木造住宅の耐久性を決める要因は何だと思いますか?
よく言われていると思うものを以下にリストしてみます。
- 耐久性の高い木材を使っているかどうか
- 外壁通気層工法かどうか
- 断熱性能の高さ
- 断熱材の種類
- 気密性能の高さ
- 換気が十分かどうか
- ベタ基礎かどうか
- メンテナンスを行っているかどうか
- 工法の違い
どれも重要と思います。しかし、全部にこだわるとキリがなく、どこまでお金をかければ十分なのかは消費者にとって悩みのタネではないでしょうか。
ここでは、耐久性の差を生む決定的な要因は実は 1 つである、という仮説を提起します。
大胆かつ極端な仮説のようですが、これさえ注意すれば 20 年で劣化することは防ぐことができ、少なくとも 40 年は健全な状態を保つことができると思っています。これから根拠を述べるので、みなさんも批判的に考えてみてください。
耐久性のある木造住宅とは?
最初に、「耐久性のある木造住宅」とは何か、どう評価すべきかをはっきりさせておきたいと思います。
耐久性とは、どれだけ長くもつかです。木造住宅の構造部材は木材であり、木材は主に腐朽菌(カビではない)やシロアリによって劣化します(まとめて「生物劣化」と呼びます)。劣化すると強度が落ち、家が倒れやすくなります。
家が壊れるのは何としても避けたい一番の問題です。大地震時には、生物劣化したところで壊れ、露出することがよくあります。
したがって、長期にわたって地震被害を受けないことがわかれば、それは耐久性の高い住宅であるといえるでしょう。
地震被害のデータが示す工法別の耐久性
過去の地震のデータから、在来の木造軸組工法とツーバイフォー(枠組壁工法)の被害を比較すると、興味深いことがわかります。
阪神大震災(1995)が起きた後、その原因については詳細な調査が行われました。その結果わかったのは、木造住宅が倒壊した原因は主に、初期状態の構造強度が足りていないか、劣化しているか、またはその両方であるということです。下図のように、生物劣化を受けた住宅は被害が大きい傾向にあります。
森拓郎:<総説>地震被害にみる木造住宅を長持ちさせる技術, 生存圏研究,13, 19-26, 2017 より
この地震でツーバイフォー住宅の被害が少なかったことは有名ですが、当時、「それは歴史が新しく、築年数が浅いため老朽化していなかったからだ」という意見もありました。
参考 坂本功『木造建築を見直す』岩波新書、2000
もっともな指摘です。それでは、それから 21 年後に発生した熊本地震(2016)ではどうだったでしょうか。
多くの木造住宅が、強度不足と劣化、またはその両方によって倒壊したのは熊本地震も同じです。下図の論文に書かれているように、この地震では、築 1981~2000 年頃の「新耐震」の木造住宅でも全壊・半壊などの被害が多数発生し、その築年代の住宅被害にも生物劣化が影響していることが確認されました。
森拓郎:<総説>地震被害にみる木造住宅を長持ちさせる技術, 生存圏研究,13, 19-26, 2017 より
そんな熊本地震でのツーバイフォー住宅の被害は、日本ツーバイフォー建築協会の調査(PDF)によると、以下のとおりでした(対象地域は上図より広い範囲です)。
阪神大震災のときと同様、ツーバイフォー住宅にはほとんど被害が見られません。ここで注目したいのは、このときのツーバイフォー住宅には、1975 ~ 2000 年頃に建てられた新しくない住宅も 4 割弱含まれていると推測されることです(ツーバイフォー建築協会による全国の着工戸数の推移から計算)。
多数の木造住宅で劣化と耐震不足による被害が生じていた中、同時期に建てられたツーバイフォー住宅には大きな問題がなかったのです。
これらのデータから推察されるのは、ツーバイフォー住宅では長期にわたって問題といえる劣化が発生しておらず、その初期から既に高い耐久性能を有していたということです。これを仮説1とします。
耐久性を決める要因
これをもって、単純にツーバイフォーが優れているとか、工法の違いが耐久性を決める要因だというつもりはありません。もう少し詳しく見ていきたいと思います。
仮説1が真であれば、耐久性能を大きく左右する要因は、「新耐震」(1981~2000)期の一般的な木造住宅(在来工法)と初期ツーバイフォー住宅との差異にあることになります。
このように結果から帰納的に考えると、興味深いことに、冒頭に挙げた要因項目のほとんどが耐久性に大きく影響していないことがわかります。それらが耐久性に影響するにしても、初期ツーバイフォー特有の特徴でない限り、少なくとも、それは初期ツーバイフォー住宅が高い耐久性を有していた理由ではありません。
