熱交換タイプの第一種換気システムは省エネであり、一般的な第三種換気と比べて暖冷房費を節約できるといわれています。
しかし、宣伝広告においては、温度交換効率に暖房費用を乗じるだけの計算を行い、省エネ効果を誇張しているケースも少なくありません。
実際には、熱交換換気があることで換気システムの消費電力が増えるため、省エネ効果を評価するときには、その消費電力の増分を考慮しなくてはなりません。
この消費電力の増分を考慮する方法として、「みかけの換気回数」を計算する方法がありますが、これはやや理解しにくいことが難点です(詳細が気になる方は検索してみてください)。
そこで、熱交換換気の省エネ効果について、消費電力を考慮したうえで、どれだけの省エネ効果が期待できるかをカンタンに試算できる計算ツールを作成してみました。
いくつかのパラメータを設定すると、換気と暖房に必要な消費電力の合計を、第一種と第三種とで比較することができます。ここでの暖房の消費電力は、換気にかかわる暖房のみを対象とし、壁や窓経由(熱伝導)の熱損失に対応する暖房消費電力は考慮しません(換気方式が違っても同じで差がないため)。
たぶん、難しくありません。
熱交換換気の省エネ効果計算ツールについて
以下の計算フォームでは、7つの入力パラメータ値を設定し、「計算」ボタンを押すことで、ひと月に節約できる消費電力量と節約額を試算することができます。
すべてのパラメータには、参考として初期値を入れていますが、数値は地域や個々のケースによって異なるので、お好みで調整してください。
「計算」ボタンの下には、計算過程がわかるように8つの項目を設けています。それぞれ算出方法を示しているので、一度はその意味を確認していただけると幸いですが、結果だけ知りたい場合は末尾の2項目だけを見ていただいてもかまいません。
初期値の補足
初期値の一部について追加で説明しておきます。
換気量は、延床面積 100㎥くらいで天井高 2.4m、換気回数 0.5 回以上で、安全係数をかけるとこのくらいかなという値にしました。
内外温度差は、東京の1、2月の平均気温が約 6℃なので、室温を 23℃とした場合の温度差としました。
第一種換気設備の消費電力は、近年の設備をいくつかチェックしてみて、このくらいかなという数値をセットしました。消費電力は、「比消費電力」という数値がわかる場合、それに換気風量をかけることで計算できます。わが家の場合、この消費電力が 118 W もあるので、省エネ効果はかなり少なくなります。。
第三種換気設備の消費電力は、換気設備によってかなりの差があります。調べた限り、このくらいの換気量に対して、3W ~ 40W くらいでした。わが家のレンジフードの常時換気機能(170 ㎥/h)は、5W でした。
熱交換効率は、次の記事に書いたように、実際の使用環境ではカタログ値より劣ることが多いと思われます。
電気単価は、2023年春の東京電力管内の規制料金を参考にしましたが、地域やプランによってかなりの差があります。燃料費調整単価と再エネ賦課金は含めたほうが現実的でしょう。
このツールの注意事項
このツールの計算では、以下のことを前提としています。
- 室温を一定に保つように暖房を連続的に使用している
- 暖房はエアコンなどのヒートポンプを使用している
- 高気密で、すき間からの漏気がない
- 局所換気や有効換気量率は考慮していない
そのため、基本的に省エネ効果が大きく出るような試算になっており、実際は次のようになります。
- 暖房をときどき使用する使い方では省エネ効果が落ちる
- 高効率エアコンほど省エネ効果が落ちる
- C値 1 以上など、気密性が悪いほど省エネ効果が落ちる
- 局所換気を使用するほど省エネ効果が落ちる
試算して思ったこと
上記ツールの計算の意味が理解できたら、是非、いろいろと数値を変えて試算してみてください。
私も、わが家の数値を使用して、いろいろな月の内外温度差を入れてみました。
その結果、省エネ効果は内外温度差が 10 ℃以上あるような寒い時期(11月~3月頃)にしか得られず、その節約額も大して期待できないことがわかりました。それ以外の季節は、ただの赤字です。
第一種換気の設備は初期費用も更新費用も高コストなことを考えると、絶対に元はとれないと思いました。
一番のネックは、換気設備の消費電力が大きすぎることです。最近は、機種によっては初期値のように消費電力が小さいものもあるので、熱交換換気の導入を検討する場合、消費電力をチェックすることは重要です。
わが家のケースは置いておくとしても、熱交換型の第一種換気システムで省エネを実現することは簡単なこととは思えません。ただ採用するだけでなく、気密性能にこだわり、消費電力が低い換気設備を選定し、局所換気を含めて適切に設計する必要がありそうです。
トータルコストを下げることを重視した住宅には、お勧めはできません。
とはいえ、熱交換型第一種換気の効果は省エネだけではありません。多少コストがかかっても、省エネ以外の効果を期待するのであれば、採用を検討してみる価値はあるかもしれません。
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