熱損失係数Q値とは?暖房費の手計算でわかる本当の意味 | さとるパパの住宅論

熱損失係数Q値とは?暖房費の手計算でわかる本当の意味

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住宅の断熱性能を示す指標としてよく使われる Q 値(熱損失係数)ですが、なんとなく知っていても、その意味をきちんと理解している人は多くないかもしれません。というのは、かくいう私も、長いこと正確には理解していなかったと思うからです。

Q 値の意味を理解するには、面倒ですが、Q 値から暖房費を計算してみることが一番の近道です。

ここでは、理系の方でなくても理解しやすいように、かんたんな四則演算を通じて、Q 値や高断熱住宅の本当の意味について考えてみたいと思います。

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熱損失係数とは

まずは一般的な定義や説明をしておきます。

が、これだけでは何となくしか理解できないと思いますので、少しでも難しく感じたら、ざっと読み飛ばしてしまってかまいません。

Q 値の定義

熱損失係数と呼ばれる Q 値 [単位:W/(㎡・K)] は、次の式で計算される値です。

Q =(温度差 1 ℃あたりの家全体の熱損失)÷(延べ床面積)

まず、熱損失とは、熱が移動する速度であり、単位時間あたりに移動する熱量(W)のことです。

つまり Q 値は、家の内外の温度差が 1 度あるときの、単位時間あたり、単位床面積あたりの熱の移動量を示しています。

ここで、各単位についても説明しておきます。

W:電力の単位と同じ、ワットです。1 W = 1 J/s(1 秒あたりのジュール) です。この意味はあとで分かります。
㎡:面積の単位、平方メートルです。1 坪は約 3.3 ㎡ です。

K:絶対温度の単位、ケルビンです。摂氏温度(℃)に 273 を足すと K になるので、温度差を考える場合は ℃ と同じと考えて問題ありません。

熱の移動はどこで発生するか

住宅において熱の移動はどこで発生するかというと、主に 2 か所です。

・家の内側と外の温度を分ける断熱層
換気

断熱層には、床や基礎、壁、屋根や小屋裏に配置される断熱材と、窓があります。柱などの断熱材がない部分では、木の熱伝導率などを元にして断熱性能が評価されます。

換気の熱損失は換気回数に比例しますが、ほとんどの住宅は 1 時間に 0.5 回となっているはずです。熱交換型の換気システムを採用すれば、換気回数を小さく見積もることもできます。

一般に、熱移動が最も多いのは窓経由なので、 Q 値を下げるためには窓を強化することが不可欠であり、最も効果的です。

参考 断熱性能は窓、壁、換気で決まる(部位別の断熱性能比較)

Q 値から熱損失を計算してみる

ここまでの説明ではわかりにくいと思うので、具体例で数値をいじって計算してみましょう。

この段階で Q 値が何かよくわからなくても、Q 値から熱損失 [単位:W] を実際に計算してみると、Q 値の意味がわかってくると思うからです。とくに難しい計算はありません。

例として、Q 値が 2.0、床面積が 100 ㎡(約 30 坪)の住宅の熱損失について考えてみましょう。

最初に紹介した方程式は、次の式に変換することができます。

(温度差 1 ℃あたりの家全体の熱損失)= Q x(延べ床面積)

床面積が大きくなればなるほど家全体の熱損失が大きくなるというのは、イメージしやすいことではないでしょうか。

この式から「温度差 1 ℃あたりの家全体の熱損失」を計算すると次のようになります。

Q x(延べ床面積)= 2.0 [W/(㎡・K)] x 100 [㎡] = 200 [W/K] 

この「温度差 1 ℃あたりの家全体の熱損失」の単位は、W/K です。K は ℃ と同じようなものです。

これでもわかりにくいので、室内の温度を 20 ℃、外の気温を 0 ℃ のときについて考えてみます。

このとき、家の内外の温度差は 20 ℃(=20 K)で、「温度差 1 ℃あたりの家全体の熱損失」は先ほど計算した 200 [W/K] なので、「家全体の熱損失」は次のようになります。

20 [K] x 200 [W/K] = 4,000 [W]

これが、家の内外の温度差が 20 ℃あるときの、住宅全体の熱損失です。

さて、この 4,000 W(ワット)という数字は、どのように解釈すればよいのでしょうか。

熱損失から暖房費を考える

熱損失とは、文字どおり熱が失われていくということなので、温度差が 20 ℃ あると、4,000 W のペースで熱が外に逃げていくということを意味します。しかし、熱が逃げていくとすると、家の温度は下がってしまうはずです。

それでも温度差が 20 ℃ あるということは、どういうことでしょう。

お気づきかもしれませんが、この 20 ℃ の温度差を維持するためには、家の内部で 4,000 W の熱が発生している必要があります。

つまり、室内外の温度差が一定のときは、(室内で発生する熱)=(熱損失)となっているのです。

4,000 W の熱とは、消費電力 1,000 W の電気ストーブ 4 台分です。

細かく言うと、家の内部では家電や調理器具、人体からも発熱があり、窓から入る日射熱もありますが、ここでは無視します。

ちなみに、人体発熱は 1 人あたり 100 W ほどで、地表にそそぐ日射熱は平米(㎡)あたり 1,000 W ほどです。日射熱は角度や反射の関係で一部しか入りませんが、窓しだいで無視できない量になる可能性があることがわかります。

