ダイキンの「うるるとさらら」シリーズのエアコンには、「うるる加湿」という無給水加湿機能が搭載されています。エアコンで加湿できるのはダイキンだけであり、エアコン暖房に伴う乾燥に悩まされる人にとっては非常に魅力的な機能に思えます。
加湿は加湿器で行うこともできますが、加湿器はタイプごとに一長一短あり、タンクへの補水もメンテナンスも、正直いって面倒だからです。
参考
・高断熱・高気密住宅は乾燥する?
・高断熱住宅に向く加湿器の選び方
しかしながら、この「うるさら」機能を搭載したエアコンのクチコミを価格コムなどで調べると、加湿機能が実感できないという苦情が目に付きます。
そこで、この「うるる加湿」の加湿能力はどの程度なのかを定量的に検討し、加湿機能付きエアコンのデメリットはないのかを考えてみたいと思います。
うるる加湿の加湿量
加湿量については、メーカーの Web ページに説明があります。これによると、たとえば 4.0kW(14 畳用)の加湿量は、600ml/h とあります。このとおりなら、24 時間で 14.4 リットルと、結構な量の加湿が行われるはずです。
うるる加湿の現実的な加湿量
しかし注意が必要なのは、その条件です。
測定条件を見ると、「外気温度7℃DB、6℃WB」とあります。DB、WB というのはそれぞれ、乾球温度と湿球温度のことです。湿度はおそらくあえて書かれていませんが、この 2 つの値から計算すると、相対湿度は約 87% であることがわかります。
気象庁のサイトで東京の 2019 年 1 月の気象データを見ると、相対湿度は平均 51% であり、最低湿度は 20% とあります。湿度が 87% もあることはほとんどなく、この加湿量の測定条件が普通ではないことがわかります。
そして、ダイキンによる加湿量の説明には、以下の記述もあります。
※外気相対湿度が20%低下すると加湿量は20%低下します。
つまり、「うるる加湿」の加湿効果は、相対湿度が低いとき(=加湿したいとき)ほど小さくなるということです。
空気の乾燥が特に気になるときの外気の相対湿度は、おそらく30% とかでしょう。仮に 27% とすると、87% と比べて 60% も低い条件になります。そのときの加湿量は、60% 低下と考えると 240 mL/h となります。甘く見た計算として、20% 低下のさらに 20% 低下のさらに 20% 低下なので 0.8 x 0.8 x 0.8 = 0.51 と計算したとしても、約半分の 306 mL/h ということになります。
さらに注意したいのが、この加湿量は風量が最大のときの加湿量であることです。ふつうの使用環境下での加湿量は、カタログ表記よりも大幅に少なくなることが予想されます。
ただ、加湿量が十分でないとしても、消費電力が少ないのであれば、補助的機能として望ましいという考え方もできます。
うるる加湿の加湿効率
うるる加湿の消費電力に対する加湿量(加湿効率)についても確認してみます。
価格コムの売れ筋ランキング1位のスチーム式加湿器(Amazon ページ)の加湿量は、500mL/h です。これは、うるる加湿のカタログ上の加湿量より少なく、実際の加湿量よりは大きいくらいでしょう。このスチーム式加湿器の消費電力は、加湿時 410W = 0.4kW です(沸騰まではもっとかかります)。
うるる加湿の消費電力は、ダイキンのサイトに最大消費電力量として 0.9kWh との記載があります。条件が違うとどう変わるのかはわかりませんが、スチーム式加湿器の加湿時 410W = 0.4kW の消費電力と比較して少ないとは思えません。
また、スチーム式加湿器は、加湿器の中で消費電力が大きいタイプです。消費電力の小さい気化式と比べれば「うるる加湿」の加湿効率(消費電力あたりの加湿量)はかなり見劣りします。
たとえば、売れ筋の次の気化式加湿器における加湿量 500mL/h (風量「中」)の消費電力は、たったの 8W = 0.008kW です。
外気の水分で加湿する仕組みの限界
上記に加え、外気中の水分量は、以下のように気温が低いほど少なくなる関係もあります。
外気温が 7 ℃以下のときは、同じ相対湿度であっても加湿量は減るものと思われます。
外気温が低く、外気の絶対湿度が低いときほど暖房時の室内は乾燥し、加湿の必要性が高まります。しかし、「うるる加湿」はそういうときほど加湿力が低くなるため、本当に加湿が欲しいときほど効果を発揮できません。乾燥しているほど加湿力が高くなる気化式の加湿器とは正反対です。
また、ダイキンの加湿量の説明には、以下の記載も見つかります。
加湿ホースの長さ(配管長)は4mを基準にしています。長さが2m増えるごとに加湿量は約12%低下します。
これらを総合して考えると、「うるる加湿」は効果も効率も優れているといえず、十分な加湿を行う能力はありません。よく見えるのはイメージだけで、実際には非効率的な補助的機能でしかないと私は思います。
給水の手間がかからない点だけは魅力的ですが、それは全熱交換型の第一種換気でも同じことです。外気中のわずかな水分を集めて取り入れるよりも、室内の空気中にある水分を回収したほうが効率的でしょう。また、気密性を高めたり、過剰な換気を減らすだけでも、室内の湿度は保ちやすくなります。
「うるる加湿」はこの機能のためにホースが増えるし、コスト上のメリットはありません。故障のリスクなど、その他犠牲にしているものを考えると必要性は感じられません。そのことが、ダイキンだけが採用し、技術力のある他のエアコンメーカーが追随しない理由ではないかと思います。
なお、加湿はすればするほど結露のリスクも高まります。室温 23 ℃ で相対湿度 40% の露点温度は 8.7℃なので、断熱性能の高い窓サッシでないと窓の結露が問題になります。複層ガラスの樹脂サッシが普及していない日本の住宅では、本当によく効く加湿機能があると逆に問題なのかもしれません。
参考 インフルエンザにかかりにくい絶対湿度を実現するためには高性能住宅が必須
最後に、この記事ではダイキンのエアコン機能に対して批判的なことを書きましたが、ダイキン自体を悪く言うつもりはございません。ダイキンにはむしろ好感を持っています。
ダイキンのエアコンは再熱除湿がないなど、機能的に好みではないにもかかわらず自分の中で好感度が高いのはなぜか。それは、ぴちょんくんが憎めないからかもしれません。
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