「換気ができなければ空気清浄機を使用すればいい」という意見をたまに見かけますが、換気と空気清浄機の効果は異なるものであり、代替できるものではありません。どこかで勉強したわけではありませんが、ちょっと考えてみればわかる基本的なことであり、専門家にとっては当たり前のことだろうと思っていました。
ところが先日、とある空調機器会社のエンジニア(電気系?)と話していたら、その方までもが「換気ができなくなったら空気清浄機で」ということを言っていて、唖然としました。換気と空気清浄機の効果を混同している人は、意外と多いのかもしれません。
そこで改めて、換気と空気清浄機の根本的な違いについて考えてみたいと思います。
換気とは何か?
空気清浄機は空気を処理して汚染物質を除去し、キレイにするものです。
一方、換気とは、室内の空気と外気を交換することです。室内の空気を広大な大気に薄め、均質化するわけです。
結果として空気がキレイになることはなんとなく共通していますが、空気清浄機は除去するのに対し、換気は排出・希釈するため、効果は似て非なるものです。
なお、室内の汚染物質には、気体のものと粒子のものがあります。有害な気体とは、二酸化炭素やホルムアルデヒドなどです。有害な粒子には、アレルゲンを含むチリや、ウイルスなどの微生物が含まれます。
換気にできて空気清浄機にできないこと
以上を踏まえると、換気と空気清浄機では次のような違いが生じます。
あらゆる汚染物質を希釈できるのは換気のみ
空気清浄機を使っている人は、一部の臭いがとれないなど、その限界を感じたことがあるかもしれません。空気清浄機が除去・分解できる物質は汚染物質すべてではなく、一部です。粒子状の汚染物質はともかく、二酸化炭素などの多くの気体には作用することすらできません。
そのため、換気がゼロの場合、空気清浄機で処理できない物質(汚染物質)は室内空気に残り続けるし、処理できない物質が室内から発生している場合、その物質は増え続けてしまいます。
一方、換気は空気自体を入れ替えるので、あらゆる汚染物質に対応できます。新種のウイルスであろうが、毒ガス(放屁など?)であろうが、種類は問いません。
1 時間に 0.5 回の換気回数では、計算上、汚染物質の濃度は 1 時間で半分(外気中の濃度との平均)になるはずです。1 時間で半分なら、2 時間後、3 時間後にはそれぞれ 25%、12.5% と減っていき、24 時間後には 0.000006% と、ほぼ無くなることでしょう。
換気で何でもかんでも薄めてしまうことにはメリット・デメリット(後述)の両方がありますが、とりあえず言えるのは、換気は空気清浄機と違ってオールマイティーだということです。
空気清浄機では最も基本的な空気の調整ができない
室内で汚染物質なんて、そんなに出ていないのではと思うかもしれません。しかし、人間という好気性生物が生きていくためには、少なくとも「呼吸」は必要不可欠です。
学校で勉強する生物の呼吸の式をかんたんに書くと、次式のようになります。
糖 + 酸素 ⇒ 二酸化炭素 + 水 + エネルギー
室内で呼吸していると、酸素を消費して二酸化炭素と水を発生させていることになります。
この呼吸によって室内空気中の酸素・二酸化炭素・水の量が変動するわけですが、空気清浄機はこれらをどれも調整できません。
酸素が減っては息苦しいし、二酸化炭素が増えると悪影響が出てくるし、水分が増えるとやがて結露の原因となります。
これらの問題を解決する方法は、換気しかありません。
以上より、空気清浄機はあくまで補完的に使用するものであり、換気の代わりができないことは明らかでしょう。
換気不足はどんな感じ?
換気が不足するとどのようになり、それはどんなときに起こるのでしょうか。
誰もが経験している換気不足
私がすぐ思い出すのは、寝室に蚊がいて、蚊に刺されないようにと布団に完全に潜ったときの状況です。しばらくは平和に過ごせますが、すぐに苦しくなって呼吸用のすき間を開けなくてはならなくなります。
世の中それほど蚊が嫌いな人ばかりではないとも思うので別の例を挙げると、マスクを着用していて息苦しいのも、換気不足と同じ現象です。この息苦しさは、水蒸気と二酸化炭素の濃度が高く酸素の少ない「呼気」の一部を再度吸い込む割合が高くなるほど、きつくなります。
つまり、マスクが高性能(目が細かい)であればあるほど、装着方法が正しければ正しいほど、息苦しくなってしまいます。ゴリゴリの反マスクの人でない限り、この息苦しさは経験済みでしょう。
換気不足になるのは高気密な住宅のみ
なお、住宅の換気が大事と言われても、自宅での換気不足は感じたことがないという人も多いかもしれません。ほとんどの住宅にはすき間があり、C値でいうと5 cm2/m2 以上のすき間があれば、自然に生じる換気で最低限必要な換気量が確保できるため、換気不足にはなりにくいことでしょう。
C値が 5 未満となる気密性の高い住宅は、次世代省エネ基準(1999)以降の住宅か、鉄筋コンクリート造のマンションが主であり、その多くの住宅には換気装置が付けられています。それ以外の住宅には十分すぎるすき間があるので、換気不足はあまり問題になりません。
換気不足が問題になるのは、高気密な住宅で換気を行わなかった場合に限定されます。高気密な住宅に住む人は、換気がきちんと機能しているかどうかを少しだけ意識しておくことをお勧めします。
そんな状態でもなんとか生き延びることができたのは、窓を開けていたからです。私は空気質に鈍感ですが、同居人(妻)が敏感で息苦しさを感じ、一年中、常に窓を開けていたのでした。潜った布団にすき間をつくるのと同様、人間は換気不足とその対応を本能的に行うことができるようです。
換気のデメリット
そんな換気にもデメリットはあります。有害物質だけでなく、熱や水分も均質化するからです。夏と冬の外気の温湿度が不快な時期は、その不快さも取り入れてしまうことになります。このような時期は、多すぎず少なすぎずの適度な換気量を維持することが大切です。簡単ではありませんが、風に影響されやすい「すき間」に依存せず、高気密住宅で機械換気を行うのがよいでしょう。
また、換気には、外に有害物質がある場合、それも取り込んでしまうという問題もあります。WHO 等によると、大気汚染による年間の死者数は世界で約700万人、日本で約3.7万人ほどだそうです(参考PDF)。日本の空気はマシですが、花粉、PM2.5、黄砂、排気ガスなどは問題になることもあります。
給気口にフィルターを付ければ多少は除去できるかもしれませんが、フィルターが細かいほど・汚れるほどに給気量が落ち、その他のすき間から流入する換気量が増えてしまうため、そう簡単ではありません。そこはやはり、空気清浄機の出番かもしれません。
ちなみにわが家はというと、全館空調に空気清浄機の機能が組み込まれているため、現在は空気清浄機を使用していません。ただ、将来的に給気ダクトが汚れてきたら必要になるかもしれないとは思っています。
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