個別にすべて取り上げるのは大変なので割愛しますが、初期のツーバイフォーで問題ないなら、木材や断熱材の種類(透湿性の高い合板、緑の柱、グラスウールか否かなど)は関係ないし、それほど高い断熱・気密性能は要求されないこともわかります。また、外壁通気層工法やベタ基礎などは、どちらの工法でも 2000 年頃を境に広く普及したため、これらも関係ないことになります。換気設備が義務化されたのも 2003 年と最近(?)のことです。メンテナンスは重要ですが、住んでいて雨漏りがあれば修理し、シロアリが見つければ駆除するのはどの工法でもふつうのことなので、その程度で決定的な差にはならないのでしょう。
それでは、当時の在来工法と初期ツーバイフォーで耐久性の差を生んだ、決定的な違いとは、いったい何なのでしょうか。
それは、壁内の気流の有無ではないかと思っています。
ツーバイフォー工法では壁内部の空間が必ず枠材と面材で囲まれているため、壁内の気流がありません。一方、在来工法の壁内空間は、気流止め(通気止め)を設けなければ、床下とも小屋裏とも空間的に繋がっています。これが問題になることは、『本音のエコハウス』で高断熱住宅の生みの親である鎌田紀彦先生が詳細に解説しているとおりです。
かんたんに書くと、気流止めがない場合、暖房時に壁内の空気が暖められると、上昇気流が発生します。壁内の空気が小屋裏へ移動すると、その分、室内や床下から空気が引き込まれます。この室内の暖かい空気には水蒸気を多く含まれているため、外壁内や小屋裏で冷やされると結露となり、長期にわたって木部に水分を溜め込むことになります。湿気を含む木材は腐朽菌やシロアリの大好物ですから、木材は急速に劣化してしまいます。
このため、在来工法では、床下/壁間、壁/小屋裏間の気流を木材やシートによってきっちり止める必要があります。気流止めによって、壁内に水蒸気が継続的に侵入する主なメカニズムを止めることができます。しかし、当時の在来工法の住宅では、これがほとんど対処されていません。
耐久性の差を生む決定的な要因は、この壁内結露対策の違い、というのが仮説2です。
長期優良住宅の耐久性に係る仕様を確認してみても、基礎の仕様、床下換気、床下防湿、木部の防腐・防蟻措置、床下地面の防蟻措置、浴室等の防水措置、小屋裏換気、床下空間の高さ、点検口の設置という項目があるだけで、気流止めのことは書かれていません(たしか断熱の項目で推奨されている程度だったと思います)。
そんなに大切なことがあまりに軽視されている現状が理解できず、いくら原理がわかってもやや疑問に感じていたのですが、今回、ツーバイフォーと一般在来工法の震災被害を比較したことで、気流止めの重要性が私の中で確信に変わりました。それ以外に有力な違いが思い当たらないので。
近年の住宅の耐久性は未知数?
仮説2で、耐久性の決定要因は「気流止めの有無」と断定したかったところを、「壁内結露対策」と書いたのには訳があります。
前述の論文によると、熊本地震の調査において、築 2000 年以降の木造住宅では生物劣化が見つからなかったとあり、近年の在来軸組工法でもそれなりに高い耐久性能が確保されている可能性があるからです。
近年の在来工法では、気流止めの問題は解決されていないことがありますが、改善点もあります。
特に大きいと思うのは、2000 年以降の住宅では多くの住宅で外壁通気層工法が採用されていることです。気流止めが水蒸気の侵入を止める仕組みであるのに対し、通気層工法は侵入した水蒸気を排出する仕組みです。本来は両方とも採用すべきですが、通気層だけでも壁内結露対策としての効果がある程度は期待できます(効果の程度は壁構成や気密性、通気層の厚みなどによるでしょう)。
また、近年普及している根太レス(剛床)工法は、壁/床下間の気流が止められる構造になっています。壁/小屋裏間の気流止めも必要ですが、床下からの冷気侵入を抑えられることは、壁内結露対策としても断熱効果の点でも以前よりずっとマシでしょう。
ベタ基礎が増えたことも、シロアリ被害を減らすことに寄与していることでしょう(布基礎がダメというわけではありません)。一部で採用されている基礎断熱の場合にも、床下が室内空間になるので床下から冷気が入ることはありません。
これらの対策の程度や組み合わせは個々の住宅によって異なり、まだ歴史が浅いため、気流止めの問題を残したままで今後どれだけ耐久性を期待できるのかは未知数です。
