ZEH で後悔?ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)を目指すべきではない理由 | さとるパパの住宅論

ZEH で後悔?ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)を目指すべきではない理由

※当サイトは、アフィリエイトプログラム(Amazonアソシエイトなど)を通じ、商品またはサービスの紹介・適格販売により収入を得ています。詳細...

スポンサーリンク

住宅に関する行政の政策については文句を言いたいことが山ほどあります。

近年になって経産省が推進している ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略。「ゼッチ」と読む)についても同様です。

今回は、その ZEH についての問題点を、国、施主それぞれの立場から提起したいと思います。

スポンサーリンク

ZEH とは

そもそも ZEH とは何なのか、最初に簡単に紹介します。

経済産業省資源エネルギー庁によると、ZEH とはこういうものです。

外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅

出典 http://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/zeh/

かんたんに言うと、高断熱、高効率設備、太陽光発電の 3 点セットを備えている、エネルギーを自給自足できる住宅のことです。

国としては、「2020年までにハウスメーカー等の建築する注文戸建住宅の過半数でZEHを実現すること」を目標としているそうです。

一見、理想的な住宅のように思えますが、私はそうは思いません。

住宅分野全体の省エネを目的とすればいいのに、家単位での一次エネルギー消費量の収支ゼロにこだわっているがため、万人向けの省エネ住宅になっていないと思うからです。

高断熱の必要性については当サイトでさんざん述べているように、異論はありません。むしろ、ZEH 要件以上の高断熱に加え、高気密化にも住宅業界は真剣に取り組むべきと考えています。

参考 高気密・高断熱住宅に関するまとめ

問題だと思うのは、高効率設備と太陽光発電を要件にしていることです。これらは、だれもが採用すべき設備ではありません。それぞれについて、その理由を説明します。

高効率設備の問題点

ZEH の要件を満たすには、消費エネルギーを抑えるため、エコキュートなどの高効率設備を導入する必要があります。

高効率設備は優れた技術ではありますが、多くの場合オール電化にする必要があり、一般的な設備と比較するとさまざまな制約やデメリットもあります。ここでは詳述しませんが、「エコキュート デメリット」などで調べればいろいろと見つかります。万人に勧められるものではありません。

よくある問題は、省エネになって光熱費が安くなる代わりに、初期費用と更新費用が高くなることです。

仮に、初期費用が20万円高く、使用期間を10年とすると、年間2万円は光熱費が安くなる必要があります。もともとの光熱費が高い家庭ほどメリットがあり、少人数の家族など、もともと光熱費が多くない家庭にとってメリットは大きくなりません。また、原子力発電を止めたまま深夜電力の料金が今度どうなるのかはわかりません。

電気設備は 10 年前後で寿命が来たり故障したりすることがあるので、将来的な出費が大きくなることも覚悟する必要があります。初期費用に対して補助金が出ても、故障時の高額な修理代や更新費用までは負担してもらえません。電力会社のほうで10年は保証が付くことがありますが、この保険料は電気料金に転嫁されているだけですし、従来設備ほど長く使用できる可能性は高くありません。

エコキュートは、ガス代が高く温暖な地域では採用率が高い一方、都市ガスが整備されている地域やヒートポンプ効率の下がる寒冷地では採用率が低い傾向があります。地域や条件によってはデメリットが大きくなる設備を補助対象の要件にすることには納得しかねます。

太陽光発電の問題点

ZEH では一次エネルギー消費量の収支ゼロを目標にしているため、省エネだけでなく、エネルギー創出まで家庭で行うことが要求されます。家庭でできるエネルギー創出方法は、ほとんど太陽光発電の一択です。

太陽光発電には、高効率設備と同じ問題に加え、別の問題も多数あります。

・屋根が重くなるため、耐震性に影響する
・更新時、屋根のメンテナンスにも影響する
・発電効率を考えた屋根形状になる
・発電量は立地や日照の条件に左右される

つまり、だれもが採用すべきものではないのです。北海道にゼロエネルギーを求めるのは酷すぎます。

太陽光発電は CO2 排出量を減らす有力な方法の一つですが、天候に左右され不安定なため、補完できる発電設備(火力など)が不可欠になります。太陽光発電の割合がいくら増えても、雨の日などで出力が小さいときは太陽光以外の発電ですべての需要を賄う必要があります。また、反対に出力が大きくなるときも他の発電を調整する必要があり、限界が来ると出力制御が必要になります。つまり、電力網全体において太陽光発電を組み込める割合には、一定の制限があります。

