気密測定には通常、万単位のお金がかかります。正確なC値を測定するには、専門業者に頼むしかありません。しかし、それなりの気密性能が確保できているかどうかをチェックしたり、気密性能が上がったか下がったかの変化を測定するだけなら、自分でもできるのではないでしょうか。
ここでは、気密の簡易的な測定法について、調べて見つけた方法と、自分で考えた方法を紹介したいと思います。
基本の気密測定
きちんとした気密測定がどのようなものなのかは、以下のページが詳しいです。
正確な C 値を出すには、このような方法しかありません。
後で紹介する簡易的な方法においても「目張り」や「実質延べ床面積」などの考え方は同じなので、一読をお勧めします。
換気が機能しているかどうかの気密チェック法
C値はわからずとも、換気が機能しているかどうかなら、かんたんにチェックできます。
ティッシュを使う方法です。
以前、「換気が効いているかどうかを簡単にチェックする方法」という記事でもティッシュを使う方法に触れましたが、ちゃんとした建築事務所の方もティッシュを使う方法を次のブログ記事で紹介していました。
わが家は自然給気口がない第一種換気なのでドア下の気流を調べましたが、こちらは自然給気口の近くの気流をチェックしています。第三種換気限定の方法ですが、「窓の開閉による変化を見る」という点が流石です。
C値はただの目安であり、本当に大切なのは、計画換気が計画通りに行われているかどうかです。それをチェックできるこの方法は、簡便にして必要十分なのではないかと思います。
差圧計を用いた簡易気密測定法
もうちょっと詳しく調べてみたい、という方には、YouTube「ラクジュ建築と不動産」チャンネルの次の動画の方法がお勧めです。
ここでは、差圧計とレンジフードを使った気密測定法を紹介しています。
実験の内容だけでなく、お話の内容も大変参考になります。
やや難しいのは、差圧の解釈です。
相当隙間面積(C値)と差圧(⊿p)の関係は、以下のような感じです。
この実験では、レンジフード強(仕様上の風量は 400 m3/s ほど)、C値 1.9、床面積 101 ㎡ の条件で差圧が 16 Pa になっていました。レンジフードのタイプ(シロッコファンかプロペラファンか)や他の条件(風、家の大きさなど)にも依存するので大まかなことしかわかりませんが、以下のような感じだそうです。
- 測定できないほど差圧が小さいならば C 値 5 以上の低気密
- 10 Pa 以上であればある程度の気密があり、
- 20 Pa 以上では高気密
ただ、差圧計は2万円ほどしますし(以下参考商品)、簡易でも室外への配管が必要になります。それで C値の具体的な数値がわかるわけではないので、自分でやる気になるかというと、ちょっと微妙です。
差圧と床面積とC値の関係
ここはマニアックなので読み飛ばして結構です。
換気口メーカー・ユニックスのページの説明によると、差圧(⊿p)は、通気量(㎡/h)の二乗に比例し、相当隙間面積(αA)の二乗に反比例します。ここでの相当隙間面積(αA、単位 ㎠)は、床面積当たりの隙間を示すC値(㎠/㎡)と同名ですが意味は異なります。家全体の合計の相当隙間面積(㎠)であり、C値に床面積をかけた値です。
差圧が相当隙間面積(㎠)の二乗に反比例するということは、通気量とC値が一定の場合、住宅が大きいほど差圧は小さくなります。
おそらく、気密測定器は、通気量と差圧から相当隙間面積(㎠)を出し、入力した床面積で割ることでC値(㎠/㎡)を計算する仕組みなのでしょう。
差圧計を用いた方法では、レンジフードから排出される通気量を正確に測定することが難しいので、C値を正確に出すことはできません。しかし、レンジフード強の通気量を同程度とみなせば、大まかな比較はできるというわけです。
ちなみに、上記動画の条件でのレンジフードの通気量をユニックスの式で計算すると、約 360 ㎥/h となりました。この通気量(Q)は圧力に依存しますが(圧力が高いほど小さくなる)、仮に Q=360、空気の密度を 1.2 とすると、大雑把な C 値を次式で計算できます。
\(C=\dfrac{1000}{S\times \sqrt{\dfrac{\Delta p}{0.6}}}\)
ここで、S は床面積(㎡)です。
計算フォームまでは作成しませんが、関数電卓がなくても、Google 検索バーに次のように数値を入れれば計算できます(パラメータは数字に置き換えてください)。
1000/(S*(⊿p/0.6)^0.5)
または 1000/(S*sqrt(⊿p/0.6))