現時点でわかるのは、「在来工法では気流止めがないために耐久性が急速に失われるケースがある(特に 2000 年以前の住宅)」ということです。ツーバイフォーの歴史を考えると、気流止めさえ適切に設置すれば、ほとんどの木造住宅で 40 年くらいは劣化は問題にならないと思われます。それに加えて通気層工法を採用し、防湿層を徹底するなどしていれば、より長期の耐久性が期待できることは明らかです。それなりにメンテナンスしていけば、少なくとも死ぬまでくらいは初期に近い耐震強度を維持できるのではないでしょうか。
在来工法の住宅会社で長持ちする住宅を建てるのに、高コストで特別な対策は必要ありません。特別な材料や特殊工法にこだわるよりも、まずは気流止めを徹底し、それから耐久性を高める一般的な方法をとることがお勧めです。
気流止めは断熱性能にも影響する(断熱材の種類を問わない)ので、この観点からも重要です。
補足
仮説1でいう耐久性は「長期の耐震性を確保する性能」という意味ですが、「生物劣化が進行しないこと」を狭義の耐久性と考えると、以下の場合には、狭義の耐久性が失われていた可能性は否定できません。
- ツーバイフォーは元々の耐震性能が過剰に高く、生物劣化で低下していても大地震に耐えられる耐震性が残っていた
- 軸組工法では土台等の劣化によって柱の踏み外しや筋交いの無効化などが起きるので構造に致命的影響を及ぼすが、ツーバイフォーでは力を分散して受けるため、局所的な腐朽が耐震性に影響しにくい
ツーバイフォーでもシロアリ被害を受けないわけではないし、上記のどちらもありうることではあります。もし、ツーバイフォーで生物劣化が進行していても倒壊しなかっただけだったとしたら、軸組工法で気流止めがある場合に同様に長期の耐震性を確保できるのかどうか(広義の耐久性が発揮できるか)は不透明ということになります。
生物劣化が進行していればツーバイフォーの被害は少しでも大きくなっていたハズなので、たぶん大筋では間違っていないと思いますが、本当はもっと詳細な調査・分析が望まれます。在来工法に限定した、気流止めの有無による長期の住宅調査データなどがあればよいのですが、初期状態の耐震性にバラつきが大きく、適切に施工されているかどうかなど不明な場合が多いので、分析はなかなか難しい感じはします。
ツーバイフォーの広義の耐久性が高いということは、日本の住宅の平均寿命が 30 年で、アメリカ 55 年、イギリス 77 年と比較して著しく短いというデータ(参考)とも関係が深いように思います。
また最後に念のため書いておくと、今回の仮説では、気流止めのある在来工法かツーバイフォー工法の住宅であれば万事問題ないと主張しているわけではありません。大きな欠陥がないことや、一般的に行われているメンテナンスを行うことは当然必要です。
コメント
こんにちは。
今回の内容、大変勉強になりました。
気流止めに関してですが、きちんと施工できる業者を見つけようと思ったら目安みたいなものはあるんでしょうか?
新住協加盟の工務店なら間違い無いとか、指標があれば安心できますね。
ちなみに我が家は2階は剛床施工してあります。
断熱材はアクアフォームで、一階天井にも隅の方は気流止め対策として吹き付けてたと思います。
石膏ボード下地に、昔ながらの横胴縁を施工してあります。
一度、エアコンで開けた穴(普段はエアコンスリーブ菅で閉じてある)に手を入れると気流を感じることがあったので気流止めがきちんとできてるのか不安ではあります。
コメントありがとうございます。
気流止めに関して、「しっかり施工してます」と PR している会社がほとんどないので、かつてほぼ 100% 対応されていなかった気流止めが近年どの程度適切に施工されているのか、どうすれば確認できるのかは私も気になるところです。
新住協は代表理事がこれだけ重要視しているので、新在来木造構法に準拠しているところは特に問題ないと思いますが、そのほかの在来工務店などは正直よくわかりません。
不安にさせて申し訳ありませんが、私なら、まず図面を見て建築会社に確認し、不明点が残るようであればリフォームを手掛けている新住協加盟店や詳しそうなインスペクターなどに相談すると思います。また問題があれば小屋裏結露につながることも多いと思うので、天井のシミに注意したり、冬頃に点検口から木材水分計でチェックするのもよいかもしれません。
気流止めの図面などの解説は以下のサイトが参考になります。
木の香の家 教えて、「断熱さん!」
追記:木材水分計を買って試しに使ってみました。小さな穴を開けることになりますが、かんたんなチェックには使えそうです。→「やっすい木材水分計を買って遊んでみた」
こんにちは。
気流止めってとても大事なのにどの会社も表立ったアピールをしないですよね。
恐らくある程度の知識がある施主にしか説明しても理解出来ないからでしょうか。