この割合は、そろそろ限界にきているのではないでしょうか。これは、民主党政権時代にできた高額な固定価格買取制度によって、太陽光発電で経済的メリットが受けられるようになってしまったことが原因です。造れば造るほど業者は儲かるので、メガソーラーが田舎に乱立してしまいました。利益の元は、すべての利用者が支払う再生可能エネルギー賦課金です(2030 年まで増える予定)。

近年は発電設備の価格が低下したため、発電コストは主に土地代です。住宅では土地代がかからないので、住宅の屋根で太陽光発電を行うことは、発電システムとしては本来、合理的です。採用できる住宅では積極的に採用したほうが良いことは間違いないと思います。しかし、制度設計のミスで現状として必要以上に乱立してしまったことがあるため、今後も国として推進することに問題がないのかは疑問です。

この問題は、蓄電池をうまく活用すれば活路はあります。最近は蓄電池のコストがだいぶ安くなってきており、太陽光と組み合わせると変動を平準化することができます。非常時に利用できることもまた、大きなメリットになります。しかし、蓄電池材料の資源制約などを考えると、経済的に成り立つレベルになる見込みは薄いでしょう。

現状、太陽光発電というシステムは他の犠牲のもとに成り立っているため、発電量単位(kWh)で一部新築住宅の収支がプラスになることに大きな意義があるとは思えず、国として補助金の要件にするのはどうかと思います。

ZEH には他にも細かくて融通の利かない条件が多数あり、そのために望ましくない選択をしなければならないこともよくあるそうです。

国の政策はどうあるべきか

上記の問題があるため、国として ZEH を推進することには反対です。

将来の住宅の在り方として、ZEH は選択肢の一つであり、全員が目指すべき住宅像ではありません。地域条件により有利不利があり、一部の人や業者にだけメリットのある住宅に補助金を出す政策は、公平性にも欠けています。ZEH は認定を受ける手間だけでも複雑でやっかいであり、このような補助金制度なら何もしないほうがマシです。

住宅をさらに高断熱化して全館冷暖房を行えば、省エネルギーだけでなくピーク電力の平準化、医療費の削減にも貢献するというのに、ZEH でないだけで補助金に差が付くのは不公平です。

国の本来の目的は、ZEH を増やすことではなく、住宅分野全体の省エネ化であるはずです。省エネ化は、国が税金を使って推進しなくても、消費者にメリットがあることがわかれば勝手に普及します。エネルギー代が高くなればなるほど普及は進むため、環境税もまた一案でしょう(税収の用途が納得できるものである必要がありますが)。

補助金を出すのであれば、アルミサッシから樹脂サッシなどの高断熱サッシへのグレードアップや、サッシ代の高いマンションの窓の高断熱化リフォームをより積極的に支援すべきだと思います。これによりメリットを受けられる家庭の数は高性能新築住宅の施主よりずっと多いでしょうから、全体としての省エネ効果も期待できるのではないでしょうか。

高断熱化・高効率化によるコスト削減効果について、公平公正な情報を提供し、悪用を防ぐルールを定めることもまた、国として非常に重要なことです。この点でも、改善の余地はまだまだあると思っています。

個人の合理性

以上、国の政策としての問題を指摘しましたが、各個人にとって、そんなことは関係ありません。

補助金などを考慮したうえで高効率設備や太陽光発電にメリットがあると考えるならば、ZEH やニアリー ZEH の仕様を採用するのも合理的な判断だと思います。デメリットも理解したうえで採用することには、何ら問題はありません。

経済的に元を取れるかどうかは条件次第ですが、CO2 の削減効果は期待できます。

電気料金は今後も上昇が予想され、上昇すればするほど、省エネ住宅のメリットは大きくなります。現時点でメリットがないと判断しても、将来的に柔軟な選択ができるようにしておくこともお勧めです。