試しに、S=101、⊿p=16として入力すると(例)、C=1.9 と計算できることがわかります。
さらにマニアックなことを書くと、C 値 1 を切る住宅でもレンジフードでの測定は不可能ではありません。それは、いくつかの給気口(第三種換気の場合)を開け、差圧が 16 Pa 前後になるように調整すればよいのです。給気口の相当隙間面積は説明書に掲載されています。差圧と Q=360 から相当隙間面積(αA)を計算し、そこから開けた給気口の相当隙間面積の合計を引くと、住宅本体の相当隙間面積が計算でき、床面積で割るとC値が出るというわけです。
荷物用はかりを用いた簡易気密測定法
最後に紹介するのは、私が考えてみた簡易測定法です。C値が1以上でどのくらいのレベルにあるのかをチェックできます。
使用するのは、レンジフードと荷物用はかり(ラゲッジチェッカー)と玄関ドアです。差圧に比例するドア開放力を測定するわけです。
原理
高気密住宅でレンジフードを使うと室内空気の負圧が大きくなり、玄関ドアが開きにくくなる現象を利用します。調べるのは、このドアを開けるのに必要な力(ドア開放力)です。ドア開放力は、ドアノブに荷物用はかりのヒモを通し、少しずつ力を入れていって、ドアが開く瞬間にかかる力を測定します。
初期状態(窓を開けた差圧ゼロの状態)と、窓を閉め切ってレンジフードを稼働させた状態とのドア開放力の差を調べることにより、負圧時にかかるドア面にかかる圧力の大きさを測定するわけです。
ドア開放力に差があればあるほど高気密で、ドア開放力に差がなければ低気密ということになります。
このドア開放力から差圧を計算することもできます(後述)。
レンジフードの実際の風量が不明なので正確な C値を出すことはできませんが、一度この大きさを測定しておけば、風のない日に同じ条件で繰り返し測定することにより、気密性能の変化を簡易的にチェックすることができるのではないでしょうか。
こんな単純な方法なので精度はよくありませんが、私は気密改善計画の実施前後でこの方法を使ってチェックしてみようかと思っています。
ドア開放力から差圧を計算する
参考までに、ドアのサイズさえ測定すれば、ドア開放力から差圧(室内外差圧)を計算できます。
差圧を計算すれば、上記のC値の目安と照らし合わせることもできます。
ドア開放力(F)から差圧(⊿p)を計算するには、以下のように、ドアのヒンジを中心としたモーメントのつり合いを考える必要があります。
計算に必要なドアの寸法は、ドア幅(W)、ドアのヒンジからノブの付け根までの幅(Wk)、ドアの高さ(H)です。
久々に積分方程式を解いてみた結果、次式が導出されました。
\(\Delta p=\dfrac{2\times F\times Wk}{H\times W^{2}}\)
以下に計算ツールも載せておきます。初期値はわが家の玄関ドアの参考値なので、適宜変更してください。
上記のパラメータで表すと次式になります。
\(F=\dfrac{\Delta p\times H\times W}{2}\)
\(\Delta p=\dfrac{2\times F}{H\times W}\)
W = Wk と見なすと私の式と同じになるので、私の細かい式のほうがより正確かと思いますが、簡易式だと ⊿p が数%大きく計算されます。
試しに測定してみた
なるべくきちんと測定するには換気を止めて目張りを行いますが、まずは簡易的に、レンジフードに連動する給気口だけを開かないようにして、ドア開放力を測ってみました。
ドアは、玄関ドアと、勝手口ドアの2つの開き戸で測定しました。
すると、レンジフードを稼働する前はまったく抵抗なく開いた勝手口ドアが、レンジフード「強」では明らかに開きにくくなっています。
玄関ドアは、最初から少し重めですが、レンジフード稼働でさらに重くなっています。この差の力から計算される差圧は、玄関ドアも勝手口ドアもほぼ同じでした。
数百グラム単位で測定できるほどの差圧は発生するようです。
このわが家の測定結果については、今度、別の記事にまとめたいと思います。
もし、実際に測定された方がいらっしゃいましたら、コメントで結果をお知らせいただけると幸いです。ドア開放力に加え、可能であれば、差圧(Pa)、換気扇の仕様上の風量、住宅のC値と床面積、換気方式(第一種、第三種)、どの程度の目張りを行ったか、などの情報もあると助かります。ブログなどをお持ちの方は、記事のURLを貼り付けていただくことも大歓迎です。情報が多ければ、C値推定の精度が増すかも?