「断熱性」は数字で比較するだけなので分かり易いですが、「気流止め」は数字にしようが無いですから。
最近は建売でも工期や耐震性の面から剛床工法を取り入れているHMが多いと思います。
ただ、細かい所まで突き詰めるとプレカットなので剛床工法でも柱と合板の間に隙間が空くと思います。
剛床工法+壁がウレタン吹き付け断熱の場合、外周部はある程度気流止めが出来ていたとしても、気密測定をしていないHMは間仕切り壁部分の柱と床や天井の気流止めはほぼノータッチでしょう。
そこをコーキングや発泡ウレタンで気密処理をしないと床下との隙間から外気が入ってしまいます。
根太工法の気流止め無しよりは圧倒的にマシだとは思いますが…。
在来軸組工法の場合は剛床工法+気密測定をしている会社は気流止めに対しても安心できるのではないでしょうか。
コメントありがとうございます。
気流止めの重要性が一般に普及していないため、通気層工法や透湿性材料などのほうがアピールしやすいのでしょうね。
とはいえ在来工法の建築会社で気流止めについて一切触れられていないと私などは不安になるので、Web サイトやカタログで少しでも書いていただければいいのに、と思います。
上のコメントでも紹介した教えて、「断熱さん!」を見ると気流止めには細かい注意点が結構あるようなので、どこまで対応できているかは建築会社によって差がありそうですね。剛床工法でも壁と天井間の気流止めは不明ですし。
気密測定をしている会社は意識が高いほうだとは思いますが、気密測定で調べるのは室内外の空気の漏れであり、壁内の通気はチェックできないので、必ずしも安心はできないかなと思っています。
こんばんは。
今回も興味深い記事をありがとうございます。
私は、これから新築を考えてる友人達には必ず気流止めがキチンとされているかどうかを確認するように話しています。
それはこの記事にあるように、気流止めが家の断熱性と耐久性を確保するからです。
更に言えば、キチンと気流止めまで施工している会社は、家の構造をしっかり理解していて、他の部分でもしっかり施工してくれる可能性が高いとも思うからです。
これから住宅を購入される方は、各社の宣伝によって何が必要な情報で何が不必要な情報なのかわからず混乱してしまうと思いますが、「気流止めがきちんとされているか」を確認するのが、良いハウスメーカーを見つける簡単かつ精度の高い方法ではないかと個人的に思っています。
コメントありがとうございます。
気流止めの確認は在来工法では非常に大切と思います。ただ、気流止めを行っているつもりでも適切な措置が取られていないケースもあり、素人がきちんと確認するというのも少し難しい気がします。詳しい回答が得られれば大丈夫そうですが、怪しい場合はホームインスペクターなど第三者のチェックを受けるのもよいかもしれません。
返信ありがとう御座います。
確かに天井と壁の間は気流止めのウィークポイントでしょうね~。
剛床工法だけで気流止め不要と勘違いしているHMもあるでしょうし…。
天井と壁の気流止めは桁上断熱にして少しでも気流止め必要箇所の数を減らしてあげれば良い方向に向かうと思います。
お返事ありがとうございます。
まだ新築したてで、早速断熱リフォームを検討するのは、資金的に考えても非現実的なのでもう少し様子みようと思います。
天井のシミについては、発生の有無を注意深く観察していこうと思います。
在来工法は2×4と比べてマニュアルがないので、建設する会社によって差が出てしまうのは大きなデメリットだと思いました。
家を長持ちさせるためにも、加湿をしすぎない、灯油ファンヒーターを使わない、トイレは蓋をする、風呂は必ず乾燥させる、換気は絶対に止めない、これらのことを守って生活していきたいと思います。
また、こうすれば家に負担がかからないよということが他にもあればアドバイス下さい。
今後ともブログの更新楽しみにしてます。
それでは失礼します。
そうですね。ほとんどの住宅は昔よりいろいろと改善されているので、様子を見て、何か異変があったときに原因の一つとして疑ってみるくらいでよいかもしれません。書き忘れましたが、壁内結露は渇きの悪い北面で起こりやすいそうです。
家で加湿しすぎないことも、洗濯物の室内干しに否定的な方もいるくらいなので大事かもしれませんね。わが家で3年目に窓サッシにカビが生えだしたのは加湿のしすぎも一因と思います。
コメントがきっかけで木材水分計が意外と安いことを知り、さっそく買ってみたのでそのうち調べて記事にしてみたいと思っています。
メンテナンス費を抑える方法についても今後調べて書いていく予定ですので、今後ともよろしくお願いいたします。