ZEH の認定を受けるには

ZEH の認定を受けたいのであれば、高断熱を実現しやすい住宅会社がお勧めです。標準仕様の断熱性能が ZEH レベルを満たしていない場合、断熱性能を上げる(窓サッシのグレードアップや外断熱の追加など)ために費用がかかるからです。基本性能が高ければ、窓の総面積を少なくする必要もなくなります。

鉄骨造よりは木造住宅がお勧めであり、どちらかと言えば木造軸組工法よりツーバイシックス工法などがお勧めです。

なお、ZEH 認定を受けるためには、当サイトで推奨しているような全館冷暖房は不利になり、各居室にエアコンを設置して間欠運転する方法が有利になるようです。全館冷暖房を行いやすい開放的な間取りも同様に不利になります。この制約をどれだけ受けるのか、抜け道はあるのかなどは不明ですが、その点にもご注意ください。

参考 高気密・高断熱住宅をどこで建てるか

おすすめサイト

最後に、エネルギーに関するおすすめのサイトを 2 つ紹介します。

NPO法人 国際環境経済研究所|International Environment and Economy Institute
環境と経済を両立させた持続可能な社会のあり方を考える

こちらは NPO のシンクタンクです。日本と世界のエネルギー事情や再生可能エネルギーについて有益な最新情報をチェックできます。

http://www.yasuienv.net/

こちらのサイトでは、東京大学教授などを務めた化学者・安井至氏が、環境・エネルギー問題について一般向けに解説しています。

当記事は、みなさんから頂いたコメントを元に再構成しました。ありがとうございます。

関連
住宅を高断熱化しても脱炭素にはならない
住宅の省エネ評価に対する疑問
断熱性能が高いほど暖冷房費が安いのは本当か?【ZEH住宅の実測調査結果】

コメント

  1. xt より:

    おぉ、ZEHへの反対論は珍しいと思い、拝見させていただきましたが、面白い記事でした。いや、確かに立地や屋根の形状などで不利な状況は多々ありますし、実に不公平な制度ですよね。かくいう私もZEHに憧れてましたが、北海道ではZEHの基準が厳しすぎて、そもそも三井ホームでロフトや吹き抜けを作って…とかやってたら論外だったものですから、即刻諦めた次第です。勿論ZEHは諦めても、高断熱の努力は最大限行ってます。冬は積雪で発電しませんが、太陽光も設置予定。将来的にテスラの蓄電池でもつけて、(冬以外)電力自給自足を目論んでます。

    再生エネ賦活金はかなり問題だと私も思います。しかし、売電よりも蓄電池による自家消費が今後うまく普及すれば、賦活金が増えることなく再生エネ率を向上させることができるのではとも、淡く期待しています。テスラがオーストラリアで今やっているような形が日本でも普及すれば。。蓄電池…早くお手頃価格になって欲しいものです。

    • さとるパパ より:

      コメントありがとうございます。ZEH 反対論が少数派だとは知りませんでした。。補助金をもらえないやっかみ半分の主張かもしれず、堂々と反対するほどのことかと自問自答しております。最近の動向や蓄電池については不勉強だったので、調べて一部修正・追記しました。
      再エネ賦課金は電力の買取価格が低ければ問題なかったのですが、もう手遅れです。環境省によると2030年頃までは上がり続けるそうです。
      停電時のことを考えると、家庭での蓄電池の利用は興味深いことだと思います。今後の大きな技術革新には、少し期待しています。

      • xt より:

        お返事ありがとうございます。そう、問題は売電なんですよね。太陽光を蓄電池など使って自家消費する方向は、どんどん推奨して問題ないはず。
        そういえば10kW以上の事業主向けの『自家消費用発電設備補助』なるものがありますが、今後蓄電池のコストパフォーマンスが向上すれば、個人の10kW未満にも新設するのも面白い気がします。太陽光発電設備+蓄電池に補助金を弾み、その分売電はさせない、あるいは非常に廉価で売電。自家消費なら再エネ賦活金は上がりません。
        私のすむ北海道は、泊原発が再稼働に足踏みしていることが影響大で、オール電化向けプラン(eタイムプラス)のkWh当たりの電気代が、夜間14円、朝晩30円、午後ピーク時間40円です。ここに再エネ賦活金が2円以上乗りますから。売電価格より圧倒的に高い(高すぎる・・!)。逆に、自家消費型太陽光発電にとってはメリット大な環境です。