使用した荷物用はかり
ドア開放力を調べる測定器は、水平にドアを引く(または押す)ときの力を 5kg くらいまで測定することができれば、何でもよいと思います。
参考までに、私が購入した荷物用はかりは、ドリテックの LS-101WT です。
キッチンでも同メーカー品を愛用しているので、中国製ですが日本のメーカー品にしました。
最初は百円ショップでバネばかりを買おうと思ったのですが、意外と見つからず、ネットで探して見つかったばねばかり(こんなの)も千円を超えていたため、それより安かった荷物用はかりを購入しました。吊り下げ式のデジタル式です。
本当はアナログ式のほうが好きですが、この荷物用はかりは 50kg まで 50g 単位で測定でき、ストラップをドアノブに通してすぐに測定できるので、ドア開放力の測定にピッタリです(本来は、飛行機の荷物の重量チェックや、宅配便の重さチェックなどに使うものです)。
この製品は現時点ではYahooショッピングで安く購入できますが、安く販売している店は少ないので、使える物なら何でもいいと思います(上記のばねばかりや釣り用スケールなど)。
あと、目張り用に養生用テープがあると便利です。
コメント
いつも拝見させていただいております。
有益な情報を配信していただいて、ありがとうございます。
簡易気密測定について質問させてください。
私の家(建築中)も第一種換気を採用しているのですが、レンジフードは同時給排気型を採用しております。
排気だけではなく給気も同時に行ってしまうので、当記事の測定方法は使えませんよね?
レンジフードが同時給排気型でも出来る簡易気密測定があれば、教えていただけると幸いです。
よろしくお願いいたします。
コメントありがとうございます。
同時給排気型のレンジフードの存在を忘れていました。。
単なる思い付きですが、この簡易気密測定法は、とにかく室内空気を排気して負圧にできればよいので、使える排気の換気扇を総動員すればレンジフード「強」並の風量が実現できるかもしれません。
わが家の場合、風呂の換気扇は「強」で約 100m3/s、トイレ換気扇は「連続」で約 50m3/s x 2 あるので、合計約 200 m3/s です。
C 値 1 くらいで大きすぎない住宅であれば、これでも差圧を確認できるかもしれません。
また、同時給排気型のレンジフードでも、常時換気機能があれば、おそらく排気のみで 170m3/s ほどなので、合計で 400 m3/s 近い風量が出せるのではないでしょうか。
正確な風量がわからないのが難点ですが、私も今度やってみて報告したいと思います。
いつも読ませて頂いて勉強になっております。
当方昨年12月に新築し、ここ4ヶ月で床下に潜り大引きとフェノバボードの間の気密テープ貼りや配管貫通部をウレタンで塞ぐなどのリカバリーを実施致しました。
そうしたところさとるパパさんの簡易測定法で差圧が56Δpから85Δpまで改善致しました。
ただ,まだコンセントや屋根点検口から風を感じます。
当方の住宅は壁及び屋根が吹き付けウレタンで施工(気密シートなし)されており床断熱(フェノバボード)です。住宅メーカーに確認したところ壁内や小屋裏の空気を引っ張って来ているだけで隙間が多い訳ではないと思う旨回答を受けました。どうも納得できないので意見を聞かせて頂きたくコメントさせて頂きました。
ただ、当方のレンジフードは同時吸排気ではなく現状で強運転で玄関ドア開放力が12.5kg重となりこれ以上気密改善を行った場合の負圧による住宅への影響も心配しているところでもあります。
コメントありがとうございます。
簡易測定法で気密改善が確認できたとのこと、おめでとうございます。
諸条件は不明ですが、大まかに推計して、C値 1.0 前後から 0.7 前後といった程度に改善したのではないでしょうか。
吹き付け発泡ウレタンで施工した場合のC値は一般に 2.0 以下程度ですので、「隙間が多い訳ではない」という回答はその通りだと思います。
「壁内や小屋裏の空気を引っ張って来ているだけ」かどうかは、レンジフードで負圧にしてしばらく経ってからも気流があるかどうかで判定できます。
引っ張ってきているだけであれば、その気流はレンジフード始動直後だけで、やがて止まるはずだからです。
いずれにしても、すでに高気密といってよいレベルですので、特に問題視するほどではなく、気になる箇所があれば気密改善を行うのは問題ありませんが、その場合の簡易測定は不要と思います。