UA値、Q値が冷暖房費に比例しない理由 | さとるパパの住宅論

UA値、Q値が冷暖房費に比例しない理由

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外皮平均熱貫流率(UA値)とは、内外の温度差が 1 度の場合の部位の熱損失量の合計を外皮等の面積の合計で除した値であり、断熱性能を表す指標として現在採用されています。

一方、熱損失係数(Q値)は、内外の温度差が 1 度の場合の住宅全体の熱損失量を延床面積で除した値であり、以前採用されていた指標です。

これらの単位は共に W/(㎡・K)なので、面積(㎡)と温度差(K)を乗ずることで、総熱損失量(W)を計算できます。

それでは、これらの指標を使って冷暖房費の目安を考えることはできるのでしょうか。

厳密に言うと複雑なので、簡便のため、冷暖房費は冷暖房負荷(W)に比例すると仮定します。冷房と暖房の違いや複雑な料金制度を考えるとキリがないためです。日射熱の取得も実際は大きく影響しますが、とりあえず無視します。

しかしそれでも、これらの指標が冷暖房費に比例すると言うには、いくつか問題があります。

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UA値には換気による熱損失が含まれない

UA値の場合、外皮面積(㎡)と温度差(K)をかけると総熱損失量(W)が算出できますが、これには換気による熱損失が含まれていません。UA値は外皮の平均の熱貫流率を示すだけであり、住宅の熱損失を示すわけではないからです。その点で、冷暖房費を考える場合は熱損失係数(Q値)を考慮する方が良いことになります。

Q値のほうが冷暖房費に近いが…

熱損失係数Q値には換気による熱損失が含まれているため、温度差と延床面積をかければ総熱損失量が計算できます。

換気による熱損失は、計画どおりに 1 時間あたり 0.5 回換気を行うものとして計算しますが、これは Q 値で約 0.4 相当になります(熱交換換気の場合はもっと小さくなります)。気密性能が低い場合はこれ以上の換気(漏気)が発生するため、漏気による熱損失も無視できません。

この漏気は風速や換気方式によっても変化するので評価が難しいのですが、C 値が 1 以上の場合は多少なり考慮する必要があるでしょう(ちなみに、暖房費計算ツールでは C 値 x 0.1 を Q 値に加える形で考慮しています)。

つまり、Q 値が冷暖房費に比例するのは、高気密の場合に限るということです。

また、条件はもう一つあります。

Q 値が冷暖房費に比例するのは全館冷暖房条件でのみ

冷暖房負荷が Q 値に比例するのは、家中の温度を一定に保つように冷暖房を行う場合に限ります。

Q 値は内外の温度差 1 度あたりの熱損失量を示すため、温度差がない場合には熱損失自体が発生しなくなります。家中の温度が一定でなく、外気との温度差が小さい空間がある場合には、熱損失量が少なくなるため、冷暖房負荷も当然小さくなります。

冷暖房を連続運転せずに間欠運転とし、時間帯によって家の温度が外の温度に近づく場合も同様です。

つまり、部屋ごとに個別にエアコンを設置して断続的に運転する場合、冷暖房費は Q 値に比例しないということです。

このあたりの詳細は、以下の記事で説明しています。

空調方式ごとの断熱レベル(Q 値)と暖冷房エネルギーの関係
高断熱住宅ほど冷房費は高くなる?

結論

そういうわけで、冷暖房費を考える場合、UA 値は使えず、Q 値を使う場合でも、上記の条件を考慮する必要があります。

また、Q 値は設計上の計算値のため、断熱材に施工や経年劣化の問題がある場合は、効果が期待できないこともあります。

一般的な住宅では全館冷暖房は行わないため、Q 値は冷暖房費と直接には関係しません。暑さ寒さを我慢すればするほど冷暖房費は安くなり、Q 値が小さいほど我慢の程度が軽くなる、という関係です。

一方、高気密・高断熱住宅で 24 時間全館冷暖房を行う場合、Q 値は冷暖房費にほぼ比例するはずです。高気密・高断熱住宅では暖房を節約しても付けっぱなしにしても大差がないため、家中での連続暖房には大きなメリットがあります。Q 値 0.8 の暖房費は、1.6 の半分で済むことになります(冷房費は別です)。

ただし、前述したように日射の影響も大きいため、次の書籍によれば、Q 値 1.6 程度でも日射をうまく取り入れることができれば暖房費をかなり軽減することもできるようです。

参考記事:
断熱性能(Q値)から冬の暖房費用を推計するツール
空調方式ごとの断熱レベル(Q 値)と暖冷房エネルギーの関係
断熱性能が高いほど暖冷房費が安いのは本当か?【ZEH住宅の実測調査結果】

コメント

  1. mazzy より:

    はじめまして、mazzyと申します。数値的な裏付けの記事をいつも興味深く拝見しています。今回の「暑さ寒さを我慢すればするほど冷暖房費は安くなり、Q 値が小さいほど我慢の程度が軽くなる、という関係」というのは本当にその通りですね。
    わが家は2012年に完成し、6回目の冬を迎えました。家を計画していた2011年当時を思うと、供給側も大きく変わってきたことを感じます。特に窓や玄関ドアで施主が望めば国産でも優れたU値のものが存在することは隔世の感すらあります(笑)
    さて、わが家の仕様はレアな蓄熱式温水床暖房で、冬の間それ以外の暖房を全く使用しません(蓄熱層があるのは1Fのみですが、トイレ・風呂・玄関土間タイルまで含めた全面です)。蓄熱モルタル層を温水で温め、そこから輻射熱が放射され躯体を均一に温めます。一回の稼働時間は45分~1時間で、約7時間あけてこれを繰り返し一日3回稼働させています。暖房にかかるガス料金は真冬の最も寒い時期で一カ月1万円くらいです。これで家の中すべて(35坪)が24時間ほぼ均一温度になっています(温水の熱源はガス)。まったくの無風で体の芯から暖まり快適です。おっしゃっているようなメンテナンスの問題が将来どうなるのかは若干不透明ですが、快適性に関してはこれ以上のものはないと思うほど満足しています。また、換気はダクト式3種換気です。こちらも熱損失を(実感として)感じることはことんどありません。吸気口に手をかざすと冷たい空気をもちろん感じますが、10センチ離れたところではほぼ感じなくなります。これは躯体全体が輻射熱で暖まっていること大きく作用しているのでは?と思っています。SWHさんの北海道仕様が3種換気なのは、暖房が温水パネルヒーターなど輻射熱仕様だからではないかと推察します。
    さとるパパさんの記事は、これから家を建てられる方にとってとても参考になるものが多いですね。2020年に向けて住宅供給側は変わってきているとは言え、2020年の基準ですら絶対性能は実はたいしたことがありませんよね。
    こんな家が建てられるのならもっと前に知りたかった・・という人が少なくなればいいと切に思います。これからも楽しみにしています。

    • さとるパパ より:

      コメントありがとうございます。蓄熱式の暖房や三種換気の住み心地はわからないので参考になります。結局のところ、高気密・高断熱でさえあればどの暖房・換気方式でも大きな不満はないように感じています。北海道のスウェーデンハウスが暖房も異なることは知りませんでした。給気口の下にヒーターがあれば問題ないのでしょうね。第三種換気の寒さが不快に感じるのは北海道のなかでも特に寒い地方のみ、というようなことが上記の本に書かれているので、ほとんどの地域では問題にならないのだと思います。
      私も家を建ててから気づいて後悔したことが多々あるので、これから建てる方が参考にしていただけるような情報を発信していきたいと思います。よろしくお願いします。

      • mazzy より:

        こんばんは。そうですよね、私も自分のブログで書いていますが、結局はきちんと施工された高気密・高断熱住宅であれば、どんな工法、断熱方式、換気システムであっても住み心地のよい家は可能なはずです。ただ、工法によって施工精度を担保できる難易度には差があり、当然のことながら難易度が高い場合にばらつきが生じやすくなるのだと思います。吹き抜けが寒いとか言っている施工業者にはそもそも頼んではいけないだけなのだと思います(笑)得てしてこういう業者さんほど、他社や他の工法などを批判し、エンドユーザーを不安にさせていることが多いのかもしれません。きちんとしたところは自社の仕事に自信とプライドを持ち、自分の施工したものの性能をアピールすることはあっても他を貶めることは言わないと私は思っています。
        寒い冬こそ、やはり家の性能が際立ってきますよね。そして、温熱環境こそ家の快適度を測るもっとも重要な物差しだと私は思います。家のどこにいても暑くも寒くもない、そんな温度のバリアフリーを実現することが十分可能なはずなのにそれを怠ってきた住宅業界には反省してほしいです。ずいぶん前のことですが、私のブログのコメントに「高性能な窓を日本のメーカーが供給してこなかったのは消費者からのニーズがなかったからだ・・」と書いてきた方がいました(笑)。ニーズがないのではなく、そもそも存在を知らないのでニーズが生まれていなかっただけというのが真実だと思います。建売住宅ではもちろん、住宅展示場でもこういう住宅に巡り合うことがかつてはほとんどできませんでした。そんな中で、一条さんが棟数をあれだけ伸ばし、私が家を作ってからのこの5年間でもかなりの変化を感じています。また、一条さんの施主さんにはブログを書いている方がなぜかものすごく多いですよね!あれは強力な営業推進クチコミツールになっているのでは(さとるパパさん同様、理系の方が多い気がします)?
        なお、高性能住宅≠エコハウスでは必ずしもない場合もあります。わが家は十分な高性能住宅だと思っていますが、熱源がガスということもあり、年間光熱費はそれほど少ないわけではありません。それは建っている位置で、隣の家が南側ぎりぎりにそびえているため、陽の低い冬には1Fリビングに日射がほとんど期待できません。そのためもあっての蓄熱式床暖房でもあります。しかしそのかいあって雨が降ろうが雪だろうが冬の間中寒いことを感じることはまったくありません。そして輻射熱暖房のよさはやはり体感しないとわからないものです。もちろんあたたかいのですが、あったか~い!というような電気式床暖房のポカポカ感とは異質のものです。よく○度だから暑い・寒いという方がいますが、単純に室温では測れないものだとも思います。
        これからもよろしくお願いします。

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