        • さとるパパ より:

          現在は売電した方がメリットが大きいようですが、原子力を止めて電力供給が不安定になり電気料金が上がるほど太陽光+蓄電池の価値は高まりそうですね。国としても、今後の電力供給は保証できないから個人で何とかしろというつもりなのかもしれません。
          それにしてもオール電化向けプランの日中の料金は高いですね。補助金なしでも採算がとれるようになるかもしれません。

  2. フミ より:

    いつも勉強させていただいてます。
    私も国がZEHを推進するのは、どちらかというと反対です。しかし、ある程度補助金でもばらまかないと高断熱にするための様々な建材(おもに窓)が数がでず、価格が下がらないのである程度致し方ないのかと思います。
    太陽光発電に関しては今の買い取り価格はちょっとどうなのかなという感じです。しかし各家庭で太陽光発電を設置するのは電気の送電ロスを考えたらありなのかもしれません。ある程度日当たりや屋根の向きが考えられていたらですが。
    私の家も10kW以上載せてますがパワコンの更新時に蓄電池(+V2H)の導入を考えてます。10~15年後には今より安く導入できるのでないかと期待しています。そして将来的にはオフグリッドな生活できるかなと淡い期待をしていますがどうなることやら・・・
    太陽光にお金をかけるのなら基本性能をあげてからお金をかけるべきですよね。書いときながら太陽光いっぱい載せちゃいましたが
    すいません、書きたいことを書いたら文章がぐちゃぐちゃになってしまいました。

    • さとるパパ より:

      エコ窓の補助金は私も賛成です。これはリフォームでも可能で万人にメリットがあるため、ZEHへの補助よりも重点的に行うべきだと思います。普及による価格低下が見込める高効率設備への補助金も、あった方がいいのかなとは思いますが、簡単に替えられない設備の場合、故障時に大金が必要になるのはどうかと思ったしだいです。エコキュートは最近はかなり安くなったようですが。

      家庭での太陽光発電は、(高断熱にしたうえで)できれば積極的に行うべきことだと思います。ただ、国の政策ミスで歪みが生じているので、制度設計は慎重に行っていただきたいな、と。太陽光発電自体が悪いわけではないのに、賦課金の増加が今後、太陽光なし世帯や経済界に大きな不満を生じさせ、太陽光発電への不信につながるのではないかと危惧しています。今後発生する賦課金の負担は大きくないでしょうし、原子力を利用しないのであればCO2削減には太陽光が最有力です。太陽光発電や蓄電池を利用することは、胸を張っていいことだと思います。電気を使用するだけの我が家は心苦しく思っています。

      ZEH について調べてみたら、国の期待ほど申請が増えていないそうです。現実的に考えるとメリットがある家庭は限定されるので、当然の結果だと思います。国はおそらく、無茶なCO2削減目標を達成するためには住宅分野の改善余地が大きいと考えて割り当て、ゼロエネルギー化を無理に推進しようとしているのでしょう。しかし、ZEH は各家庭にとって必ずしもベストな選択ではないため、このままでは失敗に終わると予想しています。なお、ZEH の件数は積水ハウスが多いようです。主な顧客に、環境意識の高い富裕層が多いからでしょう。一条工務店は多くZEHを建てられそうですが、現実的に考える人が多いせいか、ZEH件数は割合多くないみたいです。

  3. 通りすがり より:

    なんて論理的で全体を俯瞰した議論だろうと感心しました。勉強になります。

    • さとるパパ より:

      コメントありがとうございます。環境・エネルギー問題は個人的に長いこと関心を持っているテーマなので、そう言っていただけると幸いです。
      5年前の記事であり、今読み返すと情勢や意見が微妙に変わっていたりするため、関連記事のリストを追加しました。

タイトルとURLをコピーしました