1 k(キロ)は 1,000 の意味なので、4,000 W = 4 kW です。この電気暖房を 1 日 = 24 時間使用すると、 4 (kW) x 24 (h) = 96 (kWh) の電力を消費することになります。

電気代を仮に 1 kWh あたり 28 円とすると、電気代は 96 (kWh) x 28 (円/kWh) = 2,688 円になります。

電気ストーブだけで 1 日中暖房を効かせると、1 日の電気代は 2,688 円になるということです。 ひと月では約 8 万円です。

うわっ、高い!と思うかもしれません。

しかしこれは、温度差が常に 20 ℃ あるという前提での計算値です。日本の温暖地では、冬でも平均気温は 5 ℃くらいあります。それに、部屋の温度が常に 20 ℃ というのは、24時間全館暖房をしている住宅くらいです。

一般的な住宅は家の中でも温度差があり、時間帯によっても差があるので、その平均室温を 15 ℃ とすると、その外気温との平均的な温度差は 10 ℃ になります。この場合、電気代は半分になります。

それでも、月の暖房費は 4 万円になってしまいます。

電気ストーブなど、電気を直接熱に変換するタイプの暖房器具のランニングコストが高いというのは、そういうわけです。

高効率の暖房機器で安くなる

一般的な住宅で実際にそれほど暖房費がかかっていないのは、熱量あたりの単価が安い灯油やガスを使っていたり、寒さを我慢したりしているからです。

先ほど電気の暖房は高いといいましたが、同じ電気でもエアコンの場合は別です。

ただの電気暖房では(消費電力)=(発生する熱)となるのに対し、エアコンなどのヒートポンプ式の暖房機器では、消費電力の何倍もの熱を生み出すことができるからです。この倍数を「エネルギー消費効率」といい、APF とか COP とかで表されます(参考外部サイト)。

参考 エアコン暖房が低コストである理由

仮にエネルギー消費効率が 4 倍のエアコンで暖房を行うとすると、4 kW の熱は 1 kW の消費電力で生み出すことができます。

つまり、上記の例では、暖房の電気代が四分の一、月 1 万円になるということです。全館暖房をして平均的な温度差を 15 ℃ にした場合でも、月暖房費は 1 万 5 千円になります。

参考までに、今回前提としている Q 値 2.0 とは、温暖地においては、おおよそゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)の基準レベルの断熱性能です。

参考 HEAT20 G1・G2・G3(断熱等級7まで)の各基準について思うこととR-2000住宅

なお、4 kW の熱を生み出すために必要なエアコンは、暖房能力が 4 kW 以上のエアコンです。APF や COP、暖房能力などの数値は、エアコンの仕様として必ず記載されている重要な指標です。

なお、これら電気代やエアコン能力の計算については以下のページで任意の数値で計算できます。

断熱性能(Q値)から冬の暖房費用を推計するツール
暖房負荷から必要なエアコン能力(kW)を計算するツール

Q 値が重要な理由

ここで、これまでの計算過程を振り返ってみましょう。暖房費用を算出する過程では、次の値を掛け算しています。

・床面積
・Q 値
・温度差
・電気単価

つまり、暖房費用は上記の変数に正比例するということです(最後はエネルギー消費効率で割り算しているので、APF などが大きいエアコンを選ぶことも重要です)。

温度差の大きい住み方は快適ですが、暖房費用は増えてしまいます。

そこで、快適さを最大化しつつ、暖房費用を上げないためにできることが、Q 値を下げることなのです。

当サイトでは、このあたりの変数をどうイジるのが最適なのか、考えるヒントを提供しているつもりです。

最近では断熱性能を示す指標として UA 値(外皮平均熱貫流率)が使用されることが多くなってきましたが、上記の話が理解できれば Q 値と UA 値の違いについても容易に理解できることでしょう。

断熱性能を示すQ値とUA値の違いと注意点

注意点

Q 値が重要とは書いたものの、Q 値だけで冷暖房費のすべてが決まるわけではありません。

計算過程で設定した前提条件などが、現実とは違うことがあるからです。
冷房費については特にそうです。詳しくは以下をご注意ください。

UA値、Q値が冷暖房費に比例しない理由
高断熱住宅ほど冷房費は高くなる?

あと、電気単価は設備はそのまま、契約先やプランを変更するだけで下がるケースも多いので、一度検討してみることをお勧めします。

いまさら電力会社を切り替えてみた

コメント

  1. くろーばー より:

    すごく分かりやすい解説、ありがとうございます。
    これが知りたかったです。

    一見では理解できていないので、
    何度も見返して覚えようと思います(^0_0^)

    • さとるパパ より:

      お役に立つことがあれば幸いです。
      実際は計算どおりにならないこともありますが、その理由を考えると新しい発見が得られたりして興味深いです。
      疑問点があれば補足・修正しますのでご指摘くださいませ。

  2. […] この記事のデータをもとにとってもわかりやすいさとるパパさんの住宅論の記事をもとに概算のQ値を求めてみると(さとるパパさん勝手に引用してすいません引用しちゃだめなら遠慮なくお知らせください) […]

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