熱性能の住宅は、新築でもわずかしかありません。
全国的には、2020 年の義務化が撤回された省エネ基準(温暖地で UA = 0.87、Q = 2.7 相当)すら満たしていない新築住宅も多いのが現状です。比較的高性能な大手ハウスメーカーの住宅で家を建てるとしても、標準仕様で UA 値 0.57 以下を達成するのは難しいことが多いでしょう。
参考 大手ハウスメーカー全社の断熱性能(UA値)比較ランキング【2019】
そのうえ、よりはっきりと快適さを実感するためには全館暖房を行う必要がありますが、そういった暖房方式を採用している住宅は高断熱住宅のなかでも一部しかありません。
そんな状況の日本では、高断熱住宅の住み心地を簡単に説明することなど、できっこありません。説明する側の住宅の設計者ですら、体験したことがない人も多いのではないでしょうか。
高断熱住宅の住み心地は体験するしかない
そんなわけで、高断熱住宅の住み心地は、体験するしかありません。
宿泊体験ができる高断熱住宅は、探すと意外とあったりするものです。近くにない場合は、寒い時期の旅行などの際に比較的新しい Low-E ペアガラス(できれば樹脂サッシの「HOTEL MADO(ホテルマド)」)やエコ内窓付きのホテルに泊まってみるだけでも、それに近い体験はできるかもしれません(できれば中層階、角部屋を避ける)。
シングルガラスの住宅に住んでいる人なら、寒い時期に一晩を過ごすだけでその違いを実感できることでしょう。分厚い布団や湯たんぽが要らず、足が冷えない住宅がいかに快適かを一度体験してみれば、床暖房へのあこがれも無くなるかもしれません。
ただし乾燥はするかもしれないので、加湿器はあったほうがいいでしょう。
参考
・高気密・高断熱住宅に関するまとめ(記事紹介)
・高断熱ほど部屋中の温度差が小さくなる理由【図説】
・エアコン vs. 床暖房
・高断熱・高気密住宅は乾燥する?
・「夏涼しく冬暖かい家」の科学(体感温度編)
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