熱交換型換気システムは換気の際に逃げる熱を回収するため、暖房費が下がると言われています。一条工務店のロスガードは暖房費を 68% も削減できると宣伝していますが、これが怪しいことは以前書いたとおりです。
宣伝文句は怪しいとしても、実際のところ、暖房費の節減効果はどの程度になるのでしょうか。
使用するデータ
戸建住宅の省エネルギー性能を公的に評価するため、(財)建築環境・省エネルギー機構というところが地域の用途別一次エネルギー消費量のデータを公開しています。
これはあくまで標準的なモデル住宅を想定したシミュレーションであり、目安でしかありません。しかし、住宅や住宅設備を売るための販促資料として計算されたものではなく、省エネ効果を正しく評価するために専門家が細かい計算を行った結果であるため、中立的で、それなりに信用できます。
ここには、熱交換型換気の有無による暖房設備の年間の一次エネルギー消費量が掲載されています。今回は、このデータのうち、東京などの温暖地が該当する IVb 地域について取り上げ、暖房費の節約効果を検討したいと思います。
データの信頼性を確認するため、参考までに我が家の実測の暖房エネルギー消費量と比較してみました(詳細は省略)。モデルとの差をいろいろと補正(床面積、Q 値、設定温度、設備の性能など)して計算してみたのですが、我が家の一次エネルギー消費量はこのシミュレーションより何割も多い結果となりました。シミュレーションにも限界があるので、あくまで目安ということです。
熱交換型換気の暖房費節減効果
計算条件は後述するとして、第一種熱交換型換気を採用すると、一般的な第三種換気と比べて暖房費はいくら安くなるのか、試算した結果から紹介します。
これは暖房方式や断熱性能によって異なるため、個別間欠エアコンのみで暖房する場合と全館空調の場合についてそれぞれ紹介します。
個別間欠エアコン暖房の場合
各部屋にエアコンを設置して暖房するという一般的な使用法における電気代は以下のとおりです。
熱損失係数 Q=2.7(2020 年に義務化される水準) の場合
第三種換気の年間暖房費:43,600 円
熱交換換気の年間暖房費:39,300 円
年間で節約できる暖房電気代:4,300 円(10%)
熱損失係数 Q=1.9(だいたい ZEH レベル) の場合
第三種換気の年間暖房費:20,100 円
熱交換換気の年間暖房費:14,300 円
年間で節約できる暖房電気代:5,800 円(29%)
個別間欠暖房の場合、元々暖房費がそれほど高くならないため、金銭的なメリットは大きくないようです。
全館空調の場合
ヒートポンプ式全館空調で暖房する場合の電気代は以下のとおりです。エアコンを 24 時間連続運転する場合も、同様の結果になるのではないかと思っています。
熱損失係数 Q=2.7(2020 年に義務化される水準) の場合
第三種換気の年間暖房費:109,000 円
熱交換換気の年間暖房費:92,400 円
年間で節約できる暖房電気代:16,600 円(15%)
熱損失係数 Q=1.9(だいたい ZEH レベル) の場合
第三種換気の年間暖房費:53,900 円
熱交換換気の年間暖房費:36,400 円
年間で節約できる暖房電気代:17,500 円(32%)
全館空調の場合、この程度の断熱性能だと暖房費が元々高いせいもありますが、熱交換型換気による節約額も大きくなっています。より高断熱の場合のデータが気になるところですが、おそらく熱交換型換気による節約額は大きいのでしょう。
各種条件と注意事項
この試算は条件によって大きく変わるため、どのような条件で行われているのかを確認することも重要です。とはいえ情報量が膨大なため、ポイントを絞って説明したいと思います。
また、この試算を見るうえで注意しておきたいことも後述します。
元データの条件
シミュレーションの条件について詳しくは、機構の「第1章住宅事業建築主の判断基準の概要」に細かく記載されています。
地域の標準的な数値が使用されている印象です。以下はその一部です。
・4 人家族、120 平米の木造 2 階建住宅
・冬の暖房温度は 20 度、冷房は 27 度(夜間 28 度)
・温暖地の場合の開口比率 26.8%
なかでも気になった条件は、以下のとおりです。
・全館空調の暖房エネルギー消費効率(COP)は 3.0 以上
→我が家の暖房 COP は 4.26 です(カタログ値)。カタログ値と現実の差かもしれませんが、シミュレーションはずいぶん低め(電気代が高め)に計算されている印象です。
・熱交換型換気システムは、顕熱交換効率 65% 以上
シミュレーションでは顕熱交換効率 65% 以上の熱交換換気が想定されていますが、温暖地では全熱交換式の換気システムも一般的です。
全熱交換式の熱交換換気の場合、暖房費の節約効果は小さくなります。
全熱交換式のほうが熱交換率は高い傾向がありますが、別途局所換気が必要になるため、顕熱交換式のほうが換気全体で捨てられる熱量が少なく、暖房費が安くなります(詳細 →「全熱交換型換気で熱交換されるのは一部だけという問題と対策」)。
暖房費の試算方法について
元データから暖房費を計算する際は、次の計算を用いることとしました。
まず、元データは一次エネルギー消費量(単位はギガジュール)なので、消費電力量(kWh)に換算しました。その際、1 kWh の電力に必要な一次エネルギー消費量は、9760 kJ/kWh = 9.76*10^(-3) GJ/kWh としました。
次に、1 kWh あたりの電気代を 28 円として計算しました。実際は料金プランによって異なります。
換気の電気代は別途かかる
「熱交換型換気は必要か」で書いたように、第一種熱交換型換気システムは一般的に消費電力が大きい傾向があります。
換気は 24 時間 365 日稼働するので、消費電力が 35 W であれば年間 307 kWh(8,600 円相当)、118 W であれば年間 1,034 kWh(29,000 円相当)にもなります。ちなみに前者は省エネタイプの消費電力の一例であり、後者は三井ホームの全館空調の換気の消費電力です。第三種換気でも多少は電気を使いますが、大きな差があります。
上記シミュレーションのとおり暖房費を節約できても、トータルでそれ以上に電気代が増えてしまっては節約にはなりません。
熱交換型換気は、全館暖房を行い、省エネルギータイプのものを採用するのであればランニングコストを下げることができます。しかし初期費用が高いこともあり、なかなか元が取れるものではありません。
熱交換換気のメリットは暖房費節減だけではない
金銭的にメリットがないとしても、熱交換型換気に意味がないわけではありません。
冬は換気により室内に供給される空気の冷たさが緩和されます。しかし、第三種換気でも、換気口や暖房の配置に注意すれば寒冷地であっても問題が生じることはありません。
一番のメリットは、暑い時期に室内に取り込む湿気を減らせることです(全熱交換式のみ)。
日本の夏は、湿度さえ下げれば意外と快適に過ごすことができます。難しい湿度管理がラクになるのであれば、快適性の面から見て大きなメリットとなります。これを定量的に評価する知恵はありませんが、温暖地の多くのハウスメーカーが全熱式を採用していることから、それなりの効果はあるのでしょう。高いコストをかけて三井ホームの全館空調を採用してしまった私だから言っているわけではありません、たぶん。。
追記:冷房期に室内に取り込む湿気と熱を減らすことにも、一長一短がありそうです。。。
詳細 → 冷房期の第一種換気のデメリット?【熱交換換気と再熱除湿の関係】
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