「熱交換率 90% の換気システム」があることを知れば、それはあるに越したことはない素晴らしいものだと思ってしまいます。が、実際のところ必要なのかどうか、定量的に検討したいと思います。
熱損失全体のうち、換気が占める割合
まず、住宅の熱損失全体における換気の熱損失の割合を考えます。熱交換換気を採用しない場合、Q 値 0.4 相当(※)の熱損失が生じることになります。ちなみにこれは完全な計画換気が行われた場合の数字であり、気密性能が高くない場合は自然に漏気が発生するため、熱損失はそれ以上となります。
Q 値 0.4 相当は、Q 値 1.0 以下の超高断熱を目指す場合には割合大きい数字なので、このレベルの断熱性能を求めるならば熱交換型換気は必要と言えるでしょう。しかし、Q 値 1.6 程度を目指す場合には微妙な数字です。
熱交換される換気は一部だけ
注意が必要なのは、熱交換率 90% の換気システムであっても、この 0.4 が 0.04 になるわけではないということです。なぜなら、日本で多く採用されている全熱交換型換気システムでは、トイレや風呂から常時排出される空気の熱は回収されずに捨てられるだけだからです。台所の換気も同様です。換気される空気のうち、熱交換器を通る空気は半分もないのではないでしょうか(わが家で調査した結果、熱交換される換気の割合は半分以下でした)。
ちなみに、一部で採用されている顕熱交換型換気システムの場合、トイレや風呂の排気熱まで回収することができます。暖房費の節減効果だけを見れば、顕熱交換型に分があります。しかし、第三種換気と同様、夏場に外の湿気をそのまま取り入れてしまうため、湿度を低く維持することが難しくなるという欠点もあります。全熱交換型換気には室内の湿度を維持できるメリットがあるため、温暖地では全熱式が採用されるケースが多い印象です。
消費電力に要注意
また、換気システムの消費電力も見逃すことはできません。熱交換型の換気システムは一般的に、ふつうの換気扇よりも電力を多く消費します。熱交換により回収する熱量を、より少ない電力でエアコンで調整できるとしたらどうでしょうか。
実際、暖房費が安くなる効果より換気扇の電気代が増える影響のほうが大きいということはよくあります。熱交換換気に多くの電力を消費するようでは、省エネの観点からは熱交換する意味がありません(換気口からの冷気は和らぎますが)。熱交換型換気システムは、熱交換率が高いだけでなく、消費電力が低い必要もあるのです(ダクトレス、ダクト式のどちらにしても省電力タイプもあります)。
熱交換型換気は第一種換気となるため、初期費用がかかります。熱交換器やフィルターの定期的なメンテナンスも必要です。関東以西の温暖地では省エネ上のメリットは大きくありません。手間やコストがかかっても快適性を追求したい、という場合に選ぶとよいのではないでしょうか。
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